第473話 〈金箱〉を守る主、番人〈幽霊船長〉現る!




「みゃぁぁぁぁ!?」


「ニコちゃんの声だ!」


 暗闇の階段の奥からニーコの叫び声が聞こえてきた。


 急いで階段をおりきると、そこは執務室とでもいうようなデスクやらなにやらが置かれた部屋があった。


 ニーコはそこで、幽霊モンスターを相手に銃をぶっ放しまくっていた。


「幽霊出たーー!! 出てほしいのは君ではなく宝箱なんだよー!?」


「オオオォォ――――オオオォォ―――」


「ひい!」


 あれは、幽霊系のモンスターの中でも有名な一体、〈幽霊船長〉か。


 スケルトンの人型で片手の先がフックになっていて、もう片方の手にはカットラス、頭には大きなカウボーイハットのような帽子を被っている、幽霊だ。

 怪しくポゥと光っているのが恐怖を引き起こす。


 暗い船の中でこんなのに遭遇したらそりゃ怖いわ!

 ニーコが恐慌状態になるのも分かる。


「来るな来るな! 来ちゃダメなのだよー!」


「オオ―――」


「危ないわ、『カバーシールド』! ――ひぃ」


 ニーコに剣を振りかざす〈幽霊船長〉にシエラが咄嗟とっさに『カバーシールド』で割り込んだ。

 しかし、シエラにいつものキレが無い。踏ん張れず、大きくよろめいてしまう。


「オオ――」


「き、きゃあ――」


「シエラ! 『ソニックソード』! お前の相手は、俺だ!」


「オオオォォ―――――!?」


〈幽霊船長〉の追撃に今度は俺が割って入る。

 聖属性が込められた〈天空の剣〉で斬ると、〈幽霊船長〉が大きくノックバックした。


「シエラはニーコと下がっていろ」


「ぜ、ゼフィルス……」


「俺に任せろ! 『シャインライトニング』!」


「オオォォ―――!!」


 範囲攻撃の『シャインライトニング』はこの狭い室内で使えば逃げ場は無い。

 直撃した〈幽霊船長〉が雄叫びを上げながらさらによろける。


 ここは一気に行く場面だ。


「はぁ! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングスラッシュ』!」


 魔法が終わった瞬間飛び出た俺は、剣を斜め上から一閃、その瞬間に下から上に向かいもう一閃を叩き込み、反撃の隙を与えずさらにそこから刀身に雷を纏わせた一撃を上段切りで打ち込んだ。


