第493話 上級職ランクアップ! シエラ編!




『シエラに最強の盾職になってほしい』


 俺の要望にシエラはしばらく目を合わせて黙った。その時間は数秒だったはずだが体感では数十分、数時間が経ったかのように長く、そして自分の鼓動がやけに強く感じた。

 その雰囲気に呑まれラナたち他のメンバーたちも口を閉じ、〈測定室〉に無言の空間ができる。


 しかし、その空間もシエラが答えたことにより再び動き出す。


「――いいわ。ゼフィルスが盾職最強と言う職業ジョブ、就かせてもらうわね」


「よっしゃ! ありがとうシエラ!」


 シエラの答えはオーケーだった。よっしゃあ!! 盾職最強だ!!

 内心で喝采を上げる俺にシエラは「これだけは覚えておいて」と言って告げる。


「ゼフィルスがそこまで推すから決めたのよ。そのところ、よく覚えていてね」


「もちろんだ! ふふふ、ありがたいぜ。これで〈エデン〉はもっと躍進するぞ! 盾職最強万歳!」


 全身で喜びを表すようにガッツポーズを取るが、シエラはなぜかジト目になった。


「……全然分かってないわね。はぁ……。それで、当然のようにあなたはその発現条件を知っているのよね?」


「ああ。この〈天聖てんせいの宝玉〉を使ってみてくれ。後は4つの〈小盾〉を〈竜の像〉の近くに並べれば準備完了だ」


「……準備がいいわね。それにこれって〈宝玉〉系のアイテムの中でも効果が分からないと言われているやつじゃないの……」


「そうなのか?」


 シエラの説得に無事成功し、〈上級転職ランクアップ〉に必要なアイテムを出したら、さらに強力なジト目を貰った。


 しかし、〈天聖てんせいの宝玉〉は〈宝玉〉系の中でも一番レア度が高くて、一番使うアイテムなのだが……。おや? これの使い道って判明してないの? 〈上級姫職〉でも2割くらいはこれ使うんだけど?

 どおりで〈宝玉〉系の中でも一番安値だと思った……。

 普通一番価値があって高いやつだから、市場で値段を見て思わず買い漁ってしまったのだが。

 まあ、いっか。今後いっぱい使うしな!


 とりあえずこれで条件は満たせるはずだ。


「じゃ、シエラこれ使ってみてくれ」


「使うのはいいけれど……」


 俺から大きさ20cmほどの、ワールドカップトロフィーのような形をして、青白く輝く〈天聖の宝玉〉を受け取るが、なぜか釈然としないとでもいうようなシエラ。

 しかし、覚悟を決めたのか、一度キリっと表情を整えると、ゆっくり目を閉じてアイテムに魔力を通すようにして使用する。


〈天聖の宝玉〉の輝きが増していき、そして粒子を撒き散らすようにして消え、その粒子がシエラに纏わり付くようして消えていった。

 その姿は、なんと言うか幻想的で、かっこよく、そしてキレイだった。


「キレイな光景ですね」


「ほんとね」


「シエラさん素敵です……」


「ん」


 いつの間にか隣にいたエステルとラナ、ハンナとカルアもその光景をキラキラした目で見つめていた。俺も初めての幻想的なシエラの光景に思わず息を飲んだ。この演出、すごくいい!


 しかしそれも数秒して、シエラのアイテム使用エフェクトタイムが終わってしまう。


「ああ。終わっちゃったな。残念だ」


「もう少し見ていたかったわね」


「あまり褒めないでもらえる? その、少し恥ずかしいから」


 む! 恥ずかしそうに目を逸らすシエラ! プライスレス!


「シエラさん疲れていませんか? お茶入りますか?」


「ありがとうハンナ、でも大丈夫よ。後でいただくわね」


 ハンナ、なぜダンジョンでも無いのにお茶を用意しているんだ? 多分〈測定室ここ〉は飲食禁止だと思うぞ。


「後はこの〈小盾〉4つを〈竜の像〉の近くに置いてくれ」


 俺が〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から取り出したのは、ちょっとレアな〈小盾〉。

 昨日の〈無限盾〉ではない、それよりちょっと見た目的センスと性能の良い白の〈小盾〉だ。なお、別に変える必要はないので〈無限盾〉でもいいのだが、〈無限盾〉は見た目が木製のバックラーなので、これからの行為には適切ではないのだ。

