第494話 ラナの【聖女】の〈上級姫職〉ルート。




「ありがとう、ゼフィルス」


 シエラが両手を胸にギュッとして、そう短く呟いた。


「おう」


 俺も短く返す。

 感動しているシエラを、邪魔しないよう、できる限り気を逸らさないように。


 そんな様子をみんなも感じたのだろう。静かに見守る。


 シエラは胸に片手を当てて、ジンっときているように目を瞑ると、クルリと回ってこちらを向いた。


「あとでまたステータスの振り方やスキルの使い方、教えてね。私【操聖そうせいの盾姫】、初めて見たのよ」


「もちろんだ任せとけ! 最強の盾職育成論を披露するぜ!」


 ばっちり【操聖そうせいの盾姫】の育成論も用意してあるぜ。むしろ【盾姫】とセットで最強育成論だ! 元々シエラの職業ジョブは【操聖そうせいの盾姫】に就くための最強育成論である。


 俺が任せとけと親指を立ててグーすると、シエラは優しい笑顔で微笑んだ。

 ヤバイ。いつも以上に優しい笑顔。とても心にグッと来る!


「お願いね。――では、私の番は終わりね。次はラナ殿下?」


「私の番ね! シエラも〈上級転職ランクアップ〉おめでとう! すごく気分が高揚してるわ!」


 おっと、移り変わって今度はラナの番だ。

 ふっふっふ、最強の盾職には最強のヒーラーを組ませるものとゲームの世界では決まっている。

 もちろんラナの分も用意しているとも!


「シエラ殿、〈上級転職ランクアップ〉おめでとうございます」


「おめでとうシエラさん!」


「ん、お祝い。シエラおめでとう」


「ええ。みんなありがとう。とても嬉しいわ」


 落ち着いたことでみんなでシエラをお祝いする。

 シエラも頬を紅潮させながらみんなの下へ来て、代わりにラナが〈竜の像〉の前へと出た。


「――なんだか心臓がドキドキしてる。ゼフィルス、お願いね」


「おう、任せとけ! それで、ラナの〈上級転職ランクアップ〉先だが――」


 ラナの職業ジョブは【聖女】。

〈姫職〉最強とも言われた【聖女】の〈上級転職ランクアップ〉先は、3つある。

 俺が言おうとしたところで、ラナがそれを見越して先に言った。


「分かっているわ。私も帰省中に王家に伝わっている資料を読んできたの。【聖女】の正しい〈上級転職ランクアップ〉ルート3つ。回復をさらに特化した魔法構成を持つ【心癒しんゆの聖女】。支援に特化した魔法構成を持つ【光輪こうりんの聖女】。そして【聖女】の能力を全体的に上昇させ上回る【大聖女】ね」


「よく勉強しているな~」


 褒めるとラナが胸を反らし、得意げにふふんとする。興奮しているのか、頬が染まっているのがちょっと可愛い。

 なるほど、さすが「王族」カテゴリーの職業ジョブだ。この世界の王家にも〈上級転職ランクアップ〉先は知られていたんだな。


 そう、ラナの言うとおり【聖女】とは支援回復系統の最高峰の職業ジョブだ。

 そのためラナが今言ったとおり、〈上級転職ランクアップ〉先は、回復特化、支援特化、オールマイティの3つに分かれる。ちなみに発現条件を満たさない通常ルートになると、【クイーン】という【プリンセス】の上級職の職業ジョブになってしまうため、しっかり発現条件を整えよう。


