第527話 執事&筋肉 VS 透明人間と忍者!




 ところ変わって東に向かった6人。

 セレスタンと〈マッチョーズ〉5人は前に見えてきた池を北から迂回するか、南から迂回するかで走りながら相談していた。


「ヘイ! セレスタン。どっちへ向かう?」


 そうセレスタンに問うのは〈マッチョーズ〉のギルドマスター、名をアランだ。

 黒髪黒目、溢れんばかりの完成された筋肉を持つ、ザ・筋肉。

 同じく【筋肉戦士】に就くメンバーたちをまとめ上げているのは伊達ではなく、学年でもトップの筋肉を持つ男だ。


 そんなアランが力強いアスリート走りをしながら、やや迫力のある爽やかな笑顔を横の執事に向ける。

 しかし、セレスタンはまったくと言っていいほど普段と変わらない口調で答えた。


「そうですね。北から向かいましょう。どの道、壁伝いに進んで行く方が効率的ですからね」


「オーケーだ! 俺たちの筋肉もついていくぜ!」


 先頭を走る黒の執事服を着たセレスタンと、蛮族スタイルのアラン。そしてその後ろに縦に並ぶ筋肉たち。筋肉たちの並び方が妙に慣れていた。まるでいつもそうしているかのような統率力があった。伊達に訓練は欠かしていない。


 進行方向を北東へ向けると、そこには切り立った崖山の突き当たりにぶつかる。

 そこからさらに東へと進路を変えて執事と筋肉たちが走る。

 すると、奥に大山が見えてきた。


「ふむ。あのふもとは隠れるのに良さそうですね。見に行ってみましょう」


「応っ!」


「「「「筋っ肉!」」」」


 拠点がありそうなポイントを見つけセレスタンが目標を告げると筋肉たちが返事と筋肉を盛り上げた。それで返事をしているつもりだというのだから恐ろしいものである。


「ここからは開けているのですね。周りをよく警戒を―――むっ!」


 左側にあった崖山が途切れた先はそれなりの広い空間があった。

 しかし、そこに出た瞬間、セレスタンの職業ジョブ【バトラー】のパッシブスキル『警戒心』が警報を鳴らす。その先は目の前の空間、地面からだ。


「先の地面、罠がありますね――」


「なに! なんの。我らの筋肉は罠ごとき食い破ってくれるわ!」


「いいえ。ここで損耗するのは悪手でしょう。私が対処いたします。止まってください」


 この部隊を率いているのはセレスタンだ。

 筋肉たちは、自分たちの筋肉を信じて疑わないが部隊長が言うとピタリとその場で立ち止まった。よく訓練されている。いや、訓練しているの間違いか?


「ふむ。崖山が途切れ、大広場へと差し掛かるポイント、自然と遠くに目が行きそうな地点で足元、地面に罠を仕掛けますか。向こう側には良い人材がいますね。――では、解体を始めましょう」


 セレスタンは罠の地点にしゃがみこむと、相手を一度褒め、次いでどこに隠し持っていたのか、懐から解体道具を取り出した。どう見ても懐に入らないだろうという工具がそっと地面に置かれる。どこにこんなものを仕舞っておいたというのか。


 これは【バトラー】のスキル『こんなこともあろうかと』の能力だ。

 発動中は最大MPが減る代わりにポケットが〈空間収納鞄アイテムバッグ〉と同じ効果となり、物を出し入れできるようになる。ゲーム時代は通称:〈なぞの執事ポケット〉と呼ばれていたスキルである。

 え? なんで執事が空間収納できるのかって? 執事パワーじゃないだろうか?



 さらにそこからの解体はスムーズで早かった。


「大きく広範囲を巻き込む罠。ここを通る多くを対象としていますね。ですが、広範囲に手を広げすぎたことで接続系統が甘いですね。この辺をちょっといじるだけで―――はい。解除できましたよ」


 その速度、しゃがみこんでから12秒の早業。

 罠の範囲外から即で解除、範囲の中心においてあった罠の本体を掴みそのまま懐に仕舞う。

 これは【バトラー】のパッシブスキル『罠なぞ恐れるに足りません』の効果も乗ってはいる。罠に対して解除成功率を上昇させるスキルだったはずだが、それがあったとしてもセレスタンの解体速度は速かった。

 セレスタンのなぞがさらに深まる。


「罠が仕掛けられているということは、近くに拠点があるということです。探しましょうか」


「応っ!」


「「「「筋っ肉!」」」」


 後ろで待機していた筋肉たちが一斉に筋肉を盛り上げる。

 やる気がもりもりといった様子だった。


「敵と接触か! 筋肉が唸るな―――むっ! そこか!」


 しかし何かに気がついたアランの拳が突然空間を殴った。

 瞬間、悲鳴が起きる。


「ぐああぁぁぁぁぁ!」


 空間が歪んだかと思うと、何もいなかったはずの場所から人が吹っ飛んだ。全身黒ずくめの怪しい奴だった。その手には短剣が握られており、どうやら筋肉を襲おうとしていたらしい。しかし、そいつは受身を取ると、すぐに立ち上がる。


「な、なぜ俺が居ると分かった!? 俺のスキルは『透明人間LV10』だぞ!?」


「ふはははは! 筋肉に隠し事なんて無駄なことだ! 透明になっただけでは筋肉の息づかいは隠しきれないぞ?」


「筋肉の息づかいってなんだ!? くそっ、やはり〈マッチョーズ〉は化け物だったか!」


 黒ずくめが悪態をつく。どうやってスキル『透明人間』を見破ったのか、理由を知った今でも訳が分からない。分かるのは筋肉が化け物という事実だけだ。


「なるほど、罠を仕掛け、さらに嵌ったところ、もしくは解除しようとしたところを奇襲する二重三重の作戦だったのですね。お見事です。ということは、ここにはまだいらっしゃいますね? 『敵の位置を探りましょう』―――! なるほど、そちらでしたか」


