第471話 誰もいなかったはずなのに、隣に幽霊出現!




「さあ、とうとう俺たちの番だぜ!」


「いえーい!」


 ノリよく応えてくれるのは仲良し三人娘の1人、【魔剣士】のサチだ。


 この子は本当女子高生って感じのノリで、とてもいいな!


 それに対し、微妙にテンション低めが2名。


「そうね。頑張って行きましょう」


「ぼくは頑張るという言葉とは無縁のはずだったんだ。勇者君、今からでもぼくを置いていかないかい?」


「安心しろって、みんなで行けばきっと楽しいぞ!」


「…………夢も希望も無いな~」


 シエラは前向きの姿勢だが、ニーコは肩を落とした。

 そこへサチが横からニーコに抱きつく。


「ニコちゃん、私が付いてるよ! 頑張ってお宝探ししよ? お宝、好きでしょ?」


「そりゃあ大好きだけどね!? ……うむ、ではぼくはこの盾を構えてなるべく前を見ないで歩くから、サチはぼくの目になってくれたまえ」


「えー、ニコちゃん情けなーい」


「ええいだまらっしゃーい」


 うむ、サチのおかげでなんとかニーコも前向きになったようだな。空元気っぽいが。


 そういえばこのメンバー盾率高いな。


 シエラはメイスに盾、ニーコは銃に盾。

 俺とサチは剣に盾だ。


 偶然にも全員盾持ちだった。


 また、サチは赤を基調としたドレスっぽい軽鎧でコーデしている。どことなくお姫様っぽい装備だ。さすが、パーティ〈お姫様になりたい〉のリーダー。

 今回サチはユニークの能力が使えないので結構弱体化しているが、まあ俺とシエラもいるし、大丈夫だろう。


「じゃ、心構えも出来たところで、出発だ」


「心構えなんて一生できないとぼくは思うよ……」


「ニコちゃん、じゃあ私が手を取ってあげるよ、それなら少しは安心でしょ?」


「……サチには世話になるが、よろしく頼むよ」


 情けない声を出すニーコをサチが手を引いてくれる。

 サチは手を繋ぐために自分の盾を仕舞うみたいだ。盾無しの片手剣、ちょっと憧れるな。


 そう思っているとシエラが何やら熱心にサチがニーコの手を取るところを見ていた。


「…………」


「どうしたシエラ?」


「ねえゼフィルス、私もあれ、頼めないかしら?」


「あれ……?」


 シエラの視線の先は仲良くつながれたサチとニーコの手。

 そしておもむろにメイスを仕舞うと、少し恐る恐ると言う感じで右手を出してくる。


「いい?」


「おう! 任せとけ!」


 シエラの表情は、暗くてよく分からないが、なんとなく照れている様子だ。

 おおう、肝試しのシチュエーション的に超有りだ!


 俺も盾無しの片手剣にジョブチェンジだぜ! 即行で盾を仕舞うとシエラの手を取る。

 前もやったことあるはずなのに、なんだかシチュのせいか妙に照れくさかった。


「あー、シエラちゃんいいなぁ! 私も後でゼフィルス君と手、握りたいかも」


 するとそれを見たサチが羨ましそうに言う。


 おお、なんだ、俺大人気じゃないか?

 そうだな、肝試しだからなシチュ大事。俺も頼りがいのあるところを見せてやるぜ!


