第540話 防衛ラインを突破した後に――〈ジェネラル〉。
時は少しだけ巻き戻り。
〈58組〉が25人で南防衛ラインに侵入したその後、〈58組〉は戦力を二分せざるを得なかった。
立ちはだかるは【ロリータヒーロー】のルル、そして【魔装】系の三人娘。
たった4人。
しかし、その4人に〈58組〉は大きく翻弄されたのだ。
――【ロリータヒーロー】は強い。
ゼフィルスいわく、〈ダン活〉の
しかもそれに加え、あの体格だ。
ルルの回避能力とあいまって、――結果〈58組〉は大きく翻弄された。
さらに何人かがルルを無視して防衛ラインを突破しようとしたところでサチ、エミ、ユウカがスリーマンセルでこれに食いつき、各個撃破されてしまう。
しかしそれでも相手はたった4人、さすがに陣形が乱れていようともすり抜けるのはそう難しいことではなく、さらに防衛ラインの奥へと〈58組〉は進んだ。
だが、それで突破できるほど甘くはなく、次に待っていたのは【オーブメイジ】【ウィザード】【大槍士】【大撃槌士】【シャドウ】の〈1組〉女子5人が受け持つ、第二防衛ラインだった。
〈1組〉の防衛ラインは南と東の2箇所。
南側には9人が配置され第二防衛ラインまでを築き、ラナの遠距離支援回復を受けつつ敵の攻勢を妨げる形となっていた。
東側はミューとシズが主に相手をして、上空からの遠距離攻撃と地雷などの罠による構成での足止めする形だ。
そして、陣形も乱され、縦に大きく伸びきった〈58組〉は、高位職たちの攻撃にさらされて大きく数を減らしながらも、何とか12人を防衛ラインの向こう側に送り込むことに成功したのである。
この時点で〈1組〉の被害は【大槍士】【大撃槌士】【シャドウ】の3人が退場している。
しかし〈58組〉の被害は7人にも上り、12人を送り出し残り6人がルルたちの足止めに残った。
「多大な犠牲は払ったが、抜けたぞ! この勝機を逃すなぁ!!」
南防衛ラインにいたのは9人。〈1組〉本隊は外に出ているという情報を掴んでいたため拠点の守りは手薄だろうとアトルトアは判断している。
突破した12人も、ギリギリ生き残っていたリーダーアトルトアに率いられて〈1組〉拠点に突撃する。
しかしそこにそれは現れた。
「ここまで来られるとは見事、と言えましょう。ですがここからは通すことはできません。『古式精霊術』! 『大精霊降臨』! 『テネブレア』!」
まず現れたのは闇の大精霊テネブレア。
漆黒の髪と紫の瞳の少女と女性の中間のような大精霊。デバフと魔法攻撃により相手を足止めするのを得意とする。
「テネブレア様、お願いします」
「――――」
「か、体が!? 強力なデバフです!」
「まずい! 回復役がいないぞ!?」
デバフの回復役をルルのところにおいてきてしまった〈58組〉はここで痛恨の大打撃を受けることになる。
さらに、だ。
「ここは私に任せなさい! やっと私の出番よ! 『聖光の耀剣』! 『聖光の宝樹』!」
ここでラナ登場。
今まで南防衛ラインの後方でルルたちの回復をサポートしていたラナだったが、〈58組〉が防衛ラインを突破しそうということで拠点まで戻ってきていた。
〈白の玉座〉に座ったラナの攻撃魔法がじゃんじゃん飛んで行く。
「タンク、ガードしろ!」
「うおおおおおっ!! ――ぎゃー!?」
「タンクが吹っ飛んだ!?」
〈58組〉とシェリア、ラナでは能力値に大差があった。
タンクすら吹っ飛び大きなダメージを負う攻撃を繰り出し〈58組〉の勢いが弱まる。
しかし、ここで拠点までたどり着いた男子2人がいた。正面からでは不利と見て回り込んだのだ。いくら火力があるからといって未だ数では〈58組〉が有利、だったが……。
「おっしゃ。俺様一番乗り!!」
「落としてしまってもいいのだろう!!」
威勢よく攻撃態勢に移った彼らだったが、そこに上空から巨体が目の前に降ってきたことで勢いが止まった。
ズドンッと、とても着地音とは思えない音を響かせて現れたのは何を隠そう、ゼフィルスがノリで用意した凶悪な防衛ボスモンスター。
――〈ジェネラルブルオーク〉だった。
「ブルオオオオォォォォォォォッ!!」
「「えええええーっ!?」」
体長2m半。右手に鉈のような形の大剣を持ち全身に甲冑鎧を装備した武将のような
そんな隙を〈ジェネラル〉が逃すはずもなく。
「ブルオオオォォォォォッ!!」
「ちょ、待って――うぎゃあぁぁぁ!?」
「なんだこ――ああぁぁぁぁ!?」
ズドンと音の鳴るほどの踏み込み、そして続いて振られたスキル『鬼将軍の薙ぎ払い』で男子2人が綺麗に吹っ飛んだ。
さらに〈ジェネラル〉による追撃により、勇ましかった男子2人は退場してしまう。
「う、うおおお!? なんじゃありゃーー!?」
その光景を見ていたリーダーのアトルトアが盛大に叫んだ。
