第454話 3泊4日の夏合宿が始まったぞー! 出発ー!




 合宿1日目。


「今日から〈食ダン〉で夏合宿だーー!!」


「「おーいえー!」」


 俺の高らかな声に乗ってくれるのは生産職のハンナとアルルだ。

 2人とも〈食ダン〉で出店の材料を揃えたいと言っていたため燃えている様子だ。

 両手を振り上げ、やる気と溢れる楽しみな気持ちをアピールした。

 これだけでもテンション上がるぜ!


 現在いつものギルド部屋。本日も晴天なり。

 今日から第一回目、夏合宿企画が始まる。

 これは例の〈海ダン〉の予行練習でもある。


 夏合宿、2度3度あっても良いと思うんだ。(出来るかは分からんが)

 予定では〈海ダン〉は日帰りだったが、今回成功した暁には合宿にして泊まり込みサマーを開催しても良い気がするという判断だな。

 別に〈海ダン〉だけに限らず、今後のギルドの活動の参考にもなるだろう。


 故に、気が抜けない。

 夏合宿企画、第一回目、絶対成功させなくては。


 今からテンションを上げておく。


「そんな出発前からテンション上げていたら体力持たないのではないか?」


 俺たちのノリに真っ当な意見を言ったのはカイリだ。


「ぼくもそう思うよ。体力というものは温存しておくものだ。そうして温存したまま帰ってくるのさ」


「それ、だらけてるだけやん!」


 ニーコの発言はとても学生の発言とは思えないぞ。もっと遊び尽くそうぜ!?

 アルルもツッコミを入れている。


「カイリの言う通りよ。まだ始まってもいないのだから少し落ち着きなさいゼフィルス」


「そうだな」


 シエラの言葉に落ち着く俺。なぜかシエラの言葉には逆らえないのだ。いや、本当はそんなことはない。まだメンバーが全員集まって居ないので、少しクールダウンするだけだ。


 しかし、合宿が楽しみなのはみんな一緒らしく、あれを集めたい。これを食べたいと言った話で盛り上がる。


 そうこうしているうちに全員が揃った。

 最後に来たセレスタンが、


「準備が整いました。参りましょう」


 と言って全員でエクストラダンジョンへ移動する。手続きが済んだようだ。


 この中でも半数近くはエクストラダンジョンに潜るのは初めてらしい。

 近づくにつれみんな少しずつテンションが上がっていく。



「〈食ダン〉!」


 ハンナが〈食ダン〉に潜った瞬間、思わずといった様子でそう声を上げた。


「相変わらずの食材の宝庫ね」


 シエラも周りを見渡して呟くように言う。


「うは~、採取エリアがぎょうさんあるわ~。あれが畑採取エリアってやつかいな?」


「うむ、ぼくたち人類の食事を支える重要な場所だね。素晴らしい資源の量だよ」


「辺り一帯は採取エリアの山。罠や敵の気配無し。さすがは資源の宝庫と呼ばれるエクストラダンジョンだ」


 初めて〈食ダン〉に来たメンバーたちはその広大な採取エリアに驚いている。

 アルルがキョロキョロ視線を動かし、ニーコは目を輝かせ、カイリはしっかり『索敵』、『罠発見』を使って安全を確認してはモンスターの気配無い採取環境に感心していた。


 その間に俺とセレスタン、アイギス先輩で〈馬車〉の準備を行なう。

 しばらくして少し落ち着くと俺はメンバー全員に向きなおった。これからの行動と指示を出す。


「事前に打ち合わせしていたとおり、俺たちが目指すのは最下層だ。ただ道のりが長く、また人数的に〈馬車〉の運行も二回に分けなければならないため、最下層は明日到着予定とし、今日は12階層を目指す。まずは、第一陣が出発。残りはここで採取をしたり、探検、冒険をしたりして楽しんでくれ。ここではモンスターは出ないからな。では12層に向かう第一陣は馬車に乗り込んでくれ」