「ああいいぞ、次な――ぉぉっ! し、シエラ?」


 サチに返事をしたところで『直感』が発動、しかも左手にダイレクトぎゅっを食らって少し痛みが走る。

 思わずシエラに視線が向くと、顔を逸らされた。


「早く行きましょう。もう制限時間まで30分しかないわ」


「お、おーう。じゃあ、行こうか~」


 なんとなくそれ以上言わない方がいい気がして、俺はシエラと、サチはニーコと手をつないだまま幽霊船の中へ突入した。




 幽霊船は木製の巨大ガレオン船だ。

 はボロボロでロープは所々切れていたり腐っていたりといかにもな雰囲気を醸し出している。


 俺たちはまずボロボロな停泊所から昇って甲板へと移動。

 すでに他のメンバーの姿は見えないし、モンスターの姿も見えない。

 モンスターは全て光に還ったのだろう。成仏したのかは知らないが。


 周囲を見渡していたサチがちょっとがっかりしたように言う。


「モンスター、全然いないね……」


「うむ、先に突入したメンバーが軒並み倒してしまったんだろうさ、ぼくは安心したよ」


「お、第一スケルトン発見!」


「ふみゃあぁぁぁぁ!? 安心したところに出るなんて卑怯ではないかね!?」


 ニーコの可愛い叫びが木霊こだました。とてもいい悲鳴だと思ったのは内緒。


 見ると2体のスケルトンがリポップするところだった。

 さっきまでそこには誰もいなかったはずなのに、これが前世なら怪奇現象だぜ。


 完全に骨のみ。右手に〈骨短剣〉か〈ボーンカットラス〉を装備している。

 カタカタする骨の音が恐怖を掻き立てるようだった。


 ぎゅっとシエラと握る手に力がこもった気がした。


「うわわ、来るな来るなー! 来てはいけないのだよ、還りたまえー!」


 ニーコが錯乱状態で銃をぶっぱなす。


「ニコちゃん落ち着いて!? 一発も当たってないよ!? ついでに私も前に出れないから!?」


「仕方ないな、『シャインライトニング』!」


「カタカタ――!!」


 遠距離攻撃のニーコが役に立たないので俺が魔法で一掃する。

 こういうただの〈スケルトン〉は魔法に弱いのだ。


 レベル差もあって一瞬でHPをゼロにし、光に還っていく。


「もう安心だ」


「ぜぇ……ぜぇ……。寿命が縮んだかもしれない……」


「あははは、ニコちゃん大げさだよー」


「いや、冗談ではないのだがね……」


 どうやらニーコは思った以上に幽霊系が苦手らしい。


「シエラは平気か?」


「……ええ。大丈夫」


「そうか……?」


 なんだろう。大丈夫という割には、手をギュッギュとされているんだが。

 なぜだか妙に緊張が増した気がする……。


 あれ、もしかして俺、照れてる? いやいや、俺が照れるなんてそんなはずは……。

 きっと、こんな肝試しのシチュに少なからず気持ちが高まっているからに違いない。


 そんな油断もあったのだろう。

 そいつは突然現れた。


「――バァ!」


「きゃああぁぁ!」


「うおっ!?」


 シエラの横に幽霊ゴースト出現リポップ。片腕ごとぎゅっとシエラに抱きしめられ、横から可愛い悲鳴が鳴る。『直感』がビンビン反応した。


「こ、この幽霊めー、シエラを怖がらせるなんて不届き千万、ナイスこんにゃろー! 『ライトニングバースト』!」


 俺は突如としてリポップした幽霊ゴーストに剣先を向けて魔法でぶっ飛ばした! 

 途中本音が漏れた気がしたが、気のせいということにしてほしい。




 戦闘、とも言えないような何かを終えて、ドロップの〈魔石(小)〉を拾い。

 俺は咳払いしてメンバーに先を促した。


「こほん。よし、あの扉から中に入ろうか」


「えー、ほ、本当にこのボロボロの船の中に入るのかい? これ以上進むのはぼくの足が拒否をしているのだが……」


「もー、ニコちゃんには私が付いているから大丈夫だよー」


「ああ、手を引っ張らないでくれたまえー。手をつかんだのは失敗だったー」


 ニーコの足が震えているのは知っているが、それはそれで楽しんでいる証なのでこのまま続行だ! 本当にやばかったら引き上げればいいが、ニーコはまだ余裕がありそうだからな。

 道中、シエラの口数が少ないのが妙に気になったが、おそらく怖がっているだけだろう。


「みゅお!? スケルトン!」


「あ、今度は私が行くよー! 『魔剣・ホーリーストライク』!」


「じゃ、俺も行くか、援護するぜ。シエラ、手を離すぞ」


「………あ」


 サチが突っ込むが、サチだけだと心配なので俺も名残惜しくもシエラの手を離して向かう。シエラから何か声が聞こえた気がした。気のせい、か?


 敵は〈スケルトン〉3体と紫色の〈パープルゴースト〉1体、ほとんどはサチが倒してしまった。

 サチは弱点属性である聖属性の剣スキルを使える、あれを使われると〈スケルトン〉や〈幽霊〉はほぼ一撃だ。

 俺も多少援護したが、いらなかったかもしれないな。


「じゃ、再開といくか」


「…………」


 その後、なんとなくまたシエラの手を取って、探索を再開した。



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