第530話 セーダンVSゴウ 襲撃者とスタークスの罠。




 ――攻め〈2組〉18人。防衛〈24組〉29人。


〈2組〉と〈24組〉のバトルは、〈24組〉の防衛戦という形で幕を開けた。



 降り注ぐ魔法攻撃をタンクが防ぎ、魔法攻撃をやり返しながら進み、セーダンたち〈2組〉は敵のタンクへ肉薄する。


「ここから先は通さんぞ! 『アーマード・ロック』!」


「押し通る! 『一撃必殺拳』!」


 岩のように硬くなる防御スキル『アーマード・ロック』で両手盾を構えるタンクの1人に、セーダンは拳による必殺の一撃、『一撃必殺拳』で真正面から強力な拳の一撃を放つ。


 盾使いには盾のランクが有り。

 小盾、大盾、両手盾が存在する。そのうち片手装備の中で最も強いのが大盾だが、タンクが装備しているのは武器を持たない代わりに両手で盾を装備することで防御を大幅に上げる両手盾だ。盾の中でも最高ランクに分類される。


 本来なら真正面からの戦闘なんて愚もいいところ、しかしセーダンは〈2組〉のリーダー、並の相手ではなかったのだ。


「うおおおぉっ!」


「ぐっ!? うぉぉぉぉぉっ!?」


 必殺の拳が両手盾に突き刺さり、動かないこと岩のごとしといったタンクがズザザザっと地面を後ろに滑る。

 凄まじい衝撃だった。


「まだまだ、吹っ飛べ! 『パワーパワーパワー・ナックル』!」


「ぬおおお!! こ、こいつ! 隊列を崩す気か!?」


 さらにタメにより、先ほどよりもさらに強力な威力の拳が盾を殴った。

 これによりタンクがさらに大きく後ろに滑る。


 そう、セーダンの狙いはタンクの隊列を崩すことにあった。

 二度の吹き飛ばしパンチでタンクを押し込んだことで隊列が崩れたところに、セーダンの後ろで縦列を作っていた4人のメンバーが文字通り押し通った。

 セーダンもタンクを避け、5人はタンクの突破を果たす。



 スタークスがそれを見てにこやかな表情で指示を出した。


「簡単に突破してくるか。ふふ、そうこなくちゃね。近接班は前へ出て。僕達の力は数だよ。数の有利を活かすんだ。作戦通りにお願いね」


 突破した人数より多い8名の近接戦闘職が相手取る。


 それにより拠点から1マス北のエリアは乱戦になりつつあった。

 その中でも特に目立っていたのが〈2組〉のリーダー的存在、セーダンだった。

 人数差がある中で、正面3人へ単体で肉薄する。


「はっ! バフで強化されている俺たちに単体で挑むかよ!」


「良い度胸だ、と言いたいが、無謀だな!」


 相手取る剣士、斧士、槌士が飛んで火に入るとばかりに相手取るが。


「高位職、練度もそれなりに高い。しかし、そのくらいで俺を止められるとは思わないことだ。――『マグナムナックル』!」


「ふん! ――『クラッシュハンマー』! ――――何っ!?」


 セーダンの腰の捻りを加えた正拳突きと、壁をぶっ壊すことを目的にすることもある『クラッシュハンマー』が激突するが、弾かれたのは槌士の方だった。

【大拳闘士】は強力な自己バフ『闘気』を持つ。いくらスタークスのバフで能力が上がろうとも、単体、しかも自己専用のスキル発動中のセーダンには補正値で敵わない。


 しかし相手も高位職。

 すぐに援護に剣士と斧士が入ろうとするが、


「ふぅぅ――――『マキシマムラッシュ』!!」


「なっ!! ――ぐああ、一気にHPを!?」


「こいつ強いぞ!?」


 連打の拳で次々とスキルを迎撃し、しかも反撃まで敢行かんこうしてこの人数差をものともしない圧倒的な実力を示す。

 近接3人がジリジリと後退しながら陣形を取り直すが、セーダンは止められない。


「く、このままじゃマズいぞ!」


 剣士が叫ぶ。

 そのとき、舞う土埃に紛れてセーダンの側面から大きな影が迫った。

 聞こえてきた〈スキル〉詠唱にセーダンがすんでのところで気がつき、それを迎撃する。


「――『波動拳』!」


「!! 『ザ・パンチ』!」


 ガキンッ!