どうやらゼフィルスの仕掛けたサプライズボスは狙い通り相手の度肝を抜いたらしい。
「あ、あれは〈ジェネラルブルオーク〉だ!? 中級上位ダンジョンのフィールドボスだ! 俺図鑑で見たことあるぞ!」
「
クラスメイトの報告に盛大に
いくら弱体化しているとはいえボスはボス。しかも
コスト70は伊達ではなく、倒すためには普通に何人もの人員が必要で有り、また大きな被害が出る可能性も高い相手だ。いや、すでに奴によって大きな被害が出ている。
しかし、マズい。今のでラナの攻撃も合わせて3人が屠られたのだ。残り9人。
このまま拠点へ突っ込んでも全滅の空気が漂い始める。
「ブルオオォォォォォッ!!」
「ひぃぃぃぃ!! 〈ジェネラル〉が来るぅぅ!?」
「助けてぇ!?」
「くっ! とにかく一旦離れるぞ! 防衛モンスターは拠点からは離れられない!!」
一旦引いた所で後方にルルたちがいる以上、時間を掛けるのは悪手だと分かってはいるが、リーダーアトルトアには他に選択肢は無かった。
それに希望が無い訳では無い。
「リーダー! 東側に複数の人影!」
「!! 〈15組〉です! 〈15組〉がやってきました!」
その吉報を聞きつけたアトルトアが喜色を浮かべる。
「おお! 助かる、助かるぞみんな!! 進路を〈15組〉へ向けるぞ! 一旦合流するんだ!」
「リーダーお待ちください!? 挟撃した方が良いのでは!? 合流すれば両クラスとも全滅の可能性もあります! 成功率が著しく落ちますよ!」
その苦言は尤もだった。
〈1組〉拠点に人が少ないというのは事実。このまま〈58組〉が防衛モンスターを受け持ち〈15組〉が攻め込めば、数に対処しきれずに〈1組〉の拠点を落とせるかもしれなかった。
しかし、そんな当初の予定を、アトルトアは拒否した。
「うるさい! このままでは〈58組〉を犠牲に〈15組〉の一人勝ちだ! 全滅なんて同盟を組んだ意味がないだろう!」
アトルトアは〈ジェネラル〉に完全にビビっていた。
あんなの相手にしても全滅するだけだ。〈58組〉が他のクラスと同盟を組んだ目的は『生き残ること』。〈15組〉が〈1組〉を落としてくれるのは歓迎するが、自分たちが全滅してしまえば意味が無い。
そう言われてしまえば苦言を進言した男子も言い返すことはできない。
「合流だ! このモンスターは〈15組〉と共に対処する!」
「……分かり、ました!」
「全員付いてこい!」
「「「おう!!」」」
こうして話は〈15組〉と〈58組〉が合流する場面に戻る。
〈58組〉はさらに2名の犠牲を払いながらも〈15組〉と合流することに成功。そのまま拠点へと進む。
◇ ◇ ◇
視点は〈1組〉拠点へと移る。
「――『大聖光の四宝剣』! 私たちの力、どんなものよ!」
目の前で逃げ惑う、いや仲間と合流しようとする〈58組〉にビシッと指を差して決めゼリフを言うのは、〈白の玉座〉に座るラナだ。
「数は多いですが、戦力はそうでもありませんでしたね。ルルが上手く相手の数を減らしてくれたようです」
その隣に立ち感想を言うのは、この拠点の防衛指揮を任されているシェリア。
〈エデン〉の中でもトップのINTを誇るシェリアの
そしてマスを移動した大精霊の攻撃は、マスを超えたことによる威力の減退効果を受け付けないのだ。
これは大精霊という発射装置自身がマスを超えているためである。所謂移動砲台だ。
召喚されたモンスターなどはこの減退効果を受けづらい。マスを移動しただけで召喚モンスターが消滅したりすると【召喚術師】系の
今では〈ジェネラル〉と組んで〈58組〉と追いかけっこも楽しめるようになっていた。
追い立てているところにラナの『大聖光の四宝剣』が直撃し、さらに2人が退場。
防衛は非常に順調だった。
「あ、二つのクラスが合流したわね」
「合計17人。さらなる襲撃者の数は無いようですね。一箇所に固まってくださるとは――助かります」
「この程度の数で〈1組〉の拠点を落とそうなんてできないってところを見せつけなくっちゃね」
「……おそらく最初は40人以上で攻めてきたと思われますが。これで落とせないとなると、観客も相当驚くでしょうね」
来る相手にウキウキはしゃぐラナとは対照的に、シェリアは一度北西にある観客席にチラリと視線を送った。その視線はなんとも言えない目をしていたのだった。
二つのクラスが合わさった同盟軍が動き出す。
それに立ち塞がるのは大精霊とボスモンスター、そして9匹のウルフたち。
そして、五つの盾を装備したシエラが、道を塞ぐ。
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後書き
近況ノートに添付で図を貼り付けました!こちらからどうぞ↓
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