第539話 〈1組〉の罠。後ろから迫るアスリート。




「これで7人退場ですね。また、そんなにボーっとしていると、いい的ですよ? 『魔弾』!」


「ぐおっ」


 シズが唖然として棒立ちするナイヴスを追撃した。ナイヴスの全身鎧にガキンとぶつかり、ナイヴスは吹っ飛び目が覚める。

 この威力の低いが鬱陶しい銃撃は全て、仕掛け罠へ誘導するためのものだったのだ。

 そんな事も見抜けなかった自分に腹が立つ。

 今も、吹っ飛ばされた先に罠があれば自分は退場していたかも知れないのだ。〈1組〉という学年最強クラスを見誤っていたのだと、ナイヴスは今更になって気がついた。


 しかし、〈15組〉はすでに引き返せないところまで来ている。

 ナイヴスは気を引き締め直した。


「大丈夫かナイヴス!?」


「ああ。ダメージは低い」


 心配するメンバーに手で制止、すぐに起き上がって銃撃を警戒しながら指示を出す。


「罠を警戒しろ! 銃撃に惑わされるな! コブロウを中心にして突破する!」


 コブロウとは〈15組〉で唯一と言っていい斥候職で、例の〈1組〉との遭遇戦で生き残った【忍者】のことである。

 コブロウに罠を調べさせながらここを切り抜けようというのがナイヴスの考えだった。


 しかし、動こうとしたとき新たに後方から悲鳴が轟いた。


「きゃあぁぁぁ!!」


「ぎゃあぁぁぁ!?」


「なんだ、今度はどうした!」


「敵襲! 敵襲! 後方から、〈マッチョーズ〉たちです!」


「なんだと!? 本隊が帰ってきたのか!?」


 突然の悲鳴と混乱の声にナイヴスが目を見開き後方を見る。

 返ってきたのは、東から〈15組〉の後方を塞ぐようにして、〈マッチョーズ〉たちが現れたという報告だった。



 ◇ ◇ ◇



 セレスタンたちは〈15組〉の斥候部隊を迎撃し3人を討ち取った後、とある崖山の陰に潜伏し、〈15組〉と〈99組〉の動向を探っていた。


 先に動きだしたのは〈99組〉だった。

 しかし、〈15組〉も動き出し、さらにリーダーらしき人物が〈58組〉へと向かったことで、〈15組〉の優先度を高くすることになった。

 その後はカルアからの連絡もあって〈1組〉へ戻り、シェリアと打ち合わせ後、もう一度防衛ラインの外へ出て、攻め込んでくる相手を挟撃し、罠へと追い込む役目を受けたのだった。


 そして〈15組〉がシズとミューの誘い込みによって罠に掛かったタイミングで、セレスタンと〈マッチョーズ〉は〈15組〉の後方から襲う形で攻めに入った。


「アランさん。向こう側を頼めますでしょうか? 僕は2人ほど連れてこちらを担当します」


「はっはっは! 任せろセレスタン! 行ってくるぜ――俺の筋肉を受けろぉぉぉ!」


「ま、ままま〈マッチョーズ〉だぁーー!?」


「きゃあぁぁぁぁ!?」


 ――悲鳴発生。


 その悲鳴が強敵が現れたことに対してなのか、それとも挟撃にあったことに対する悲鳴なのか、それともインナーパンツを履いただけの筋肉ムキムキの裸族たちがアスリート走りで迫ってくるからなのかは分からない。


