第529話 池に挟まれた地形。〈2組〉VS〈24組〉




「おい、あそこだ!」


「はっ! 池と壁に囲われて回り込むことができない地形か! しかし、外から丸見えだぜ!」


 走る〈2組〉のメンバーが〈24組〉の拠点を見て視線を鋭くする。


〈24組〉の拠点がある場所は大きな池に挟まれた場所にある。さらに南側はそれ以上マスはなく、アリーナの壁が存在し、三方向からの侵入を防いでいる地形だった。攻めるには北側からしかない。

 防衛に適した地形といえるだろう。


 池を渡るという方法も取れなくは無いが、たとえばゼフィルスの持つ〈水上バイク〉は普通に破壊可だ。つまり水上を移動中に沈没させることが出来る。

 沈んだらその時点で強制退場なので池を渡るのはリスクが非常に高い。岸まで泳いで渡れれば助かるが、鎧や重い装備を着けていたら浮かばず沈んでしまうからだ。


 ただし、池に挟まれているために外から拠点が丸見えなのが少々痛いところだった。

 おかげで早期に〈2組〉により発見され、こうして攻めに遭おうとしていた。



 しかし、丸見えなのは攻められる側だけではない。

 攻め入る敵にしても〈24組〉からは丸見えだった。


 拠点から西を見れば、〈2組〉がだんだんと近づいてくるのがよく見えた。


 名をスタークスという細身の男子は、それを見て余裕な表情で指示を出す。


「タンクは前へ。予め言われたポジション以外の地点には動くな。魔法部隊は全員狙いを定め」


 指示を受けたタンク隊、盾を持った学生たち8名が拠点から北へ1マス進み、2マスとの境目付近に陣を組んだ。

 しかしそのポジションは均等に配置したかに思えてややいびつ

 ところどころに隙があり、まるで誘っているかのような、上から見れば波模様のような配置だった。


「みんな、相手は〈2組〉だけど慌てることはないよ。練習どおりやれば自然と結果は付いてくる」


 スタークスの言葉には説得力があった。

 それもそのはず。

 スタークスの職業ジョブは【参謀さんぼう】。

 ノーカテゴリーの中でも少し前に話題となった【ブレイン】の下級職にあたる職業ジョブだ。

【姫軍師】の下位互換になる。


 とはいえこれでも高位職に名を連ねる職業ジョブの一角、その能力はこと〈拠点落とし〉では非常に有用であると言わざるを得ない。


 スキル『沈静の言霊』により、同じマスに入るクラスメイトたちは全員バフが掛かり、さらにリアル効果で鎮静作用を受け緊張がほどけていく。タンク隊にもバフを掛け、準備を着々と進めていった。


〈24組〉はこのスタークスの職業ジョブを前提に作戦を練った集団だった。

 集団の中心にいるスタークスの能力でクラス全員の能力を底上げし、相手を上回り、打ち倒す。故に全員が一体となって行動する。


 そしてこの〈拠点落とし〉という攻めによってポイントを取り合う試合に対して、異例である受けの姿勢を取っていた。

 ここ〈24組〉はほぼ全ての人員が拠点で防衛についていたのである。


「この〈拠点落とし〉は一見攻めが重要に思える」


 スタークスが隣にいる大男、ゴウに向けおもむろに語りだす。


「当然だよね、攻撃しなければ、相手の拠点へ攻め入れなければポイントは手に入らないのだから。それに防衛モンスターとて倒れれば復活に20分間のクールタイムがいる。つまりポイントのリソースは決まっている。時間内にどれだけ多くのポイントを集められるのか、その最大値は決まっているんだ。――だけど、勝利の条件はそれだけじゃない」


 そこで一旦スタークスは言葉を止める。そしてにこやかな顔でまた語りだした。


「相手拠点の全滅。つまり〈拠点落とし〉の名前そのもの! そうさ、そうじゃなくちゃ面白くない! 相手を全て倒しきって勝利する。なんとも甘美な響きじゃないか! 防衛モンスターをちまちま倒してポイントを稼ぐなんて、そんなの小さすぎるよ!」


