第468話 海で浜辺でイベントといえば。スイカ割り!




 海と言えば恒例のイベントがいくつかあるが、その代表的なものといえば、


 ―――そう、スイカ割りだ。


 食後の運動とデザートもかねた代表的な夏の浜辺イベント。


 と、なるはずだったのだが、なんか俺の思っていた光景と違う……。


「いざ、参る。『十字斬り』!」


 リカが構えるのは〈練習用木刀・攻撃力1〉、木刀なので当然刃は無い。

 はずだが、放たれたスキルは一瞬でスイカを四等分にした。


 おかしいな。目隠ししているので見えていないはずなのに、ちゃんと中心に当たっているぞ。

 声援を送っていたカルアが輝いた顔でリカを称賛する。


「ナイス、さすが、リカ、さすが!」


「うむ。これは訓練にいいな」


 訓練にいいな、ではない。

 リカってたまに天然だよな。口調は武士っぽいのに。


「ゼフィルス、追加のスイカを置いて! 次は私がチャレンジするわ!」


 そう言ってタリスマンを首に掛けるラナ。それで何をする気だ? 『光の刃』でも放とうってか? 斬れる前に吹き飛ぶわ!


「木刀で叩け、それが本来の遊びなんだって! タリスマンを付けるなよ」


「えー、でもリカはスキル使ってたじゃない」


「リカは武士、ラナは聖女だろ。というか、これは遊びなんだからスキル使うなよ。反則だぞ」


「反則だったのか!?」


 ラナに待ったを掛けていたらリカがビックリした声を上げていた。

 うん、まあ、説明しなかった俺も悪かったよ。


 その後はちゃんと説明して普通のスイカ割りになった。


 ラナをその場で目隠ししてもらい、ついでにクルクル回して方向感覚を失ってもらってさあ出陣だ。


「ちょ、これ、フラフラするわ!?」


「ラナ様、右、もう少し右でございます!」


「ああ行きすぎですラナ様、後一歩左に、ああお手伝いしたい」


「シズ、ダメですよ。手出し無用です」


「分かっています!」


 なぜかラナ本人よりエステルとシズの応援の方が白熱していた。


「ラナ様行くデース! そこで振りかぶるのデース!」


「ここね! えーい!」


 パメラが指示を出すとラナが思い切り木刀を振り下ろした。


 ポコッと小さい音がなり、少しキズが入る。


「やったわ! どうよゼフィルス! って、え!? 何これ全然切れてないじゃない!」


 歓声が上がる中で目隠しを取ったラナが自分の成果のあまりの結果にビビッていた。

 まあ、ラナはSTR初期値だし。スイカも結構硬いからな。

 スキル無しならこんなもんだろう。


「スイカ割りっていうのは本来そういうもんなんだよ。たくさんの人で叩いて削っていくもんなんだ」


 なかなか割れないから割れたときに盛り上がる。それがスイカ割りの醍醐味だ。

 なので、とりあえずこのままSTRが低い子たちから遊ばせる。

 リカにやらせたのは明らかな失敗だったからな。

 STRが高い子は最後だ。


「うう、これ難しいね」


「む、難しいですね。そもそもこれはスキル無しで切れるものなのですか?」


 ハンナはそもそもスイカに当たらず、シェリアは当たったにも関わらずヒビが少しだけ広がった程度という結果になった。


「う、やっぱり慣れませんわね」


「たはは、当たらなかったよ~」


 リーナは得物を振るのは久しぶりだ、【姫軍師】になってからはずっと砲が武器だったからな。動きがぎこちない。

 ミサトは運動神経はいいようだが、平衡感覚にはあまり強くないようでクルクルするとフラッフラだった。当然のように命中せず。


「ミサトよ情けない、ならば俺が手本を見せてやろう」


 今度はメルトの番だ。

 なにやら自信がある様子。


「メルト様は伯爵家の訓練で目隠し移動や暗闇での動きも訓練されているからね~」


 そう教えてくれたのはミサトだった。

 何ぃ? なるほど、それはちょっとハンディが必要だな。


 メルトにはスイカ割り上級・・をプレゼントしよう。俺は〈空間収納鞄アイテムバッグ〉からスコップを取り出した。


 目隠ししたメルトがミサトによってくるくる回される。


 ――よし、今だ。


 俺はそっとメルトとスイカの間を掘った・・・


「のお!? うお、なんだこれは!?」


 歩き始めたメルトが早速掘った穴に足を取られている。

 まあ、砂は掘りすぎても危ないので深さは足首が漬かる程度だ。

 しかし、少しの凸凹でこぼこでも目隠し状態となると結構難易度は上がる。


「ぐ、なんだこれは、砂の小山か? さっきまでこんなもの無かったぞ?」


 メルトはゆっくり足を出しては足場の状態を確認して進んでいく。

 俺はその間次々と掘っては小山を作りを繰り返していく。メルトの進路上に。

 楽しんでいってくれ。


「なにやら目の前からザックザック聞こえるのだが?」


「メルト様がんばれー、そこもう少し左だよー」


「ぬ、こっちか、ぬお!?」


 指示を送る側のミサトはなにやら面白がって小穴がある方へメルトを誘導するし、スイカ割り上級はなかなか難しいのだ。


「くそう、ゼフィルス、ミサト、やってくれたな!」


「ハッハッハ!」


「たははは~」


 結局スイカを叩くのに失敗したメルトがわなわな震えていた。

 メルトは悔しがっていたが、そのおかげでみんなは大ウケだ。

 このあと、なぜかスイカ割り上級がみんなのチャレンジ精神を刺激し、参加者が急増した。


 メルトはメルトでそのスイカ割り上級の光景を見て「なるほど」と一言呟いて許してくれた。

 見ている側からするとすっごく楽しいんだよな、上級。


 さーて次は何で遊ぼっかな~。




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