 金属同士がぶつかる音が聞こえ、両者が弾かれた。

 そこにいたのはセーダンと同じく両手にナックル装備をした、先ほどまでスタークスの隣に立っていた大男、ゴウだった。


「!! 隊長!」


「お前たちにコイツの相手は無理だ。ここは俺に任せて他へ行け」


「お、おう。隊長、頼むぜ、こいつは並の相手じゃねぇ!」


 近接3人は大男ゴウの言葉に従って離脱するが、セーダンはそれを追うことはせずに見送る。

 それは目の前の大男がかなり強力な使い手であると肌で感じたからだ。


 そしてその勘は当たっている。

 この大男ゴウこそ〈24組〉戦闘職で最強を誇る者。

〈24組〉迎撃隊隊長。闘士系の高位職、高の下。【武僧】のゴウだった。

 先ほどまで拠点の上部にいたはずだが、ゴウはセーダンにより押し込まれているとみるや、スタークスにバフを掛けられてここに飛び込んで来たのである。


「あの一撃を迎撃するとは、さすがだな。完全に入ったと思ったのだが」


「これでも〈2組〉のリーダーを務めている。そう簡単に仕留められるとは思わないでもらおう」


「ふ、俺は〈24組〉迎撃隊隊長のゴウ」


「俺は〈2組〉リーダーのセーダンだ」


「相手にとって不足無し。いざ!」


「参る!」


 これ以上の言葉は不要と、両者が一気に迫り両の拳を振るう。


「――『千手闘拳せんしゅとうけん』!」


「――『マキシマムラッシュ』!」


 両者の拳の連打の嵐が火花を散らしながら激突した。

 素早く足を動かし、自分に有利な位置取りを行ないながらのスピードバトル。


「『武拳』!」


「『一撃必殺拳』!」


 拳同士が激突し相殺。衝撃だけが周りに飛び散った。


 周りに居る者は近づくことすら出来ない。


「くそう、なんだあのバトルは!」


「隊長の方には近づくな! 邪魔になるだけじゃすまない! 巻き込まれるぞ!」


「下がれ下がれ!」


 周囲は自然と巻き込まれないように距離を取る。

 そして大男ゴウとセーダンは周りの混乱も関係無しにその激しさを増していった。


「さすがだ。俺の動きに付いていけるとは」


「こちらも驚いている! 〈24組〉にこれほどの使い手がいるなんてな」


 拳を交えながらもお互い、これほどの闘士の使い手が居ることに驚いていた。

 しかし、拳と足は止まらない。否、止まることはできない。


 決め手に欠けながらも時間だけが過ぎていき、そうして最初に音を上げたのは〈2組〉のセーダンだった。


「(くっ、MPが。消耗が激しすぎる。タンクを抜き、ここまで来るのに多くMPを消費したのが響いてきたか。それに対し、ゴウは途中から参加してきた。まだまだMP残量は多いだろうな)」