「おおおお! 筋肉ぅぅぅ、ラリアァァァットッ!」


「ぎゃあぁぁぁぁ!?」


 そしてすぐに被害も発生。

 ムキムキの、下手をすれば女性の腰ほどの太さのある力瘤ちからこぶが男子学生に襲い掛かったのだ。

 強烈なラリアットを貰った男子はパニックで叫んだ。大きくHPは減ったが。幸いにして体は無傷だ。心が無傷かは分からない。


 急に飛び込んできた筋肉たちに〈15組〉は度肝を抜かれた。


 先の大爆発もあり、〈15組〉はパニックになった。


 そしてアランは勝利のポーズをキメた。


「どうだい。俺の筋肉は」


「アランの筋肉は最高だ!」


「そのポーズ、とてもキレてるよ!」


「だろ?」


 筋肉たちはアランの筋肉とポーズを大絶賛した。



 ◇ ◇ ◇



 後方の状況を聞いたナイヴスは歯噛みした。

 一番聞きたくなかった報告だったからだ。


「後ろに迫るのは、あの〈微笑みのセレスタン〉と〈マッチョーズ〉か!」


 銃撃にガンガンと大盾を鳴らしながらナイヴスは考える。


 これは罠だった。自分たちは死地に誘い込まれたのだ。

 前も罠だらけで地獄、後ろも挟撃により地獄。

〈15組〉は22人が突入し、すでに7人が退場。

 後ろから攻めてくるのは6人だ。〈15組〉全員で掛かれば何とかなる。

 ただそれを〈1組〉が静観しているわけが無い。


〈15組〉が〈1組〉拠点へ背を向け、〈マッチョーズ〉たちに向いたが最後、後ろから一気に襲い掛かってくるに違いない。

 そうなれば〈15組〉は全滅するかもしれない。

 それだけはダメだ。


「ならば、活路は前にしかない! 我らはこのまま進み、地雷原を突破し、〈1組〉の拠点を取る!」


 ナイヴスの判断はこの状況では最善だった。


「コブロウ!」


「ここに」


「地雷を見抜き、安全なルートを確保せよ」


 ナイヴスの言葉にコブロウは冷や汗を流す。

 ここまで用意周到に準備していた相手がそんなルートを残しているとは思えない。


 ナイヴスも分かってはいたが今頼れるのはコブロウしかいなかった。


 コブロウも、今〈15組〉を救えるのは自分しか居ないと自分に言い聞かせ、決意する。


「最善を尽くす! 『罠発見』!」


 コブロウは最前線を歩き出し、その周囲をナイヴスと大盾使いがかばう。


 今コブロウを失えば〈15組〉は煮るなり焼くなり好きに調理されてしまうだろう。

 絶対にコブロウを失うわけには行かず、ナイヴスは神経を集中し、銃撃に備えた。


「みんな落ち着け! 冷静になるんだ! まだ負けたわけじゃ無い!」


 ナイヴスが〈15組〉のメンバーに落ち着けと叫ぶ。

 メンバーたちはパニクりながらも希望をナイヴスに縋るしか無く耳を傾けた。


「活路は前にある! 〈1組〉の拠点さえ落としてしまえば我らの勝利だ! 気合いを入れろ! 3班は後方を足止めしろ! 2班は我らの護衛だ! 我らより前へ出るな! 罠があった場合は破壊せよ!」


 ナイヴスの言葉に〈15組〉のメンバーたちは徐々に希望を取り戻していった。


「拠点を落とせば……、そうだ。拠点を落とせば勝てる!」


「勝つのよ! 〈1組〉に勝つのよ! でも〈マッチョーズ〉の相手は男子がやってください」


「おいぃぃぃ!?」


 ナイヴスはこの状況でなんとか希望を語りかけることで〈15組〉メンバーを落ち着かせることに成功する。

 一部男子が悲しそうな顔をして筋肉に向かって行ったが、ナイヴスは「生きろ」と心の中で祈ることしかできなかった。


「ナイヴス、ここだ、このルートだ! ここに攻撃を集中させれば罠を破壊し突破できる!」


「何! よくやった、2班、攻撃始め!」


「「「うおぉぉぉ!!」」」


 コブロウは冷や汗が滲む中、なんとか大丈夫そうなルートを発見する。

 それを聞いたナイヴスは銃撃を弾きながら2班に指示を出し、2班も強力な攻撃で罠を次々破壊していく。


「安全確保ー! 突撃するぞ!」


「「「「うおおおおお!!」」」」


 安全を確保できたと安堵し、〈15組〉は最低限の人数を〈マッチョーズ〉たちの足止めに置き、拠点へとダッシュする。


 しかし、隠れるガンナーは、優しくは無かった。


 そこは元地雷原、破壊されていない罠も多数残されていた。

 シズたちはそれを使い、〈15組〉を罠に引っかけんとする。


 そこから怒涛の罠攻めが始まった。

 今までは本当に上に意識を集中させるための罠だったのだと言わんばかりに、地雷を始めとする爆発系に加え、トラバサミなどが地面から噛み付いてきたり、上から投網が放たれ拘束してきたり、果てはくくり罠で逆さまに釣り上げられる男子もいた。その後ギリギリで仲間に助けられて退場を免れる。


