第528話 途中結果に行動する者。〈2組〉と〈24組〉。




 ここはつい先ほど〈1組〉と、いや〈天下一大星〉と因縁のあった〈2組〉のいる拠点。

 その場所はフィールドの南西の端の方にあった。大山と山脈に挟まれている渓谷地帯であり、北側と東側からしか入れない。しかも北側からだと防衛ラインが細く長く、4マスも連なっているため防衛しやすく、実質攻め入るとすれば東に限定せざるをえない中々の良所だ。


 しかし、そこは今、慌しい雰囲気に包まれていた。


「おい途中経過を見ろ! 〈1組〉が派手に動いてるぞ!」


「こいつは! 〈15組〉を相手にしているのか!?」


「99点だと!? おい、このままじゃまずいぞ!」


「わかってる!」


「くっ! なんてことだ。行動を急げ! 俺たちも動くぞ!」


 途中経過は10分に1度、アリーナの中央に浮かぶ大型スクリーンに表示されるほか、各学生の〈学生手帳〉にも表示される。

 それだけ見ると、最初の10分間で〈1組〉が派手に動き、〈15組〉が押されているように見えた。


 まさかこれほど早く99点という超高得点を稼ぎ出すとは夢にも思わず、〈2組〉の主に男子たち一同は焦りの表情を浮かべていた。


「99点、なんの悪夢だそりゃ? 追い抜くには2拠点以上を攻める必要があるぞ?」


「とにかく急がないと。これだとどんどん差が広がる!?」


「拠点を発見の報告はまだなのか!? 俺たちはいつでも出れるぞ!」


〈1組〉が起こした99点という数字の衝撃は彼らの度肝を抜いた。そして対抗心を大きく刺激した。

 点を獲得したということはつまり、防衛モンスターを倒したということ。

 防衛モンスターは自軍拠点より2マスまでしか行動できない。

 つまり、拠点に押し込まれるほど攻められたという意味だ。

 しかも、99点ということは、防衛モンスターを根こそぎ倒されたという意味でもある。

 下手をすれば、一クラスがそのまま退場しかねない勢いだった。


 これを抜くには並大抵のことではなく、2拠点以上を攻撃するか、1拠点を集中的に攻撃し、陥落させる必要があった。

 ヒットアンドアウェイで1拠点だけを狙い続け、防衛モンスターを倒したら引き上げ、復活したら再度攻撃する〈防衛落とし〉という戦法もあるが、〈1組〉の勢いを上回れるとは思えないので却下された。


〈2組〉ができるのは、〈1組〉を上回る勢いで多くの拠点を連続攻勢を仕掛けるか、一点集中で拠点を落とすことだろう。


 もしくは〈1組〉を相手に拠点を陥落させるという手もあるが、こちらは非常に厳しい。

 いくら因縁のある相手といえど、感情的になって突撃すればお互いが相討ちにもなりかねない。勝利したとしてもその後がボロボロでは話にならないのだ。


 だが連続攻勢を仕掛けるのもまた厳しい。

 何度も拠点に攻めるというのは非常にリスクが高い。攻めるときは慎重を期し、調査を密にして少しずつ削っていくのがセオリーだ。

 普通なら数点稼げるだけで御の字。十点以上稼げると大きな戦果となるのだが、〈1組〉にはその常識が通じないので仕方ない。


 やはり最初は一点集中で〈1組〉以外のどこかの拠点を落とすのが無難だ、と〈2組〉は決めたのだった。


 問題は、その他のクラスの拠点を未だ発見できていなかったところだろう。

 初の〈拠点落とし〉に慎重になりすぎて周囲の調査から始めたのが仇になった形だ。おかげで〈2組〉の焦燥感をさらに刺激していた。


 そうして〈1組〉との差にやきもきしていると、とうとう待ちに待った報告がやってきた。


「報告! ここから東の端に拠点を発見しました!」


「待ちわびたぞ! よっしゃ出るぜ!」


「待て待て馬鹿行くな! 伝令、そこはどこのクラスか分かるか?」


「分かりません。ですが、間違いなく高位職のクラスでした」


「高位職、クラスか……」


 伝令から報告を得たのは〈2組〉のリーダー。

 角刈りで日焼けした肌が目立つ高身長のボクサーみたいな男子学生、名はセーダン。以前、キリちゃん先輩が注目しているとゼフィルスに言った男子学生だった。

 職業ジョブ【大拳闘士】であり、クラスでもトップクラスの実力者である彼はそれなりに頭も冴える。頭の中でいくつか計算を行ない、よく調べるか、それとも仕掛けるのかを考える。