「それでゼフィルス、その、3つのうちどの上級職になるの?」


 ラナが少し上目遣いになって見上げてくる。

 思わず「うっ」と声が出た。

 その上目遣いの破壊力もそうだが、もう完全に俺に任せてくれる、頼ってくれる素振りになんだか心からジーンと嬉しくなったのだ。


「ゼフィルス?」


「……ジー……」


 ラナの声と、なんだか後ろから複数の視線を感じて我に返った。


「あ、ああ、そうだな――こほん!」


 聞かれたからには答えないわけにはいくまい! 俺は咳払いして気合を入れなおす。

 活目せよ! ラナについて欲しい職業ジョブ、それは――。


「――ラナに就いて欲しい職業ジョブは、【大聖女】だ!」


 俺は思わず握りこぶしを作って力を入れた。


「【大聖女】!」


「ユーリ様の【英雄王】に並ぶ最高位の職業ジョブですね」


 ラナが飛び上がって満面の笑みを浮かべ、エステルが興奮しているように頬を染めて解説する。


「やっぱりね! ゼフィルスなら【大聖女】を選ぶと思ったわ!」


 ラナも予想がついていたのだろう。完全に予想通りだったらしい。

 まあそうだろうなぁ。


 回復特化の【心癒しんゆの聖女】は非常に強力な回復魔法使いではある。

 正直言って、回復特化職でこの職業ジョブの右に出るものはいない。

 しかし、そこが欠点でもある。

 どういうことかと言うと、はっきり言って【心癒しんゆの聖女】はオーバー回復なのだ。回復が強すぎて過剰なのである。

 なら、その過剰分のリソースを支援でも攻撃でも分けてあげたほうがパーティはよく回るのだ。だが、【心癒しんゆの聖女】は癒し特化なのでほとんど強力な支援と攻撃魔法を覚えないのである。本来ならギルドバトルやレイドバトルなんかで活躍するのが前提の上級職なのだ。故に選択肢から除外。


 いや、強いんだけどな。一応フォローすると、この先に起こるレイドバトルなんかでは非常に大活躍するだろう。ギルドバトルでも特定の装備を持たせて遠距離から回復砲台にするとマジやばいのだが、ダンジョンで普通に使うなら過剰なのだ。


 そして【光輪の聖女】だが、こちらは支援特化のスペシャリストだ。非常に強力な強化魔法で味方の能力を底上げし戦況を有利に進めてくれる。

 それにプラスして反射魔法の支援とかバリア魔法の支援とか飛ばせるので、ギルドバトルなんかでもむちゃくちゃ活躍するし、さらにMPを回復する支援も数種類覚えるため非常に強力だ。ここが一番デカいな。MPを潤沢に使えるようになった味方はマジでヤバい。MPポーションの在庫を気にせず撃ち放題できるからな!

 また霊草や聖樹の栽培、育成や霊薬作製などのスキルも覚えるのだが、これは【大聖女】でも覚えるためいいだろう。


 ゲーム〈ダン活〉時代は【聖女】を〈上級転職ランクアップ〉する時、大体この【光輪の聖女】か【大聖女】だったな。



 そして本命の【大聖女】。

【大聖女】はオールマイティ、【聖女】の能力をさらにパワーアップさせた構成となっている。

 さらに【心癒しんゆの聖女】や【光輪の聖女】の魔法もいくつか覚える他、SUPが1高いという非常に重要な特性も持っている。ここ重要。


 また攻撃魔法や防御魔法も強力なものを覚えてくれるため、ダンジョン、ギルドバトル、レイドバトル、どこでも活躍が可能。俺の求める構成にもピタリと合致する。


 さらに注目なのがそのユニークスキルだ。コレこそが大本命。

 その名も『光守られし聖なる奇跡』。効果は〈強化バフ系を打ち消すスキルの無効化〉だ。

 つまり、よくある特定のボスが使ってくるバフを打ち消すスキルを無効化するユニークである。

 バフ打消し無効とか、とんでもないユニークだ。これだけで最強ボス相手の立ち回りが数段有利に動ける。バフの掛けなおしに手間取ることも無く、ずっと強いままボスと戦い続けることが可能なのだ。とてもヤバイ。


 派手な能力では無いが、攻略に非常に重要なユニークスキルである。

 これがあるからゲーム〈ダン活〉時代は【大聖女】はとても人気があったのだ。


 これも、最初からラナには【大聖女】を目指すためにステータスビルドを振ってもらっていた。

 ようやくそれが活かせる日が来たぜ。


 俺は早速ラナにも〈天聖てんせいの宝玉〉を渡し、【大聖女】の発現条件を整えてもらう。



 ーーーーーーーーーーーー

 ラナの〈上級転職ランクアップ〉まで行けなかった。

 なので今日はもう一話行きます!

 次話10:30。

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