第502話 上級職の試運転、シエラのロマンな自在盾。




「行くわね、スキル発動、――『四聖操盾しせいそうじゅん』!」



 シエラがまず発動したのは、【操聖そうせいの盾姫】の基本にして奥義にしてユニーク級とも呼ばれていた強スキル。

 ――『四聖操盾しせいそうじゅん』。


 発動した瞬間、シエラに新しく装備された四つの白の小盾にポゥっと淡い光が灯り、シエラの体から離れ空中に浮かぶ。

 これは全てシエラの意思によって動く、従順な盾だ。

 シエラを中心に前後左右に展開して浮遊し、今か今かと指示を待つ。


 その姿に満足し、シエラは次のスキルを発動した。


「――『攻陣形こうじんけい四聖盾しせいたて』!


 これは自在盾を攻撃陣形に整え、盾の防御力を攻撃力へと変換し、敵へアタックを仕掛ける次のスキルをより強力なものへと昇華させる。


「続いて――『インパクトバッシュ』!」


 シエラの続いてのスキル発動により四つの小盾にエフェクトが灯り速やかに前へ飛ぶと、一気に目標へ向かって飛翔し突撃した。この四つの小盾はそれぞれに『インパクトバッシュ』のスキルが掛かっている。


「!! プッ! ッ、プビィ――!?」


 四連撃にメッタメタにされて、敵対していた〈ソードブルオーク〉のHPがゼロとなりエフェクトに消えた。


「強いわ……」


 自分が起こしたそのスキルの強さに思わずと言った感じにシエラが呟いた。


 俺もそれに深く頷いた、強い。

 そして何よりかっこいい!


 この中級上位ダンジョンの一つ、〈強者の鬼山ダンジョン〉。

 難易度で言えば〈ランク8〉相当のここのモンスター相手に、タンクのシエラですら簡単に屠れてしまうほど、その小盾の攻撃は強力だった。


 しかもシエラ本来の力、防御ではなく攻撃でこの強さ。


 これが上級職、高の上に分類される【操聖そうせいの盾姫】の力だ。




 話はつい先ほどにさかのぼる。

 例の〈上級転職ランクアップ〉を果たし、ステータスを振ったところ、じゃあ一狩り行こうと今に到る。

 え? 略しすぎ? まあ少し細かい事を説明するとだ。


 ステータス振りは下級職のやり方と変わらず、上級職に就いた祝儀しゅうぎSPスキルポイントが10P貰えて、下級職の時から貯めていたものと合わせて振っただけだ。

 上級職になって開放された四段階目ツリーは強力であり、上級職の基礎になる〈スキル〉と〈魔法〉である。

 しっかりとみんなに説明したぞ。


 まあしっかり性能まで教えすぎたせいでワクワクが爆発したラナが「狩りに行きましょう!」と言い出してみんながそれに賛成し、どこに行くかの話題になったときに「上級職なのだから高ランクへ」ということになって〈ランク8〉のダンジョンまで来たわけだ。

 これ以上のダンジョンはAランクギルドやSランクギルドが現在入ダンしているらしいので、練習も兼ねるなら誰も入ダンしていないここに落ち着いたわけだな。

 中級上位ダンジョンからは上級職にも経験値が入るようになるし、良い判断だった。


 まさか記念すべき中級上位ダンジョンにこんなノリで突入するなんて思わなかったぜ。

〈ダンジョン門・中級上伝〉通称:〈中上ちゅうじょうダン〉にいた上級生たちなんて固まって目を点にしていたぞ。

 ちょっとノリノリしすぎたかもしれない。



「シエラのスキル凄いわね! 何その浮いた盾! かっこいいわ!」


「ありがとうラナ殿下。まだ自分で動かすのに慣れていないからスキル頼りになってしまっているけれど、腕が上がればもっと複雑な動きも出来ると思うわ」


「うう、なんだかシエラが羨ましくなってきたわ。何よあの浮いた盾、自分で操作可能で攻撃にも防御にも援護にも使えるってかっこよすぎだわ! ――ねえゼフィルス、私の【大聖女】にはああいうかっこいいの無いの?」


 うむうむ。ラナの言うことは凄くよく分かるぞ。

 だが、非常に残念ながら俺の答えはこうだ。


「【大聖女】には【大聖女】の良さがあるさ」


「何よそれっ」


 俺だって本音を言えば盾を自在に操って敵を倒してみたい! かっこいい!

 だが残念ながら盾を操るのは【操聖そうせいの盾姫】専用なんだ。無念だ。


 くそうっ! 盾を操って敵を倒し、味方を守るとかロマンの塊じゃねぇか!

 いいぞ開発陣もっとやれい!


 そしてラナだが……。


「そうだなぁ。【大聖女】の回復なら前より豪華で美しい演出が加わっているし、攻撃ならもっと派手にかっこよく、そして煌びやかになっているぞ。総じて豪華さが増していて、演出度では【操聖そうせいの盾姫】にも引けを取らない」


 さすがにロマン度では勝負はできないが、という言葉は呑み込んでおく。


【大聖女】は最強職の一角、〈上級部門・公式最強職業トップオブジョブランキング〉でも常に一桁台にいた〈ダン活〉最高の職業ジョブだ。

 当然開発陣の力の入れ具合は凄まじく、特に後半に覚える魔法は豪華な演出が組まれている。


 さすがは【大聖女】! とさけばれるくらいの演出はあるので安心してほしい。

 だが多分、ラナが今求めているのはそういうのじゃないんだろうな。

 ――端的に言えば、ラナはロマンを求めている。


「本当! 私もあんな感じの出来る!?」


 ラナが指さすのは今シエラが頑張って操作しようとしている四つの盾だ。ほんと、アレの衝撃はすごいな。

 あんなロマン溢れることが出来るのかと言われれば答えは……。

 とりあえずニコッと笑顔でごまかしておく。


「テンション上がってきたわ! カルア、てきはどこにいるかしら!?」


 どう解釈したのかラナのテンションが激増した。良い笑顔で手を斜め上に向かって広げている。うむうむ、良いテンションだ。ということにしておこう。

 そしてカルアに探知を依頼、のニュアンスが少し違う気がしたのは気のせいだろうか?


「ん。『ソニャー』! んん、あっちにいる。二体」


「纏めて倒してあげるわ! 次は私の番よ!」


「おう、んじゃ行くか!」


「おー!」


 カルアの『ソニャー』に感あり。

 俺たちはカルアが指さす方へと向かう。


『ゲスト』で一緒に来ているハンナと採取をしながら進み、俺たちは初の中級上位ダンジョンであるにも関わらず、非常にゆるい進行でダンジョンを進んだ。

 全部上級職のおかげだな。


 お、次の相手は〈アーチャーブルオーク〉が二体か。

 シエラが大盾を構え、さらに自分の周りに四つの小盾を浮かせながら前へ出る。


 そしてラナは新魔法の準備に入った。

 上級職の試運転は、まだ始まったばかりだ。




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 後書き失礼します!

〈ダン活〉連載一周年!!

 皆様の応援でここまでやってこられました!

 ありがとうございます! ありがとうございます!

 これからも〈ダン活〉をよろしくお願いいたします!

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