第541話 上級職お披露目。シエラの対集団防御戦法。




〈1組〉拠点の北側。

 少し拠点から離れたマスで〈58組〉と合流を果たした〈15組〉は、すぐに防衛モンスターや拠点からの強力な攻撃などの情報を吸い上げた。

 さらには南側防衛ラインからはっちゃな超強ヒーローちゃんが追って来ているとの情報も合わせて共有し、改めて時間が無く、速攻で〈1組〉の拠点を落とさなければならないということがハッキリと分かった。


 問題なのは、例の防衛モンスターである。

 入学半年足らずのクラス対抗戦で中級上位ちゅうじょう級ボスを投入してくるなんて、もうなんて言ったらいいかわからない。

 想定される〈ジェネラル〉のLVは70前後。


〈58組〉の平均LVは44程度で〈15組〉は平均LV48ほどだ。攻略階層はやっと中級下位チュカを攻略し始めたところ。

 どう考えても足りない。全員で相手をしても全滅する可能性すらあった。


 しかし誰かがあれを押さえなくてはならない。

 そうなると押さえることのできる人物はこの場に1人しか居なかった。


「俺がやるしかあるまい」


「リーダーナイヴス、頼みます。我々では手に負えません」


〈58組〉リーダーアトルトアの心底無念そうな呟きにナイヴスは腹立たしそうな視線を向ける。


 本来なら〈58組〉が足止めしている間に〈15組〉が拠点を落とす心算だった。

 しかし、〈58組〉は逃げた。これでは成功率はかなり落ちてしまうだろう。

 だが、予想以上の大物が出てきてしまったためにこれは仕方ない部分もあり、ナイヴスはしぶしぶ受け入れたのだ。


「アトルトア、その代わり〈58組〉は〈15組〉の指揮下に入ってもらうぞ」


「……了解しました」


 ナイヴスの厳しい視線にアトルトアは頷くしかない。


「よし、これより突入する! 数の利を活かし、〈1組〉の拠点を落とすのだ!」


「「「おおおぉぉぉぉ!!」」」


 悠長に作戦会議している時間は無い。

 すぐに決行を決めると〈15組〉〈58組〉同盟軍は、〈1組〉の拠点に向けて走り出した。


「む! 人がいる!」


 その人影に気がついたのは先頭を走る〈15組〉リーダーのナイヴスだった。


 拠点から北へ1マスの位置。

 立ち塞がるようにして複数の防衛モンスターが配置され、さらに大盾を装備した1人の女子が中心に立っていた。

 たった1人と防衛モンスターでこの二つのクラスが合流した17人を相手にする気のようだ。


 マスとマスの境目、その手前に1人立つ少女、シエラが駆けてくる同盟軍へ向けて言葉を放つ。


「ここから先は、通さないわ」


「たった1人で防衛する気か! その度胸は誠に見事なり! しかし、たった1人で何ができる! 押し通る!!」


〈15組〉ナイヴスが大声で答え、そのまま遠距離攻撃を指示する。


「――放て!!」


「『アイスクリスタル』!!」


「『シャインアームロケットパンチ』!!」


「『マジックビーム』!!」


「『アイシクルジャベリン』!!」


「『ライトニングハープーン』!!」


 迫り来る5つの攻撃にシエラはなんの気負いもなくスキルを発動した。


「――『四聖操盾しせいそうじゅん』! 『マテリアルシールド』!」


 直後に左右の腰と腿の後ろにある小盾がポゥっと光って動き、続いて魔法攻撃に強い防御スキルを使ってガードした。

 そして全ての攻撃を5つの盾で完全に防いだのである。シエラへのダメージはほとんど無い。

 いや、まったくダメージを負っていなかった。


「何!?」


「バカな、無傷!?」


「なんだあの盾!? 浮いてるぞ!?」


〈15組〉リーダーナイヴスがシエラのHPバーを見て驚愕に叫ぶ。

 まったくダメージを負わない、そんなことはあり得ない。

 防御スキルは万能では無く、あくまで防御のスキルなのだ。故にほんの少しのフィードバックを受ける。完全にダメージを受けないということはタイミング良くパリィするくらいしか無い。しかし5つの攻撃を全てパリィするなんてことは不可能だ。