 最下層まで片道4時間。往復8時間、第二陣が到着するには12時間が必要なのでとても今日中に全員を最下層まで運ぶことはできない。

 そのため、今日は12層で遊ぶことにした。12層は山エリアでちょっとした探検地域があって面白い階層なんだ。蕎麦やトマト、じゃがいもなどの採取も可能だ。家畜も豊富。


 また、ゴブリンの秘密基地がよく出来やすい場所でもあって、レア物の何かを隠し持っている基地があるかも知れない。

 前回はお昼休憩しただけで最下層まではほぼ直行だったからな。こういう遊び心のある場所を探索するのもいいだろう。なんか夏のキャンプっぽいしな。


 ということで、〈サンダージャベリン号〉を装備したアイギス先輩を先頭に、俺が助手席で道案内し、セレスタンが後続で付いてくるといういつもの運行で12層を目指す。

〈馬車〉2台の合計乗車数が16人までなので、3人が送迎係をし、10人ずつピストンしてメンバー23人を送る計画だ。



 まずは〈エデン〉メンバーを中心とした第一陣は出発し、〈アークアルカディア〉の面々に〈助っ人〉組を中心に1層でまず〈食ダン〉の採取体験をする運びとなった。


「じゃあシエラ、あとを頼む、みんなを案内してやってくれ」


「ええ、任せて。いってらっしゃい。気をつけてねゼフィルス」


 シエラは1層に残ることになっている。

 そのおかげで安心して運行できるというものだ。


「ぼくも監督の一人なのだから何か一言あってもいいのではないかね?」


「あ、ああ。悪かった。ニーコ、みんなを頼む」


「任されよう。たとえ戦闘不能に陥ろうとも、ぼくがみんなを守ろうではないか」


「いや、第一層はモンスター自体出ないぞ? いるのは動物だけだ」


「冗談だよ。マジレスはやめたまえ、恥ずかしいではないか」


 多分だが、今のは冗談では無かった気がする。いや、何も言うまい。

 しかし、その決意はありがたいものだ。茶々を入れてしまったかもしれない。


 とりあえずサブマスターの2人に第二陣を任せ、俺たち運送組は第一陣を12層へ送り届けたのだった。




「みんな! 各自〈空間収納鞄アイテムバッグ〉は持ったな? 時間を忘れて探検したり、迷子にならないよう注意してくれ、では自由時間開始!」


 12層で第一陣に指示を出して自由時間を取ると、各自が一斉に動き出した。


「よーし、メルト様、あの畑に行きましょう! まずは畑の採取体験をしてみよー!」


「俺はそれより川に行きたい。山の渓流では新鮮な魚が捕れると聞いたぞ」


「もう、そんなにカルシウムが大事なの? 仕方ないなぁ、付き合うよ!」


「ほほう……。またうさ耳をキュっとされたいようだな」


 ミサトとメルトは渓流で釣りをするようだ。


「わたくしたちはやっぱり家畜エリアでしょうか? カルアさん、リカさん。一緒に行かれますか?」


「ん。もちろん。ステーキが待ってる」


「同行しよう。前回は共に行けず、カルアの思い出話を聞くだけになってしまったからな」


 リーナ、カルア、リカは家畜エリアみたいだ。


「ルル、ここの動物さんは愛でてはいけません。悲しいことになります。私たちは畑で元気なお野菜を収穫しましょう」


「にゅ? シェリアお姉ちゃんがそう言うのならそうするのです!」


「私も同行してもよいですか? 畑からの採取は一度見てみたかったんですよ」


「マリアさんですね。もちろん構いませんよ」


 ルル、シェリア、そして〈助っ人〉のマリアは畑エリアみたいだ。まあここの動物は狩るのがメインだからな。ルルが愛でた動物さんがその後どうなるのか、あまりにも悲しい結末しか残されていない。シェリアの判断は英断だったな。

 マリアは戦闘力がほとんど無いので採取班に参加したかったようだ。


「ラクリッテちゃん! 私たちは探検に行きましょう! あの丘の向こうを見てみたいです」


「わわわ、待ってノエルちゃん。ちゃんと道しるべを残しておかないと、迷子になっちゃうよ!?」


 ノエルとラクリッテは探検組のようだ。ラクリッテが少し振り回されている。

 2人だとあんな感じのノリなのか。


 まあ迷子になっても〈竜の箱庭〉や〈ニャウジング〉などの探す系アイテムがあるので安心だ。


 それぞれのメンバーを見届けて、俺たちは第1層に戻ったのだった。

 あ、ちなみにハンナはアルルたちと出店に出す食材を選ぶために1層に残っているぞ。




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