「どうしたセーダンよ。息が上がってきているぞ」


「ふ、まだまだこんなもんじゃない!」


 とはいえ〈2組〉の猛攻は完全に止められていた。

 18人というかなりの大規模な攻めだったにも関わらず、相手の拠点の人数はほぼ最大数の29人。しかも全員が高位職だ。

 強力な使い手の多い〈2組〉といえど、数で勝る相手、しかもバフによりパワーアップし、スタークスの指揮によって統率された〈24組〉の相手をするのは難易度が高かった。


 さらに突出した実力を持つセーダンが、たった1人に押さえつけられているというのも大きいだろう。

 このままでは消耗戦になる。


 ――引き時だった。

 これ以上の攻勢は無意味と判断し、セーダンが撤退の指示を出そうとした。

 しかし、そのタイミングで事態は大きく動き出す。


「な、何だあれは!」


 それに最初に気がついたのは〈2組〉の最後尾に付いていた回復職の男子だった。

 ふと後ろを振り向いたところでとんでもない事が起きていたのだ。


 北側には山がある。4マスを使っただけの一番小さいサイズの山だ。

 その山の裏側から、突如として十数人の学生たちが押し寄せてきたのである。


「な! あれはどこのクラスだ!? 〈2組〉と〈24組〉の乱戦に割り込む気かよ!?」


「マズい!? 三つ巴の乱戦になるぞ!?」


「馬鹿! このままだと挟まれる! 逃げるんだよ! ――セーダンは!?」


「今向こうの隊長格とバトってる!」


〈2組〉の男子たちが大混乱する。

 このままでは〈2組〉の後ろから新たなクラスが襲ってくる。

 前と後ろに敵を持った〈2組〉は間違いなく甚大な被害を負うことは間違いなかった。

 セーダンもそれを見て目を見開き驚愕する。そして、それは大きな隙だった。


「あんなものに動揺するのも分かる――が、この俺を前によそ見とは、舐められたものだ『千手闘拳せんじゅとうけん』!!」


「!! しまっ、ぐおおおぉぉぉぉっ!?」


 背後に千手の幻影を背負った拳の雨がセーダンをついに捉える。

 足をフルに使い、拳をクロスガードにして必死に下がる。


「逃がさん! はああああっ!!」


「いかん! リーダーを援護しろ!」


 追う大男ゴウだったが、偶然セーダンが下がったところには〈2組〉のメンバーがいた。

 すぐに斧士系の男子が援護に入ろうとするが。


「うおおぉぉっ!」


「くっ!? 邪魔をするな! 『武拳』!」


「ぎゃあぁぁぁぁ!!」


 一瞬の抵抗のあと、一撃で元々少なかったHPを削りきられ、斧士系の男子は退場してしまう。

 しかし、そのおかげでセーダンはなんとか生き延びることができた。


「撤退する! 急げ!」


「逃がすと思うかセーダン!」


 大男ゴウがセーダンに向かって走る。セーダンは急ぎ〈MPハイポーション〉を取り出すとぶちまけるようにしてあおり、MPを少し回復。

 大男ゴウを押さえに掛かった。

〈2組〉が撤退するのに、この男は間違いなく障害になる。押さえられるのはセーダンしかいなかった。


 しかし、撤退は思わぬ者たちに阻まれる事になる。


「な、こいつら襲撃者を背に!? 俺たちを逃がさないつもりか!?」


 それは〈24組〉のタンクたちだった。

 彼らは拠点近くまで突き進んだ〈2組〉をまるで囲むようにして撤退通路を阻み、インターセプトしてきたのだ。

 タンクたちは完全に北からの襲撃者を背にしている。このままでは〈2組〉の撤退は阻めるが、自分たちも挟まれて大打撃を受けることは、ちょっと考えれば分かることだった。


 それなのに〈24組〉が〈2組〉を逃がさないような陣形を取る意味とは?


 そこで拠点の方角から拡声器を使った指示が届く。

 声の主は、スタークスだった。


「所属を明らかにせよ」


 瞬間、今まで戦っていた〈24組〉の学生たちが何かを体に貼り付けた。

 それはシール。

 24組と数字で書かれた、シールアイテムだった。


 その意味を〈2組〉の男子たちは正確に読み取った。


「!! こいつらグルだ!!」


 所属を明らかにする。確かにスタークスはそう言った。

 なぜこのタイミングでそんな指示を出すのかは明らかだ。

 つまりは、襲撃者に〈24組〉の学生を襲わせないために他ならない。


 そう、襲撃者――このタイミングでやってきた〈45組〉はすでに〈24組〉と同盟関係にあったのである。


「襲撃者は俺たちだけを襲うつもりだぞ! 急げ! 逃げろおぉぉぉ!!」


「各自全力で撤退しろ! とにかく生き残ることに最優先だ!」


 戦況が膠着し、〈2組〉の突撃力が落ちたこのタイミングでの増援。

 しかも地形的に背後から挟むような戦略。

 全てはスタークスの掌の上だった。


「ここにいたクラスメイトは29人。残りの1人がどこにいたのかって? もちろん同盟クラスの下に決まっているよね。タイミングを計らなくっちゃだしさ」


 誰に聞かせるでもなくスタークスはそう呟く。


「さて、最後の仕上げだ。〈2組〉にはここで退場願おうか」


 スタークスは拠点から戦況を見渡しながらにこやかにそう言った。



 ------------

 後書き

 近況ノートに添付で図を貼り付けました!こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16816927860354796441


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る