 それにあの4つの小盾はなんだ。なぜ盾が浮いている!? とナイヴスの思考は混乱の渦に叩き込まれた。


 もちろんシエラのノーダメージにはカラクリがある。

 一つはシエラが今立っている場所。そこはマスとマスの境界線、のちょっと内側だった。

 つまり相手の攻撃は全て、マスの移動による威力の減退を受けることになる。

 そしてもう一つが、ラナによる継続回復だ。


【聖女】の代名詞とも呼ばれる継続回復魔法。

 ラナは攻撃大好きなのでアタッカーばっかりしているイメージがあるが、回復が一番得意だ。〈白の玉座〉による『回復減退耐性LV9』により、ラナは『祈る』だけで離れた所にいるシエラに継続回復を与えられる。

 つまりシエラは決してノーダメージだったわけではなく、ほんの少しダメージを負ったがすぐに回復してしまった、というわけだ。


 しかし、ナイヴスたちにそんなことは分からない、すぐに指示を変更する。


「ならば、あれは無視しろ! どう見てもタンクだ! 相手にしなければ問題無い! 防衛モンスターを狙うのだ! 放て放てー!!」


 同盟軍の攻撃の狙いが防衛モンスターと大精霊に移る。しかし、


「あら、それはいけないわよ。言ったでしょ。ここから先は通さないわって――『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』!」


 シエラがスキルを発動する。

 初のお披露目、『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』だ。

 スキルを使った直後から空中に浮かぶ4つの小盾がシエラの真上に集まって陣形を取る、『攻陣形こうじんけい四聖盾しせいたて』の時のような列を組む陣形ではなく、相手に対し2つずつが横並びになり上下に展開。長方形の壁のような陣形を組んだ。


 続いて迫りくる数々の攻撃に向かってシエラは、さらにスキルを発動する。


「生まれ変わったこれは、とても強いわよ――『カバーシールド』!」


 それは味方をかばうスキル。

 下級職の時は味方の前に素早く移動してかばうだけの防御スキルだったそれは、『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』の効果で進化する。


 その光景にナイヴスたち同盟軍は度肝を抜かれることになった。

 なんと攻撃が来る度、そこへ小盾が飛んでいって攻撃を弾き始めたのだ。しかも弾くとまたシエラの真上に戻り、そして、また攻撃がくるとそれに飛んで行って弾いてから戻ってくる。それを繰り返し、全ての攻撃を弾き返すのだった。


 これにはナイヴスは驚愕のあまり目が飛びださんほど見開いた。


 シエラの『カバーシールド』は誰かへの攻撃を割り込んで防ぐ防御スキル。ついでに単発スキルだった。しかし、上級職となった『カバーシールド』は4つの小盾を割り込ませて防ぐスキルに進化していた。だが、このままではまだ単発スキル、一度の発動だけで終わってしまう、しかしここに『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』を使うとさらにコンボが発動する。


守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』を発動中は、使用した防御スキルが発動したままの状態になるのだ。つまり単発スキルだった『カバーシールド』が永続スキルへ化けた。

