第467話 まったり海昼食スローライフ。




「よし、そろそろ昼食にしようぜ!」


「ぐっ、そうだな……。セレスタンがすでに動いてくれている。俺たちも手伝いに行くとしよう……」


 俺の言葉に疲れた様子で浜辺に打ち上げられたような格好をしていたメルトがよろよろと起き上がる。

 ミサトとの追いかけっこ、結局追いつけなかったんだなぁ。

 ヘトヘトでここに転がっていたらしい。


「あ、ゼフィルス君、お昼の準備? 手伝うよ」


「ゼフィルス兄さんばかりにやらせたら生産職の名が泣くかんな。任せてやぁ」


「ハンナ、アルル助かるぜ。だが、いいのか? BBQだからほら、炎天下だぞ?」


 手伝いを申し出てくれたハンナとアルルの生産組。

 それは嬉しいのだが、昼は恒例のBBQ、煙が出るのでレンタル品のパラソルの下でやる訳にもいかず、炎天下の日差しの下で焼く作業が待っている。

 さすがに過酷だろうと思っていたのだが、生産組はそんな事織り込み済みだったようだ。


「熱いのなんか鍛冶で慣れっこや! 問題無しやで!」


「日焼け止めのアイテム使ってるしね。心配しなくても大丈夫だよゼフィルス君」


「おう。助かるわ。じゃあそっちの鉄板は任せるぜ」


「任せてよ」


 準備は男の仕事だが、イベントが始まれば一緒に楽しむのが醍醐味だ。

 さすがに女子たちが見ている場所で男子が色々やってしまったら女子たちに立つ瀬が無くなってしまうからな。時には女子たちに手伝ってもらうのも大事なことだ。

 その辺は臨機応変に、だな。


 すでに朝準備を終わらせていたので後は火を付けて焼けば良いだけだ。

 セレスタンから下ごしらえ済の食材を受け取る。

 BBQコンロを加熱し、網が暖まってから具材を焼いていく。


 アルルは焼きそばのようだ。おでこに鉢巻き巻いてハッピみたいな上を着て、なんだか妙に様になっている。

 ぐうお!? 海にソースの焼ける暴力的なにおいが腹の虫を直撃ー。


「おいしそうな、におい!」


「ちょ、カルア速い!」


 食いしん坊なカルアがにおいに釣られてフィッシュした!!

 ついでにリカもフィィィッシュ!!


 ちょうどよかった。


「2人とも来てくれたところ悪いがみんなを呼んできてくれ、そろそろお昼にしようぜ」


「ん、わかった。任せて、秒で伝えてくる。秒で」


 カルアがまるで水を得た魚のように生き生きとダッシュしていった。リリース?

 そしてリカは置いてかれた。


「ちょ、カルア、ああ行ってしまったな。――ゼフィルス、私も手分けして伝えてくるとする」


「おう、頼んだぜ」


 肉を焼きながらも片手で親指を立てると、リカも苦笑しながら海の方へ向かっていく。

 これで、浜辺で遊んでいる子や、浅瀬で遊んでいる子たちにはすぐに伝わるだろう。


 しかし海の奥、水上バイクと水上スキーを楽しんでいる子たちにはどう伝えようかなぁと思っていると、【女忍者】のパメラがカルアに言われて力業に出ていた。


「見るがいいデース! これぞ忍びの技、『水上歩行の術』デース!」


「おおー!!」


 海面を歩くパメラにカルアがキラキラとした視線を向けていた。

 しかし、その歩みは、ちょっと遅い。


「ぬお、これは、意外に難しいデース! 海には波があるからデスか!?」


 ここは外海に阻まれた入り江だが、波が無い訳でも無い。

 小さな波だが、パメラがバランスを保つのがやっとなくらいには脅威のようだ。

 まあ『水上歩行の術』はLV1だしな。

 普段はダンジョンの中で、水のあるエリアにぽつんとある島のような場所に上陸するためのスキルだ。LVが上がれば滝上り走りもできるようになる。滝を走って登るとかロマン過ぎるぜ。俺もやってみたい。


