第504話 エステルの『ドライブ全開』無双と競争。




「『ドライブ全開』! ――からの『戦槍せんそう乱舞らんぶ』!」


「プギィ」


「プギャ!」


「プギャアァァァァ!!」


 エステルの複雑な高速移動からのランスの乱舞により〈ソードブルオーク〉たちは完全に翻弄され、その速度に付いて行けていない。次々に光に還っていく。むっちゃカッコイイ。

『ドライブ全開』したエステルがマジカッコイイです!


 四段階目ツリー『ドライブ全開』。

 今までの『ドライブ』系スキルの中でも自由度が高く、緩急つけたスピードを操ることが可能なスキルだ。バックも出来るし、ある程度小回りも効く。

『オーバードライブ』が最高速度を引き上げるスキルだとしたら、『ドライブ全開』は加速を操るスキルだと思ってくれていい。

 戦闘で攻撃と組み合わせて使うなら『ドライブ全開』が有効だ。


 さらにもう一つの四段階目ツリー『戦槍せんそう乱舞らんぶ』。

 これも自由度の高い攻撃スキルだ。これまでのスキルとは違い、決まった型のようなものが無く、敵に近づいたときに高威力の攻撃の連打を繰り出すというスキル。しかも発動時間がやや長い。

 これと〈足特装型〉と『ドライブ全開』が組み合わさったことにより、移動しながら複数の対象へと攻撃が可能になった。


 要約すると、エステルは次々敵に迫っては無双しまくる、頼もしいなんかそういうのになっていた。これが戦車、無双する戦車? うむ、戦車だ(?)。よくわかんなくなってきた。




 初戦闘から何戦かするとエステルの動きは格段によくなり、すでに〈足特装型〉を使いこなしつつあった。


 タンク役で俺が引き付けるまでもなく、もう三体同時でも軽く瞬殺、エステル一人で楽勝という有様である。

 さすが上級職。四段階目ツリーの組み合わせ。

 中級上位ダンジョンとはいえ上層モンスターではもはや相手にならないほどだ。

 上級職強ぉー。そしてかっこいいー!


「エステルさん、すごくかっこいいね!」


 俺と一緒にハンナも目をキラキラさせている。


「だよな! ロマンの塊過ぎるぞエステル!」


「いえ、そんな。すべてはゼフィルス殿のおかげです」


 キュィーンと〈戦車〉を鳴らしながら帰って来たエステルをべた褒めする。

 これは戻ったらラナたちにも是非見せてあげなくちゃな。

 絶対俺とハンナみたいになるぞ。


「……エステル……」


「ん? どうしたカルア、そんなにエステルを見つめて?」


 なんだか変な気配を感じて振り向くと、そこではカルアが目を爛々とさせてエステルを見つめていた。

 俺の言葉は耳に聞こえていないように見える。エステルの戦車が琴線に触れた?

〈エデン〉スピードトップの実力者カルアにライバル登場? そんな見出しが頭に浮かぶ。


「『ソニャー』! !! あっち、数五! エステル、行く!」


「あ、待ってくださいカルア」


「どっちが多く倒すか、競争。『爆速』!」


「むむ。いいでしょう。『オーバードライブ』!」


 いきなり競争が始まった!?