 完全に1人で昂ぶっているスタークスの語りを、大男ゴウは静かに聴いている。

 ここで言葉を挟むと、この男は癇癪を起こすのだ。

 気持ちよく語らせておくが吉だと、大男ゴウは良く分かっていた。


「防御こそ、防御こそ真の答えさ! 何が悲しくて4番目の僕たち〈24組〉が戦力を分けなくちゃいけないのか? それで〈1組〉や〈2組〉に勝てるのかい? 無理だろう? だからこそ戦力は一まとめにしておかなくちゃ。攻めて来た相手を逆に討ち取っていく、さながらここは食虫植物ってところかい? 拠点の位置が丸わかりという甘い香りに誘われて、集まってきた奴らを全て平らげてしまえばいい! そして戦力少なくなった相手の拠点を堂々と攻めればいいのさ! ポイントごときであわてるほうが悪手だね!」


 息継ぎも忘れたかのように一気に語ったスタークスはぜえぜえと荒く息を継いだ。

 大興奮も、言い切ったことで幾分か落ち着いていく。


 そして息も整った頃には、あのにこやかな細身の青年に戻っていた。


「ね、君もそう思わないかい、ゴウ?」


「そのとおりだな」


 ここは同意しておく部分。ここでうっかり聞き逃すとこいつは泣き出すのだ。

 大男ゴウはそれを良く分かっていた。


「(これさえなければ優秀なんだが……)」


 大男ゴウもなかなかに苦労人だった。


 ――――おおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!


「おっとやって来たようだね。本当は最初の万全の状態の時に〈1組〉を迎え入れたかったんだけど仕方ない。討ち取ってあげようか。〈2組〉」


 スタークスの表情は、いつまでもにこやかだった。



 ◇ ◇ ◇



 一方で〈2組〉のリーダーであるセーダンはその異様な隊列になにやら冷や汗のようなものをかいていた。

 何かがおかしい。

 相手は一本道の奥に拠点を構え、攻め場所を限定してきている。なかなかいい拠点の配置だった。

 しかし、だからと言って少し、対処の雰囲気とも言える空気が整え過ぎられてはしないかとセーダンは感じていた。


「(まるで我々が攻めてくるのを待っていたかのような? いや、そんなはずは……、ありえるのか? だとすれば……)」


 もし自分の直感が当たっていた場合、まさにここは地雷原。

 ここは相手のテリトリー。待ち伏せ、罠、いくらでも考えられる。

 セーダンは自分の直感を信じて周囲のクラスメイトたちに警告する。


「奴ら、この地を罠だらけにして待ち伏せしている可能性が高いぞ! 対罠陣形を作れ!」


「はぁぁ!? くそっ、そうかだから待ち構えているのかよ! 地雷だらけってことか!」


「マジかよ! タンク、前を頼む! 罠なんか踏み潰せ!」


「いやそれじゃ引っかかるのと同じだろ!? スキルで一掃するんだよ!」


〈拠点落とし〉初めてのセーダンがそれに気がつき指示を出せたのは僥倖だった。

 実際〈24組〉は罠を仕掛けて待っていたからだ。


 セーダンの言葉に突撃する気マンマンだった〈2組〉は慌てて減速し、三列縦隊の陣形を作る。

 現在〈2組〉は18人で構成された攻勢メンバーだ。6人が三列ずつで並び、タンクを前に出し、少し離れるようにして残りが続く。

 そして〈2組〉は罠が仕掛けられているかなんてお構い無しに範囲攻撃をぶっ放し始めた。


「『トラップクラッシュ』!」


「『マテリアルショット』!」


「足元注意だ――『ビーンキック』!」


〈24組〉との距離はさほどない。にもかかわらず、相手からの攻撃は無く、セーダンは罠が仕掛けられていることを確信した。

 様々な範囲攻撃がその辺の地面を撫で、仕掛けられていたであろう罠たちがどんどん発動、または破壊されていく。

 ダンジョンではここまで簡単に罠が破壊されることは無いが、生産罠は耐久に難ありなので範囲攻撃でつぶすことが可能だ。


 仕掛けていた罠が葬られた瞬間からスタークスは感心した声を上げていた。


「ははは。そりゃ、〈2組〉に選ばれるだけはある。これくらいの罠は見破られるよね。じゃあ魔法部隊、魔法の雨を降らせてあげて」



「敵の攻撃が降ってくるぞ、警戒しろ!」


 スタークスの声が聞こえたわけではなかったが、セーダンは敵が次に何をするかを予想し、指示を出す。


 魔法攻撃の雨が〈2組〉へと降り注いだ。

〈2組〉と〈24組〉のバトルはまだ始まったばかりである。




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