 まだまったくと言って良いほど情報が無い。できればそのクラスのことを詳しく調べたい所ではあるが。

 しかし、その無難な姿勢もクラスメイトの燃え上がった対抗心の前には難しかった。

 放っておくと今にも飛び出して行きそうな危うさが今の〈2組〉にはある。


「おいセーダン! 高位職クラスだからってかまうことはないぜ!?」


「そうだ。俺たちの目標はあくまで〈天下―――ではなく、〈1組〉だ! ここでつまずくようでは〈1組〉は相手に出来んぞ!」


「……〈15組〉は〈1組〉により攻撃されている。つまりは両クラスとも北に拠点がある、か。南東ならぶつかる心配は無いが……」


 勢いに押され、セーダンは頭の中で計算する。

〈15組〉が〈1組〉に攻撃されているとなればそれは北側でしかありえない。

 ならばこのブロックの参加クラスで高位職の可能性があるクラスは〈24組〉か〈45組〉である。〈24組〉は手ごわいだろうが、〈45組〉だった場合は〈2組〉の敵ではない。

 一当てしてダメそうなら撤退するという手段もある。

 それにこれ以上〈2組〉のメンバーを抑えきれないという判断もあり、セーダンは決断する。


「よし、俺も出る! 防衛班は北の防衛ラインをなんとしても押さえろ、伝令はいつでも駆けつけられるようにしておけ! 東側も警戒を怠るな、今から1分後に出る! 40秒で支度しろ!」


「よっしゃーー!!」


「〈1組〉の前の前菜にしてやるよ!」


 セーダンの宣言にクラスの男子たちが沸き立つ。

 実はこの〈2組〉、なぜか非常に男子が多い。

 クラス30人中28人が男子という魔窟のようなクラスだ。

 彼らの〈天下―――ではなく、〈1組〉に対する対抗心は、キレイどころの女子がみんな〈1組〉に集まっているというのも少なからずあった。いや、割と大きな理由かもしれない。


〈2組〉の拠点はアリーナのほぼ南西の端にあり、山々に挟まれた位置にあった。

 ここは〈1組〉から見たらほぼ真南に位置する。

 最初の拠点選びの時点で〈1組〉の拠点の位置を把握した〈2組〉は対抗すべく、遠すぎず近すぎずのこの位置を選んだ。〈1組〉が来るとすれば北からしかなく、北への進行はまずは止め、東に絞って探索の手を広げていた。


 さすがに北も探索し〈1組〉と思わぬ遭遇をすれば、非常にまずいことになると彼らも分かっていた。敵は〈1組〉だけではない。


 今は戦力を温存するときである。

 セーダンはそこのところをしっかりと強調して告げた。


「全員絶対に退場するな! 俺たちの狙いはこのブロックの勝利だ! 無駄な損耗は絶対に許さない」


「「「おー!!」」」


「出撃!」


〈2組〉が大きく動き出す。


 しかし、動き出したのは〈2組〉ばかりではない。

 他のクラスも、大きく動き出していた。


 そもそも、〈2組〉の拠点位置は〈1組〉以外からはバレている。

 そう簡単にことが進むはずがなかったのだ。

〈1組〉ばかりに気を取られている〈2組〉は、まだそれに気づいていない。



 ◇ ◇ ◇



 ここは〈24組〉の拠点。

 場所は南東にあり、大池と普通の池に挟まれた水上の拠点のような立地となっている。

 拠点に通じているのは一本の道だけだ。


 池は拠点を隠してくれはしない。むしろ回りに池しかないせいで拠点の位置が丸分かりとなっていた。

 そしてあっけなく〈2組〉に見つかり、現在攻撃にさらされようとしている。


 しかし、その報告を聞いた細身の男子はまったく慌てることなく、ただ頷いただけだった。


「来たか。思ったより早かったね」


「ま、あの途中経過を見せ付けられちゃ仕方あるまい。だが、〈2組〉とは残念だったな」


 報告をしたのは、16歳にしてはかなりの巨漢である大男。

 その声には明らかには落胆の色があった。


「仕方ないよ。〈1組〉との出会いはまたに取っておくさ」


 細身の男子も大男の言葉に少し残念そうに呟いた。

 彼らは拠点選びでは4番目だった。先に選んでいた3箇所のうちどこが狙いのクラスかは分からない。故に少しばかり賭けに出たのだが、どうやら外してしまったらしい。

 初動でまず西へ斥候が向かったのだが残念ながらそこは狙いの〈1組〉ではなく、〈2組〉がいた。


 しかし、残念そうにするのは少しの間だけで、一拍後にはその表情はにこやかな笑顔があった。


「さぁ、ショータイムだ。出迎えの準備を始めよう。みんな、盛大にもてなしてあげようね」


 細身の男子が椅子から立ち上がり両手を広げる。



 ―――〈2組〉対〈24組〉の戦いが始まろうとしていた。




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