 金属製の白い〈小盾〉4つのほうが見た目的に映えるのでこの選択です。


 そして〈小盾〉系をこうして4つ〈竜の像〉の前に置いたら準備完了だ。

 シエラが一つ一つ丁寧に〈竜の像〉の近くに〈小盾〉を置いていく。


「準備できたわ」


「よし、じゃあもう一度〈竜の像〉に触ってみてくれ。多分出てるぜ?」


「……少し、ドキドキするわね」


 これで発現条件は全て満たしたはずだ。


 ――【操聖そうせいの盾姫】の発現条件。

 ―――――――――――

①〈【盾姫】の職業ジョブLV75まで育成している〉。

②〈ステータス値【VIT】と【RES】が400を超える〉。

③〈〈天聖の宝玉〉の使用〉。

④〈盾を5つ装備してモンスター300体の攻撃を受ける〉。

⑤〈〈上級転職ランクアップ〉の際、4つの小盾を〈竜の像〉の近くに置く〉。

 ―――――――――――

 以上だ。


 これを例の〈上級転職ランクアップ〉の条件に当てはめると、

①〈【○○】の職業ジョブLV○○まで育成している〉。

②〈ステータスのいずれかの基本数値が規定値を超える〉。

③〈〈○○〉アイテムの使用〉。

④〈特殊条件〉。

⑤〈特殊条件〉。


 となるな。

〈カテゴリー○○を持つ〉は【盾姫】に就いている時点で満たしているのでカットされている。その代わりに〈特殊条件〉が2つ付いているな。


 準備はすでに完了。

 発現条件は全て満たしている。

 シエラはまた〈上級転職チケット〉を胸に押さえながらもう片方の手で〈竜の像〉に触れる、すると、先ほどと同じ一覧に、【操聖そうせいの盾姫】の選択が新たに現れていた。



 シエラが俺に確認するように視線を投げてくるので、俺は親指を上に立ててグーをしつつウインクする。

 いったれシエラ。


「――【操聖そうせいの盾姫】に」


 シエラが呟いた瞬間。

 一覧表の【操聖そうせいの盾姫】がズームアップし、他の選択肢が消える。


 シエラの【盾姫】が消え、そして【操聖そうせいの盾姫】に入れ替わった。


「っ!」


 シエラを中心に一瞬だけ白い蛍のような光がポゥっと現れ、次の瞬間には4つの〈小盾〉が宙に浮き、シエラの周りを囲ってまるで踊りだすように回りだした。


「わ、これは何?」


「〈上級姫職〉の演出だな」


「演出なの?」


 驚くシエラに端的に説明すると、さらに疑問が返ってきた。

 まあ、そうだろう。普通は〈上級転職ランクアップ〉で演出なんて起こらない。

 しかし、一部の高位の職業ジョブには〈上級転職ランクアップ〉時にこういう演出が組み込まれていたのだ。

 プレイヤーのモチベーションを上げるための開発陣の涙ぐましい努力です。

 おかげでプレイヤーはこの演出が見たいためにモチベーション高く職業ジョブの発現条件を揃えたものです。

 よくやった開発陣!


 しかし、リアル演出だとすごいなこれ……。

 ゲームの時は、ここまでの演出ではなかった。

 なんだかパレードの一部みたいで見ていて圧倒されるかのようだ。

 端的に言えば美しく、幻想的な光景。

 さっきは思わず感想を言っていた女子四人も今は言葉を忘れて見惚れていた。


 だが、残念ながらこの演出もすぐ終わってしまう。


 浮いて踊っていた4つの〈小盾〉は次第に集まると、元あった〈竜の像〉の近くに戻っていった。

 ああ、残念。終わってしまったなぁ。


 しかし、これが起きたということは、シエラの【操聖そうせいの盾姫】への〈上級転職ランクアップ〉は成功したということだ。


「シエラ、――上級職【操聖そうせいの盾姫】の〈上級転職ランクアップ〉、おめでとう!」


 俺はシエラへ祝福の言葉を告げる。


 ――【操聖そうせいの盾姫】。

 空中に浮かぶ4つの自在盾を操りパーティを守りきる、〈ダン活〉最強の盾職。


 これでシエラは上級職だ。




 -----------

 後書き失礼します。

 クリスマスプレゼントはいかがでしたでしょうか!?

 喜んでいただけたなら幸いです! 明日からは【毎日更新】に戻ります!


 新連載【ゲーム世界転生〈ダン活〉EX番外編~ハンナちゃんストーリー~】も

 よろしくお願いいたします!! 本日1話更新済み!

 https://kakuyomu.jp/works/16816927859237911616

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