 セレスタンがまず相手の作戦を褒め、探知系のスキルを使用した。

 反応は崖山の角、そこに少し出っ張っているように見える山肌に敵の反応があった。


 ―――瞬間、居場所がバレたと悟った相手が、バサッと布を取るようにしてその姿を現し、筋肉たちに襲い掛かる。

 全てが黒の衣装を身に纏い疾駆する。数は3人。どうやら迷彩系のスキルとアイテムで隠れていたようだ。

 セレスタンたちは知らないことだが、相手は〈1年15組〉、この付近に拠点を構える高位職クラスである。そしてここにいる4人は全員が【斥候】系の使い手であり、その内、3人はセレスタンと同じカテゴリー「分家」であり、職業ジョブは高位職、高の中、【忍者】である。


 つまり、――セレスタンと同格。


 高位職というだけでも強力だが、セレスタンと同格の高の中が3人、〈マッチョーズ〉たちに迫った。

〈マッチョーズ〉の職業ジョブ【筋肉戦士】は中位職、中の上。普通に考えれば相手にならない。


 そう、普通ならば。

 しかし、筋肉は普通ではなかった。


「唸れ筋肉!」


「「「「唸れ筋肉!」」」」


「「「「「『筋肉こそ最強、他は要らねぇ』!」」」」」


 筋肉さんたちが筋肉を盛り上げ、服を脱ぎ去った。

 蛮族スタイルから裸族に転職した筋肉たちのステータスがユニークスキルの効果で爆上がりする。

 ステータス特化。この職業ジョブを置いてその言葉がこれ以上嵌る職はないだろう。


 他にスキルは無く。

 装備が無いほどステータスが上がる。

 ただでさえ高いステータスがさらに爆上がりするのだ。

 普通の通常攻撃でさえ、一般のスキルを使う攻撃となんら遜色そんしょくない、むしろそれを超える破壊力パァゥワァァーを生み出してしまう。

 それが【筋肉戦士】だ。


 しかし、それを見た忍者たちは筋肉を侮った。


「筋肉といえど、その速度ではな! ――『お命頂戴』!」


「「『お命頂戴』!」」


 筋肉は全ての力を筋肉に捧げているために確かに速度は【忍者】には負ける。先ほどの蛮族スタイルは足の速さを上げるスキルが宿っていたのだ。

 逆に【忍者】はAGIを大きく育てる回避型。その速度は兎と亀のごとし。

 動きが遅くなったところに凶刃が迫る。しかし、


「!! 刃が、通じない!?」


「「なんだと!?」」


 忍者たちが声を揃えて驚愕した。


【忍者】系のスキル『お命頂戴』は挑発攻撃スキルだ。しかし、対人に使うと効果が変わる特性を持つ。

 人は挑発を受け付けないため、対人の場合は攻撃の威力が上昇するスキルへと化けるのだ。

 この上昇の割合がかなり高いため、『お命頂戴』はかなり重宝するスキルでもある。


 しかし、信じられないことに、それが直撃したはずの筋肉たちのHPバーはほとんど減っていなかったのである。


「筋肉こそ最強!」


「へっへ! 捕まえたぜ?」


「く、くそう、離せ!」


 さらに黒ずくめには悪いことに、驚愕の隙を逃さず、筋肉が2人の忍者を捕まえた。

 いくら速いといえど捕まってしまえばそのスピードは生かせない。

 暴れもがく忍者たちだったが、その力強い握力からは逃げられなかった。

 逃げられないと悟った忍者たちが短剣を筋肉に突きたてるが、


「筋肉に刃なんて効かん!」


 厚い筋肉の防御力にまったく歯が立たない。

 なお、普通刃は筋肉にも効く。HPが頑張っているだけだ。


 そして逃げることも出来ず、筋肉を傷つけることも出来なくなった忍者に待つのは、退場だけだった。


「マッチョォォップ!!」


「ふげぶらぁぁっ!!??」


 力強い筋肉チョップが忍者の脳天を直撃する。

 この瞬間忍者はダウンしたのだが、筋肉は追撃した。


「フライングゥゥ、チョォォォップ!!」


「!!」


 なんということか。

 ジャンプし、飛び上がった筋肉がその身を唸らせ、その勢いのまま忍者の頭頂部にチョップをかました。なんという追撃か。忍者は〈気絶〉した。


 もう1人の捕まった忍者がそれを見てプルプル震える。


「く、撤退だ! 撤退する!」


「お、おいクロイがまだ捕まってるぞ!?」


「クロイのことは、諦める!」


「くっ!」


 最後のリーダー格の忍者がすぐに撤退を決め、最初に隠れていた透明人間と一緒に逃げにはいる。

 捕まった忍者のクロイ君は涙を流しながらそれを見送った。


 しかし、そこにセレスタンが立ちはだかる。


「いかせませんよ? 『手刀』!」


「ぬおっ!?」


「がっ!? う~、………」


 リーダー格の忍者はすぐに飛びのき逃れたが、透明人間の黒ずくめはセレスタンの『手刀』が首に決まり〈気絶〉する。


「くそっ!」


 しかし、リーダー格の忍者はそのまま撤退を開始。

 なんとか逃げ切ることに成功したのだった。




 途中経過――〈残り時間:3時間50分00秒〉

〈1年1組〉『残り人数:30人』『ポイント:99点』

〈1年2組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年15組〉『残り人数:27人』『ポイント:0点』

〈1年24組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年45組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年58組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年99組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』

〈1年116組〉『残り人数:30人』『ポイント:0点』




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