第472話 Dチームと情報交換して、幽霊船の最奥へ。




「あ、ゼフィルス君チーム発見ー、サチっち、ニコちゃん、シエラちゃん、やほー?」


「エミちゃん! ハロハロー!」


「お、Dチームか。メルトたちも順調か?」


 探索中、通路の途中でバッタリと出会ったのはDチームだった。

 メンバーはカルア、メルト、エミの3人。

 一応リーダーは一番LVの高いカルアということになっているが、実質メルトが指揮している。


 出会いがしらに駆け寄ったエミとサチが両手をタッチしてキャピキャピした。


 ちなみにDチームを発見した時点で俺とシエラの手と、サチとニーコの手は離れている。


「ゼフィルス、そっちの成果はどうだ?」


「いや、こっちはまだ探索を開始したばっかりだからな。成果はまだまだだ。そっちはどうだ?」


「ん、ぶい」


「え、マジで?」


 カルアが勝利のブイサインだ。

 つまり、すでに宝箱をゲットしているということ。

 Dチームの出発は早すぎず遅すぎずの悪くない塩梅だが、入ってからまだ20分くらいのはず、まさかもう発見しているとは。


「やるなぁ」


「運もよかったんだ。それに、カルアがいたのも大きい。無用な戦闘が回避できたため探索がスムーズに進められたからな」


「ん、それほどでもある」


「カルアすごいなぁ」


「そうなんだよカルアちゃんカッコイイんだよ! もうね、シュパッと消えたかと思ったら敵の位置とか、部屋の色々を調べてすぐ戻ってくるの! 宝箱もね、すぐに見つけちゃったんだよ!」


 Dチームはカルアが大活躍したようだ。メルトもエミも大絶賛だ。

 カルアは心なしかドヤっているように見える。猫耳がぴょこぴょこ動いていて可愛い。

 触ってもいいだろうか? あ、シエラの視線を凄く感じる……。


「こりゃ、俺たちも探索を急がないとな、もたもたしていたら全部取られちまうぜ!」


「俺たちは先に浜辺に戻っているぞ」


「おう、メルトたちも気をつけてな」


「ぼくも一緒に戻ってはダメかね?」


「ダメだよ~ニコちゃん」


 時間もあるので俺たちも探索再開だ。

 Dチームとはここで別れる。

 ニーコが付いて行きたそうにこちらを見てきたが、笑顔のサチががっしりと手を掴んだため肝試しからは逃げられない。


「んじゃ、シエラ、行くか」


「ええ」


 再び手を取って歩き出す。

 なんかシエラの手を取るのが自然になりつつあるな。


「ねえゼフィルス。迷いなく進んでいるけれど、どこへ向かっているの?」


「ああ。船の後方から下に行けないかと思ってな。さっきメルトたちも同じ方向から来ただろ?」


「それならもう奥の宝箱は取られているのではないかしら?」


「いや、いくらカルアの足が速くたって帰ってくるのが早すぎる。おそらくメルトたちは上部の部屋にある宝箱を手にしたんだろう。なら下の部屋は手付かずなんじゃないかと思ってな。それに、同じ道のほうがモンスターは出にくい」


「なるほどね」


 シエラたちに説明をしつつズンズンと進む。

 ちなみにこの幽霊船は毎回出現する度に内部構造がランダムに変わるため、俺でも道は把握していない。しかし、ありそうなところは予想がつくのでとりあえず手当たり次第に行ってみようという感じだ。