「オオ――、オオォォ―――!?」


 迎え撃とうとして、しかし弾かれ大ダメージを受けた〈幽霊船長〉が大きくノックバックし、部屋の壁にぶち当る。

 瞬間、大きくバランスを崩して倒れた。〈陰陽次太郎〉を思い出す壁ダウンだ。


「これでとどめだ。『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!!」


 俺のユニークスキルが刀身を輝かせ、強力な一撃を船長の頭に向かって振り下ろす。

 ズドンッと衝撃が部屋に響いた。


「オオォォ――ォ――」


 凄まじい衝撃に〈幽霊船長〉のHPはゼロになり、膨大なエフェクトが発生して沈んで消える。

 俺の『直感』にはもうこの部屋にはモンスターはいないと告げていたので、剣を鞘に収めた。


 振り返ると、3人の視線を強く感じる、そしてサチが突然叫んだ。


「か、カッコイイー! ゼフィルス君ー! きゃー!」


「おおお!?」


 狭い室内なのでよく響く。ちょっと耳がキーンとなったぞ。


「うむ……。今のはポイント高いね。どう思うシエラくん?」


「わ、私は、最初からゼフィルスを信用していた……から……」


「そうかい? ぼくは初めて異性にときめいたよ。いや、すごい。こんな心躍る展開とシーンが本当に起こるとは。事実は小説より奇なりとはよく言ったものだよ」


「……渡さないわよ?」


「おっと、勘違いしてもらっては困るよ。ぼくはあの激戦区に参戦しようなんて気はこれっぽっちも無いのだから。ただちょっとこの心躍る感情を楽しむだけさ」


「よく分からないわね」


「まあいいじゃないか。ぼくは勇者くんに手を出さないと知ってもらえていればそれでいいよ」


 なんだかサチがとても興奮した犬のように俺の側に来てはしゃいでいるところ、ニーコとシエラは何かをこっそり話していたようだ。


 しかしサチが本当に子犬に見えてきたな。

 さっき〈幽霊船長〉との戦闘で援護が無かったのは、単純に俺に見惚れていたとか言い出したときはちょっと困ったぞ。


「は~、幸せ。まさかこんなラッキー展開に遭遇するだなんて。エミちゃんとユウカちゃんが知ったら悔しがるだろうな~。は~、ゼフィルス君カッコイイ~」


 ここはかっこいいポーズで決める場面か?

 あまりにもサチのはしゃぎっぷりが凄くて少し反応に困るぜ。うん、困っちゃったな。


 とりあえず、勇者の決め顔だけ作っておいた。


「きゃーきゃー!」


「はいはい、そこまで。さっさと目的を果たすわよ」


「ありゃりゃ。わかったよー、でも目的ってなんだっけ?」


「おいおいサチ。今肝試し中だぞ」


「あれ? そうだったっけ? 何か違うような?」


「ゼフィルス? 肝試しってどういうことかしら?」


「……間違えた。宝探しだろ? ほら、なんとここに〈金箱〉が眠っていたのを発見したんだ!」


「ふおおぉぉぉ! 〈金箱〉じゃないか!!」


 うっかりミス!

 シエラがちょっとどういうことか詳しく聞かせてという感じの雰囲気を出してきたので、慌ててデスクの下に隠されていた〈金箱〉を見せてこっちに意識を持っていく。

 ふう、なんとか誤魔化せたぜ。


 ちなみこの隠し部屋みたいなところに設置されている宝箱だが、厳密には隠し部屋ではないため〈木箱〉から〈金箱〉までランダムだ。中身は俺でも分からない。


 また、〈幽霊船長〉はボスでもない。しかし、通常モンスターの中ではかなり強力なモンスターという位置にいる。

 宝箱を守る主だな、カルアやメルトたちも上の部屋で同じようなモンスターを倒しているはずだ。


 また、この宝箱が金だったのは完全に運だ。

 きっと〈幸猫様〉とニーコの能力のおかげに違いない。


「ぼ、ぼくが開けてもいいのかね!?」


「えー、今回ゼフィルス君が活躍したじゃない、開けるのはゼフィルス君じゃない?」


「それもそうだ! さあさあ勇者くん、早く開けてくれたまえ!」


「変わり身早いな! よし待っていろよ、〈幸猫様〉よろしくお願いいたします!」


「煌けぼくのユニークスキルよ! レアな物を当てておくれ!」


 いや、ニーコのユニークの効果が発動するタイミングはすでに終わっているぞ。

 宝箱の中身までは効果は及ばない。


 俺は素早く、しかし思いを籠めて〈幸猫様〉に祈ると、パカリと〈金箱〉を開け、覗き込んだ。


「ああ! これは、〈水上バイク〉じゃないか!?」


「あ~、学園からレンタルしていたタイプより少し大きめのやつだな。5人まで乗れる、いや頑張れば6人いけるか?」


 ニーコが叫んだとおり、宝箱の中にはさっきまで水上でブイブイ言わせていた〈水上バイク〉が入っていた。しかも付属品にサイドカー的な物まである大人数を運べるタイプだ。

 これはラッキー、だな、多分。でもちょっと遅い気もする。


 ダンジョンの中でもいつでも使えるし、離島にある宝箱、取り放題だ。うん。多分当たりだよ。


「この〈水上バイク〉、どういう仕組みになっているのか気になっていたんだよー!」


 それにニーコは凄く喜んでいるしな。問題は無い。

 だけどバラしちゃだめだぞ? というかアイテムってバラせるのかな?

 というかこれ、宝箱から取りだしたら部屋がえらいことになるんじゃ?


 それから一苦労あったが、俺たちGチームはこうして大きな戦果を得て帰還したのだった。




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