 そんな中、ナイヴスは必死に指揮し、スキルと魔法を駆使して仲間たちと助け合い、なんとかこの防衛ラインを突破することに成功する。


 しかし、突破したばかりのナイヴスは振り返り、絶句した。

 ここに侵入したとき22名いた戦力が防衛ラインを突破する頃には半分以下まで減っていた。

 悪い冗談だとナイヴスは思う。

 嫌な汗が止まらない中、しかしナイヴスは歯を食いしばって突っ走った。


 そして〈15組〉はあの銃撃と罠が蔓延る防衛ラインを抜け、拠点方向へと進む。

〈マッチョーズ〉たちの足止めのために数人だけ残し残りは〈1組〉の拠点を狙って。


「〈1組〉の拠点さえ落とせば我らの勝利だ! 防衛ラインを抜けたぞ! ここからは我らの攻めるときだ!」


「「「おおおー!!」」」


 まだ油断ならないが、士気は上がってきている。

 ならば、〈58組〉と合流できれば、まだいけるとナイヴスは考えていた。

〈1組〉だって万能ではない。

 少ない人数で防衛をするのは苦しいはずだ。こちらはまだ、〈58組〉と合流すれば人数差で有利なのだ。

 拠点さえ見つけられれば勝機はある。


 そしてついにその報告が来る。


「い、〈1組〉の拠点! ナイヴス、〈1組〉の拠点を見つけたぞ! さらに拠点西側では〈58組〉の姿が見える! 〈58組〉が先んじて拠点へ接触する模様だ!」


 普段は言葉少ないコブロウが興奮したように報告する。


「ぃよしっ!! でかしたぞ! 〈58組〉と挟撃するのだ! 我らはこのまま、北から攻めろぉ!」


 待望の報告にナイヴスは拳を強く握った。


「(タイミングもいい。このまま同時攻めをすればいくら〈1組〉でも落とせるはずだ!)」


 ナイヴスの脳裏にはすでに勝利までの道筋が高速で描かれていた。

 しかし、その勝利への図も次の報告で一気に砕け散るハメになる。


「なにっ! 〈58組〉が、こちらに向かってきている!? 合流する気か!?」


 コブロウの報告に、ナイヴスが一瞬固まった。報告の内容を飲み込むのに数瞬を要した。

 そして真っ赤な顔で叫ぶ。


「なんだと、どういうことだ!! 今は挟撃こそが最善だろうよ! いったい〈58組〉は何を考えている!」


「そ、それが〈58組〉の人数が、わずか9名。他に〈58組〉の反応は見つからない! さらに、何かに追い払われている!」


「な、何? いったい何が?」


 ナイヴスはコブロウと同じ方向を見る。すると、巨大な光の剣が4つ現れ、さらに巨大なモンスターと思われる巨体の影2つが大きく躍動。

 そして直後、何か人影が吹っ飛んだように見えた。


「あれはいったいなんだ!?」


「ふ、不明だ。だが、今ので〈58組〉の反応が7名になった」


「ば、バカな……」


 今の一瞬で2人やられた。

 あんまりな報告にナイヴスは眩暈すらおきそうになる。

 いくら中位職クラスとはいえ、例年なら上位クラスに選ばれていてもおかしくない〈58組〉がこの短時間で大幅に人数を減らしている。

 25人という超人数で攻めたはずにも関わらず、今は僅か7人。


「(これが〈1組〉の力、これでは〈1組〉の拠点を落とすことは……、いや、まだだ。むしろここからが本番だ!)」


 たとえ戦力が半減しようと〈1組〉の拠点を落とせばそこで終了だとナイヴスは思い返す。

 ここまできたのだ。今更引くこともできない、なら全力を尽くすまでだとの考えに至る。


「全員前進!! 友軍と合流後、あのモンスターを迂回、または押さえ、なんとしてでも拠点を落とすのだ!」


「「「うおお!!」」」


 ナイヴスは現在こちらに全力で走る〈58組〉へ向けて合流を急ぐことにした。

 あの拠点を守る存在を聞かなければならない。


 一度合流を果たした上で無視できるものは無視し、全力を持って拠点へ向かうべきだとナイヴスは判断した。




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