「でもカルアたちは敵を回避しながら進んだと言っていたわよ? モンスターはそれほど倒してはいないんじゃ……、いえ、全然いないわね」


「ああ、多分行き、つまり進むときは回避していったんだと思う。だが帰りは余裕があるからな。たぶん殲滅しながら戻ってきたんだと思うぞ?」


「なるほどね。確かに話の雰囲気はそんな感じだったかも」


 シエラの言うとおりモンスターはまったくと言っていいほどいなかった。

 モンスターは倒せば経験値とドロップをくれるのだ。

 時間があるなら倒したほうがいい。

 そして、メルトはそういう男だ。


「お、ここの扉ちょっと開いてるな」


「中は……空の宝箱があるわね」


「おそらく、カルアたちはここの宝箱をゲットしたんだろうな」


 通路の突き当たりにあった扉の中は小さな小部屋だった。こっそりと開いてシエラと覗くと、薄暗い部屋に銀色に輝く開けられた宝箱があるだけだった。

 何気に誰かに開けられた宝箱を見るのって初めてかもしれない。


「ふむふむ〈銀箱〉かね。これはレアだ。中に何がどれだけの数入っていたのか非常に興味があるよ。失敗したね、さっきすれ違ったときに何が入っていたのか聞いておけばよかった」


「おお、ニコちゃんが急に元気に!?」


 さっきまでビビッて腰が引け足が震えていたニーコがからの〈銀箱〉を見て元気になっていた。

 さすが。


「ゼフィルス、奥だけど行き止まりになっているみたい。下へ続く道は無いみたいよ」


「あれ? ゼフィルス君、当てが外れちゃったの?」


「いいや、ここを見てくれ、これって扉じゃないか?」


「え? あ、本当だ! 苔むしてて分かりづらいけど、ここ扉になってる!」


 俺の指摘にサチが驚いたように言う。


 一見苔が生えまくっている壁に見えるが、よく見たら引き戸であることがわかる。

 単純なギミックだ。

 手前の〈銀箱〉に目が行けば後ろのカモフラージュされた扉にはなおのこと気がつかない。

〈銀箱〉を囮にしているとも見えるこの配置。つまりこの奥には〈銀箱〉以上の何かがある!


 問題はこの扉だ、開くかな……? ゲーム時代は『扉開け』なんかのスキルが必要だったんだが。ここはリアル効果を信じよう。


「ここはぼくに任せたまえ! こういう場所にはお宝が眠っていると相場が決まっているのだ!」


「おお。ニーコが行くか」


 元気になったニーコが扉に飛びついていた。

 木製の出っ張りを掴んで開けようとする。


「ふぬぬ! ふんぬぬぬ~!」


「開かないね?」


「開かないわね」


「ど、どういうことかね!? ハッ! まさか朽ち果てすぎて固まってしまったのか!?」


「いや、これ多分フェイクだな。レールを使った形跡が無い」


 この扉はギミックである。

 開け方は斥候職の『看破』や『謎解き』、『扉開け』なんかで分かるのだが、それを持っているカイリがいないし、普通は分からないだろう。だが俺が知っているので試してみる。ちょっとずるいけど許してくれ。


 俺はさぞ謎解きをしていますよ~という感じでペタペタと扉を触る。


「お」


「ゆ、勇者君、何か分かったかね!?」


「多分これだな。ニーコ、下がっていてくれ」


「わかったよ!」


 かぶりつきそうな勢いで見つめていたニーコを一旦下がらせると、俺は扉の下に手を入れて、ソレを持ち上げた・・・・・


「「ええーー!!」」


 それを見たサチとニーコがおったまげたという声を出す。

 そう、この扉は引き戸に見えるが、実は持ち上げるタイプの扉だったのだ。倉庫なんかにあるシャッターのように。

 なぜ、こんな扉を採用したのか、もちろんそれは奥に見られたくない重要なものがあるためだな。これは期待大だぞ。この幽霊船は当たりかもしれない。


 扉の奥には下に降りる階段があった。少し暗い。


 しかし、ニーコは驚愕の表情を一瞬で引き締めると、1人突撃していった。


「うおー、ぼくの宝箱ー!」


「ああー、ニコちゃん待ってよー! それにニコちゃんのじゃないよー!?」


「あちゃー。モンスターが出るぞー?」


「行っちゃったわね。私たちも追いかけましょ」


 ニーコが突っ走ってしまうとは予想外だ。むっちゃ元気だな!

 急いでサチが追いかけ、シエラと俺も後に続いた。




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