第456話 これも合宿の1つの楽しみ。男同士の合宿夜。
「おかしいな。合宿の初の夜なのに、あんまりはっちゃけてないぞ?」
「仕方ない。さすがに男子だけで肝試しというのも味気なさ過ぎるからな」
俺の呟きに律儀に答えてくれたのはメルトだ。
現在日も暮れ、夜の帳が降りてから少し経ち、俺たちは男子に割り当てられた〈テント〉アイテムの中に居た。
このテントは8人まで寝泊まりに対する回復が可能なアイテムで、今後使う事も多くなるだろうとギルドの予算で購入した品だ。協議した結果、いくつかはレンタルではなく購入した方が安上がりになるとのことだったため、同じ規格の物を3つ購入してある。
現在は男子が1つを使い、女子が残り2つと〈サンダージャベリン号〉を共有しているはずだ。
我らの〈サンダージャベリン号〉と同じく外からの見た目と中が一致せず、テントの中は大の男が立ち上がって歩いても問題無い空間が確保されている。
さすがはゲームの世界。テントにテーブルとイスまで配置して優雅にティータイムもできるとは!
しかしだ、せっかくの合宿初日の夜なのになんでこんな所にいるのか、テントに入るのがいささか早すぎやしないだろうか? それはメルトの答えが全てを物語っていた。
俺はちゃんと夏合宿初日に合わせた素敵イベントを計画していた。
それは肝試し。夏合宿の定番中の定番だ。
しかしである、不幸な事に俺が「合宿で初日の夜と言えば、肝試しだろうー!」と高らかに宣言したところ、シエラから「却下よ」と有無を言わさぬ判決が下されてしまったのだ。
シエラが幽霊を苦手なのは知っていたが、秒で却下されるとは……。
いや、ここでは〈
おかげで初日の夜はこうして楽しいお泊り会となった。
ふと、視線がテーブルにいるメルトたちの方へ向く。
「そういえばメルトとサトルは何をやってんだ?」
「これか? ただの戦略型ボードゲームだ」
「戦略型……と言っても良いのかわかんないけどな。だって名称が〈蝶の花集め〉だぜ?」
「しかしこれはギルドバトルの良い刺激になるぞ。なかなか戦略性が高く、面白いゲームだ」
「ボードゲームだけどな。俺はギルドバトルに参加したことないからよくわからんが」
2人がやっているのはボードゲームだ。メルトが持ち込んだらしい。
ボードは
このボードゲームはカードゲームでもあるらしく、山札が有り、そこから引いた〈花カード〉が大きいマスに置かれる。
プレイヤーはあらかじめ配られている蝶のカードを手札に持ち、ボードに3枚まで召喚し、ターン制でマスを進んで花カードを目指す。
相手より先に花カードにたどり着けば蝶カードと花カードはそのプレイヤーの物。ゲットしたカードのポイントと
また、面白いのが花と蝶には種類がたくさん有り、なんでも好きにゲット出来るわけでは無く、とある花は特定の蝶しかゲット出来ないなどの制限がある。ツツジはアゲハしか取れない、とかな。
そういうカードはポイントが高い仕様だ。
逆になんでもウェルカムなタンポポなんかはポイントが低い。
そして当然妨害は有りで、マスにカマキリやトンボカードが置かれており、将棋のように蝶の行く手を阻み迎撃することが可能だ。また山札に2枚だけ入っている災害カードで一掃されるなんてこともあるらしい。
花カードは取られたら、取られた側のプレイヤーが山札から1枚補充してを繰り返し、山札が無くなった時点で終了のようだ。
そんなゲームだが、やりこむとかなり面白いらしく、戦略性と運が適度に絡み、ギルドバトルにも似ているため勉強になるとのことだ。
ゲーム〈ダン活〉時代はこんなものなかったのだが、リアル世界オリジナルのゲームなのだろう。ゲームの中でゲームってなんかおかしいな。
「ほら、もうすぐ最後の花を取るぞ?」
「く、させるか! 行け、俺のオニヤンマよ! あの蝶を食べてしまうのだ!」
「そこに待ち構えるカマキリだ。足が遅い代わりに全てのカードはカマキリの腹に消える」
「ああー!?」
どうやらメルトの読みが圧倒的なようだ。
先ほどから何度もサトルの悲鳴が聞こえる。
最後の花カードは悠々とメルトが持っていき、これにてゲームが終了する。
しかし、サトルはずいぶんとメルトと仲良くなった様子だな。サトルは素が出ている。
「ぐ、メルトさんが強すぎる件。ゼフィルスさんもやってみません? そしてメルトさんを打ち負かしてもらえませんか?」
本人が目の前に居るのに堂々と打ち負かせと言うサトル。
ずいぶんメルトにコテンパンにされたらしいな。
でも〈ダン活〉の中の別ゲームか。面白そうだな。
「よし、いっちょやってみるか。ルールと役とカードの特性を教えてくれ」
「おお! もちろんですよ! あの無慈悲で真面目な鼻をへし折ってやりましょう!」
「さっきから気になっていたのだが、俺とゼフィルスとの対応が違わないか?」
「へん! メルトさんなんかゼフィルスさんにコテンパンにされてしまえ!」
「……ほう。上等だ」
「おいおい。初心者のハードルを上げるなよな」
男子テントは意外にも夏合宿の夜を満喫していた。
セレスタンにティーを入れてもらい、3人でボードゲームに熱中する。
最初はやはり初心者なので負けまくった俺だが、ギルドバトルの参考になるという先ほどのメルトの意見を思い出し、逆にボードゲームの参考にすれば良いのでは? と考えてからは上達が早かったな。
だって俺、ギルドバトルでは負けないし。
そうしたら今度はメルトと一緒に戦略について議論を交わす感じになった。
お互いゲームをやりながら、あーでもない、こーでもない、こうすればいいのでは? と言い合った。
ゲームも結構熱中して面白かったが、白熱した議論も楽しかった。
〈ダン活〉時代のネット掲示板を思い出したぜ。あの時も掲示板の住人と熱く〈ダン活〉について議論したんだよなぁ。懐かしい。
こんな感じで、意外にも夏合宿1日目の夜は充実した時間を過ごしたのだった。
しかし面白かったが、残念だ。
このゲームは女子とは出来ないな。
花はともかく虫がいるし。
だが、登場キャラをイジればギルドバトルの盤状戦術として使えそうだ。
今度メルトと相談してみようと思う。
うーむ、合宿の夜を盛り上げるイベントは何かないか?
明日はキャンプファイヤーをやるか?
でも肝試しが無いのはなぁ。
よし、本番の〈海ダン〉では今度こそ肝試しを実行して見せよう!
シエラを躱す案を何か考えておかないとな!
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