 珍しく燃えているカルアに触発されたのか、いきなりの勝負にエステルも受けてたち、俺とハンナを置き去りにして超速で奥へと消える。


「いっちゃった」


「いっちゃったな。ははは。あんなカルアとエステル初めて見たかもしれない」


「みんなはしゃぎたいんだと思うよ。だって上級職だもん」


「上級職だもんな。俺だってエステルやシエラみたいな装備があったらずっとはしゃいでいる自信があるぜ」


「え? ゼフィルス君はいつもはしゃいでいると思うけど」


「……そういえばそうだった!」


 こいつは一本取られた。

 ハンナ、俺から一本取るとはやるじゃないか。


「まあいい。とりあえず追いかけよう」


「うん。でも中級上位ダンジョンでパーティが別行動ってすごいね」


「これが上級職の力だな。まあ下層の方ではさすがに苦戦するかもしれないが、上層は余裕だ。週末は下層に行きたいな」


「ふふ、そうだね。私も早く上級素材扱いたいもん」


 カルアとエステルが消えた方角へ歩きながらハンナとおしゃべりだ。

 そういえば久しぶりに二人になった気がするな。


 ハンナもみんなと同じく上級職になっていろいろ試したくてうずうずしているらしい。

 上級素材を早く扱いたいのか。ならさっさと上級ダンジョンに行かないとなぁ。


 上級下位ダンジョンに行くには中級上位ダンジョン5箇所クリアが入場条件だ。LV条件は無し。

 まあ、これは言外に上級職へ〈上級転職ランクアップ〉せいと言っているんだけどな。上級職になったらLVはリセットされるから。


 一応下級職で上級ダンジョンをクリアするのは……まあ裏技やネタ的なやり方はいくつかあるが基本的に不可能だしな。


「やっと上級ダンジョンへ行く準備が整ったな……」


 とりあえず、上級職五人プラス一人は揃った。これが一番難易度が高いので順調に進んでいるといえる。

 早い段階で〈上級転職チケット〉が揃ってよかったよ。

 後は中級上位ダンジョンを5箇所クリアすれば良いだけなので、ちゃちゃっと進むぜ。


 すまないな、中級上位で躓いている学生たちよ。

 俺たち〈エデン〉は一足先に上級へと進ませてもらうぞ! 悔しかったら上級へ付いてきな!


 とはいえ上級職に就いたからと言ってそう簡単に上級を攻略できるわけではないんだけどな。


 俺だってまずは上級の上層でしばらく慣らして、装備を整えてから少しずつ進む予定だし。時間は掛かる予定だ。

 上級ダンジョンは今までのように一足飛びで攻略は出来ん。

 しかし、攻略できなくても上級素材をゲットできるなら問題ない。さっさと上級ダンジョンに行って、ハンナを満足させてあげたいね。


 と、そこまで考えて思い出したことがあった。


「そういえばハンナ、〈生徒会〉はどうするつもりなんだ?」


 思い出したのはハンナが現在見習いで所属している〈生徒会〉のことだ。

〈生産専攻〉でトップの実力を持つハンナは生産を司る学園運営三大組織ギルドの一つ、〈生徒会〉と縁があり、色々と手伝いをしているうちに〈生徒会見習い〉という肩書きを貰っていた。

 実は正式な〈生徒会〉メンバーになってほしいと誘われていて、〈エデン〉とは掛け持ちすることが決まっていたりする。


 この〈迷宮学園・本校〉ではギルドの掛け持ちは学園運営三大組織ギルドとのみ可能になっている。

 夏休み中、そのうちの一つ〈生徒会〉から〈エデン〉ギルドマスターである俺宛に話が来ていたのだ。ハンナを〈生徒会〉に参加させたい旨の知らせが。

 これがハンナをください的なものであれば突っぱねているところだが、〈生徒会〉と掛け持ちということでは話は変わる。


 この世界では学園運営三大組織ギルドへの参加は名誉なことらしい。一般の学生では加入したいと思っても加入できるものではない。加入できるのは厳正な審査などを通った優秀な学生のみだ。学園卒業後、〈迷宮学園・本校〉で〈生徒会〉に務めていたというのはとっても箔になる。掛け持ちしても損は無いし、俺たち〈エデン〉としても応援することに決めたのだった。


「あ、うん。結構順調かな。やっぱりゼフィルス君ってすごいね。なんだってわかっちゃうんだもん」


「別に何でもってわけじゃないぞ。知らないこともいっぱいある」


 でも〈ダン活〉知識なら任せてくれ。


「そうかなぁ?」


 なんだか疑いの目を向けたハンナだったが、改めて頷くと、えへへと笑う。

 可愛い。

 正式に〈生徒会〉と掛け持ちし、どうなるかとも思ったが順調そうでなにより。

 それなら俺は応援するだけだ。


「そうか、〈生徒会〉頑張れよ」


「えへへ。うん、頑張るね。でも〈エデン〉での活動が少し減っちゃうかもしれないけど大丈夫かな?」


「ま、大丈夫だろ。大丈夫じゃなくてもなんとかするから安心しろ。それに〈生徒会〉に伝手があるっていうのは悪い話じゃないしな」


 ハンナを安心させるために軽い調子で返す。

 言ったことは嘘ではない。〈生徒会〉にギルドのメンバーがいるというのは結構心強い。


 ゲーム時代では生産を司る〈生徒会〉にメンバーが所属していないと起こらないクエストがあったり、〈生徒会〉のメンバーにだけ手に入れられたレアアイテムがあったりしたんだ。

 それに、市場では手に入りにくいアイテムを購入できたりする特典もあって、俺も誰かしらを〈生徒会〉に所属させよく利用していた。


 さてリアルだとどうなるのか。

 ちょっと楽しみだったりする。


 ハンナもやりたがっている様子なので、ハンナのやりたいようにさせてあげよう。

 ただ、〈エデン〉での最低限の活動はしてくれなきゃ困るので、その辺はハンナには頑張ってもらわなきゃいけないが。



 そんなことを話しているとエステルとカルアに追いついた。


「あ、カルアちゃんたち見つけたよ」


「お、カルアが勝ったみたいだな。ぶいしてる」


 例の競争はカルアの勝利だったみたいだ。




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