 これにより、シエラが仲間と認識する者への攻撃は盾がシャットアウトするようになったのである。


 ここに至ってナイヴスは一つの答えに行き着いた。


「なんだ、なんなのだそのスキルは!? そんな強力なスキルが下級職なはずが無い! まさか、そんなまさか! ―――上級職だとでも言うのか!!!?」


 ――上級職。

 職業ジョブの最高峰。

 そのスキルは下級職と比べものにならないほどに強力だ。

 今見た光景がその全てだ。17人、複数による攻撃を全て防ぎきるタンクなんて尋常ではない。

 未だ1年生に上級職への〈上級転職ランクアップ〉をした者が出たという話は聞いたことは無かったが、ナイヴスはその理不尽なまでの強力なスキルに半ば確信していた。


「〈1組〉! ……〈1組〉!! ――――〈1組〉!!」


 そこでナイヴスは悟る、〈1組〉が、なぜ〈1組〉であるかを。


 ――届くと思っていた。

 自分は〈15組〉のリーダーだ。しかし、決して〈1組〉にも劣らない実力を持っていると思っていた。

 しかし、最初の作戦から〈1組〉に負け続け、そして上級職まで出てくる。


〈1組〉とは、本当の学年最強が集まる魔窟であると、ナイヴスはこの時身をもって思い知ったのだった。

 しかし、それで諦めるなんてできない。


「接近戦だ! 見たところ遠距離攻撃は効かぬ! 誰でもいい。彼女を止めるのだ!」


 同盟軍に残された選択肢は多くない。

 時間を掛ければ、それだけ不利になることも分かっていた。

 だからこそ、活路は前進にのみあった。


「俺がやる。最初の失態、ここで全て挽回する!」


 そこで真っ先に名乗り出て、シエラに突撃した者がいた。

【忍者】の最後の生き残りであるコブロウだ。

 コブロウは最初に苦渋を味わって以来、ずっと汚名返上の機会を待っていた。


「リーダーナイヴス、ここは俺に任せ、先へ行け!! 拠点を落とすんだ!!」


 倒すには明らかにコブロウでは火力が足りない。しかし、翻弄し、足止めするくらいなら、何とかなる可能性は高い。

 むしろ、足止めに関して【忍者】以上に適した者はこの場にはいないからだ。

 ここで【忍者】がシエラの相手をするのは最善だと同盟軍全ての人間がそう思った。

 コブロウなら、上級職だろうと足止めしてくれるだろうと。

「そうであってほしい」という願望が多く含まれている事が透けて見えるが、しかし同盟軍はコブロウに賭けるしかなかった。


「よし、行って来い。そして無事に帰って来い、コブロウ!」


「ああ!」


 親指を上げ、ナイヴスに後を任せると、コブロウはシエラに向かって単騎で突っ込んでいく。

 コブロウは、自分の職業ジョブに自信があった。これまでも何度か危ない場面はあったが乗り越えてこられたのだ。相手は上級職とはいえポジションはタンク、抑えるくらいは出来ると。


 確かに【忍者】は優秀だ。スピードタイプの回避型であり、状態異常攻撃に加えデバフなど様々な絡め手も使える。使い方と相性次第では、単騎で上級職を相手取ることも確かに可能だろう。


 だがそれは、シエラが【忍者】という職業ジョブを知り尽くしていなければの話である。


「『暗闇の術』! ユニークスキル――『必殺忍法・分身の術』! くらえ!」


「それは知ってるわ――『カウンターバースト』!」


「――!!」


 ズドンッと衝撃が走りシエラに躍りかかった分身たちが全て消滅する。


 シエラのした事は単純だ。

 分身はなんでもいいから一撃受けると消滅する。

 それを回避させるために『暗闇の術』などで相手を〈暗闇〉状態などにするのがセオリーとなる。

【女忍者】のパメラも使っていた手だ。


 故にシエラはあえて『暗闇の術』を食らい、続いてくる分身に備えた。

『暗闇の術』の効果はシエラの『状態異常耐性』スキルで効かないかもしれなかったが、シエラには〈暗闇〉のアイコンが付いた。相手は相当スキルレベルが高いらしい。しかし、それも織り込み済み。シエラは『暗闇の術』が来た直後から用意していたアイテムで〈暗闇〉状態を打ち消し、続いて来た分身の攻撃を4つの小盾で防いでカウンターを決めたのだ。


 一瞬で分身が消滅し動揺するコブロウにシエラが迫る。


「――『攻陣形こうじんけい四聖盾しせいたて』! ――『インパクトバッシュ』!」


「っく!? 『立体駆動』!」


 シエラの『シールドバッシュ』の強化スキルによる攻撃をコブロウはアクロバティックにジャンプして避ける、が。


「甘いわ」


「何? ――ぐわぁ!!」


 シエラの進化した盾は、5つある。

 たとえシエラ本人の攻撃を避けたとしても、続いて追撃してくる4つの小盾を空中で避けるのは困難だった。

 シエラはパメラと模擬戦をした事もそれなりにあり、パメラがどんな避け方をするのかについても熟知していた。後は、その避けそうな位置に盾を飛ばしておけばどれかが当たるでしょ、という考えだったが、そのうち一発が見事に直撃した形だった。


 空中でノックバック攻撃を受け、バランスを失ったコブロウが落下してダウンする。

 そして、シエラはそのすぐ隣に居た。


「トドメよ。――『ショックハンマー』!」


 シエラのメイスがダウンしていたコブロウの脳天を叩いた。

『ショックハンマー』は四段階目ツリー、〈麻痺〉を与える強力なスキル。しかしダウン中への攻撃も相まってコブロウは〈気絶〉してしまうのだった。




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