 RPGでは池なんかがあってその中央に小っちゃな浮島と宝箱が置いてあるなんてものは定番である。『水上歩行の術』などの一部のスキルを使わなければ上陸できないため、そこには何気に良いアイテムが入っていたりするのだ。


 水の上を進むアイテムもあるが、スキルではないとたどり着けない箇所もあるため、パメラにはこのスキルを取得させていた。


「ぬおぉ、根性デース! なんのこれしきデース!」


 ゆっくりとした歩みだが、とりあえず任せておこう。

 泳いでいった方が速い気もするが、楽しめればなんでもいい。

 はっはっは。


「さって、こっちの肉は焼けたぞー」


「肉!」


「あれ? カルア? なぜここに?」


 お肉が焼けたことを知らせると真っ先に皿をもってやってきたのはカルアだった。

 あれ? さっきまでキラキラした目でパメラを見送っていたのに。


 ……まあいいか!

 細かい事は気にせず、腹ぺこキャットにお肉をよそうと、カルアはパラソルの下のテーブルに着いて早速食べ始める。


「いただきます。んふ、お肉、うま!」


 ちゃんといただきますを言うところがカルアの食に対する姿勢を感じさせるな。


「今日の肉は贅沢にボスミノの肉を使ってるからな。イベントならではの贅沢だぞ~」


「ん、素敵」


 肉はなんでも美味いが、やっぱり〈食ダン〉のレアボス、〈ボスミノタウロス〉のドロップ肉は最高だ。

 イベント時はやっぱり美味い肉だよな!

 俺も焼く合間をみていただく。


 く~っ、美味い!


 そうこうしていると全員が集まってきた。


「救助されたデース……」


 落ち込んだ顔をしてトボトボとやってきたパメラが印象的だった。ごめん、ちょっと忘れてた。内緒にしておこう。

 どうやらノロすぎて水上バイクに乗せられ浜に帰還したらしいな。


 まあ、要練習だな。スキルLV1でも練習すればそれなりに使えるようになるから。


「ん、どんまい」


「カルアは先にいただいてるなんて薄情デース!」


「ごめん、肉、食べる?」


「いただくデース!」


 カルアとパメラは仲が良いな。さすが最速コンビ。

 リカがちょっと複雑そうに見ているぞ。

 夏休みで色々遊びまくっているのでカルアの交流関係は広がりつつあった。



「ゼフィルス君ー、ジュースの在庫ってまだあるー?」


「おう、クーラーごと出しておくから持ってってくれー」


 さすがに飲み物は消費が早いな。

 ハンナに言われ、追加のクーラーボックスを〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から取り出し、テーブルの上にドスンと置く。

 中は氷水に漬かったヒエヒエのジュースでいっぱいだ。夏の日差し強い環境でこの光景はオアシスではなかろうか?

 ジュースが入ったビンを取り出しじゃんじゃん配っていく。


 大量に買っておいたからまだまだあるぞ。

 とりあえずテーブルで、ぐでぇとしているニーコには俺がジュースを注いで渡してやる。


「起きれるかニーコ。ほれジュース」


「あー、ありがとう勇者君。んっく――くぅ、生き返るよ。いやはや、彼女たちは手加減というものを知らないみたいでね。たくさん付き合わされてしまった」


「お疲れ様。この機会に体力でも付けたらどうだ?」


「いやいや、研究者に体力なんて必要ないのだよ。うん」


 なぜか遠い目をするニーコ。

 それに対し、一緒に遊んでいたカイリ、アルル、仲良し三人娘たちはツヤツヤしている。まだまだ元気いっぱいだ。

 うーむ、午後はニーコを少し休ませてあげるかな。


 そんな事を考えながらも昼食も終え、午後の時間。


 さて、海に来たらやる、恒例のイベントゲームを開始しようか。




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