第466話 偉大な海、水上バイクで盛り上がれ!




 海は偉大だ。

 そう、言わざるを得ない。


「ゼフィルスくーん! これすっごいねー」


 前からハンナの声が聞こえてくる。

 うむ。海は偉大だ。


 まあそれはともかくとして、俺とハンナは今、水上バイクに2人乗りをして海を楽しんでいたりする。


「きゃーきゃー!」


「左にUターンするぞー掴まってろー」


「うん!」


 ハンナを腕の中に収めながらハンドルを切り水上バイクを操る。スピードはそれほど速くないが、ハンナは初めての海と物珍しい水の上を走るアイテムに興奮を隠せていない。

 さっきから俺の片腕に掴まっていて初の体験と光景に夢中なようだ。そのせいで柔らかいものが度々俺の腕に当たることに気がついていない。


 うむ、海は偉大だ!


 ちなみにこの水上バイク、〈水バイ〉は学園からのレンタル品で水上移動が可能になるアイテムだ。

 以前手に入れた〈セグ改〉と同系統の移動型アイテムだが、ダンジョンで海の中から攻撃してくるモンスターは〈ダン活〉にはいないので破壊される心配が無いのが嬉しいところだ。


 ただ、今回は遊び用としてレンタルしているので2台しかないけどな。

 これをサプライズで出したときの女子たちの目が凄くやばかったので、もう少し台数を借りておけば良かったと後悔したほどだ。

 これは2人~3人乗りで俺が最初に乗ると告げると、誰が一緒に乗るかで立候補が後を絶たなかったのだ。


 とりあえず一緒にいたハンナを選んで事なきを得た(?)。


 もう1台の水上バイクは今仲良し三人娘が3人乗りをして楽しんでいる。


「わー、崖がすっごい近い! 水の中が綺麗だよゼフィルス君!」


「結構奥まで来たな。この入り江って思ったよりデカかったんだな」


 皆が遊んでいる砂浜付近では無く、俺たちは奥の崖付近まで〈水バイ〉を走らせていた。

 ここはゲーム〈ダン活〉時代でも何も無かった場所だが、リアルで見るとこの光景に圧倒されそうになるな。


 海がとんでもなく透き通っているせいで水中洞窟やら白砂がとてもハッキリ見えるし。

 崖は海水で削られたのか、ゴツゴツっとした穴がたくさん空いていて海の岩っぽい雰囲気を見せてくれる。

 これだけでなんとなく感動するのだから海って凄い。


 入り江は浅いのでここで降りたとしても小さいハンナですら足が着く深さしかないが、〈水バイ〉の交代を待っている人がいるのでここで遊ぶのは無しで、ある程度水上走行を楽しんだところで浜辺に戻った。


「あー楽しかった。ゼフィルス君、ありがとね。またやろう?」


「おう、またやろうな。さて次、〈水バイ〉使う人~?」


 満足したのでハンナを先に降ろして、俺も降りようとしたところでシエラから待ったが掛かった。


「何降りようとしているのよゼフィルス、あなたはそこにいなさい」


「あれ?」


 シエラが寄ってきたと思ったら、そのままハンナがいた位置にすっぽりと収まるシエラ。


 あれ? 何? 何が起こった?


「次は私の番なの。ゼフィルスは運転を頼むわね」


「お、おう。了解だ?」


 とりあえず了承の答えを返すが俺の頭は未だ混乱中。

 あれ? シエラってこんな強引に来る感じだったっけ?

 言われるがままに奥へ向けて発進させるとシエラの背中がくっつき、アップにされた髪から甘い匂いが漂ってくる。


 あれ? なんかすごくドキドキするんだけど。

 ハンナの和み感とはまったく違う!


「ふう、良い風ね。全てが潮の香りだなんて」


 そう言ってシエラがさらに体を後ろに預けてきたので俺はドギマギです。

 く、これではメルトを笑えない!

 ええい、男は平常心! 冷静になれ、クールになるんだゼフィルスよ!

 俺は努めて冷静に返す。


「――ここは、気に入ってくれたか?」


「ええ。とってもね。海は綺麗だし波は穏やか。風は新鮮だし水着で海に入って遊ぶなんて、経験したことが無かったもの、楽しませてもらっているわ」


「そいつはよかった。準備した甲斐があるってものだな」


 俺は少し腕に力を入れてシエラの体を固定するようにし崖沿いに曲がる。

 また腕にシエラの体が預けられてなんだか心地よく感じた。


「……でも、あなたは、少し働き過ぎじゃ無いかしら? もっと私たちに手伝わせてくれてもいいのよ?」


「ま、今回は特別だな。何しろ美少女たちが水着を着てくれるんだから。そんな大事なもの、タダで見せて貰う訳にはいかないだろ?」


「はあ。――そんなことしなくても見せたい子が多いのだけどね」


「ん? 何か言ったか? よく聞き取れなかったんだが」


「いいえ。でも、改めて言わせて。とても楽しませてもらっているわ。ありがとう、ゼフィルス」


「おう。これくらいどうってことないさ。それに礼なんてもう貰ってる、今は一緒に楽しもうぜ」


「ええ」


 なんだか今日のシエラは凄く可愛い。

 それに密着度が高くて妙にドキドキした。

 これが海の力、なのか?

 海ってスゲー。


 俺はこの日何度目か分からない海の偉大さに圧倒された。海は偉大!


 ちなみにだが、俺はこの後〈水バイ〉の運転役として活躍することになった。


 ラナを始め、リーナ、アイギス先輩とは2人乗りで海面走行を楽しみ、続いてルル&カルア、マリア&メリーナ先輩、ラクリッテ&ノエルとで3人乗りを楽しんだ。

 3人乗りは俺を挟んで前に1人、後ろに1人が乗る形だ。



 終わってみて思うが、これ結構疲れた。

 その分良い思い出もできたので大満足だったが。


 またもう1つのバイクではカイリが運転し、アルルが前、ニーコが後ろに張り付き、その後方に水上スキーを楽しむリカの姿があった。

 向こうも楽しんでるなぁ。


 さて、そろそろお昼かな。

 昼食の準備を始めるか。




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