第450話 シエラが帰省から戻ってまいりましたー!




 8月に突入して数日が過ぎようとしていた頃、ギルド部屋で仕事をしていたら、我らのシエラが帰省から戻ってきた。


「ただいま、帰ったわ。みんな変わりないかしら?」


「シエラさんお帰りなさい!」


「お帰りシエラ。こっちは色々変化があったぞ。ちょい情報共有しておこうか」


「帰って早々ね。分かったわ。でもその前に少し休憩、いいかしら?」


「シエラ様、紅茶を用意いたします」


「ありがとうセレスタン。私がいない間苦労をかけたわね」


「いいえ。問題は少なかったですよ。そのことに関してはのちほど」


「ええ」


 シエラの帰りにハンナが喜色を浮かべて出迎えた。

 俺も挨拶を交わすが、ちょっと性急に仕事をしすぎたようだ。反省。

 まずはゆっくりと移動の疲れを癒してもらおうとセレスタンが美味しいティーを出す。


「相変わらずの腕ね。家でプロが入れた紅茶にも引けを取らないわ」


「恐縮です」


 うーむ、気品あるシエラと出来る執事のセレスタンが合わさると、なんかこう、貴族のお茶会っぽさが増すな。

 見ていてこっちまで優雅な貴族になった気がする。(気のせいです)


 一息ついて優雅にティータイムを終えたシエラとここ2週間の変化を説明する。


「〈助っ人〉の3人、よく集まったわね」


「ハンナの人望のおかげだな。(1人は信者だが)」


「え、えへへ」


「でも良かったわ。私が不在の〈エデン〉、少し心配だったのよ」


「シエラ? なんで俺の方を見るんだ?」


『心配だった』の部分で俺に流し目を送るシエラ。

 おかしいな。

 シエラの信頼が厚いのは嬉しいが、俺が期待している類の信頼ではない気がする。気のせいであってほしい。


 その後、新しく入った〈助っ人〉の3人の仕事ぶりをシエラに見せることになった。

 シエラは〈エデン〉のサブマスターだからな、当然気になるだろう。

 サプライズ、ではないがこっそりと仕事ぶりを観察しに行くことにする。


 まずはマリアの所から。マリアはギルド部屋の個室の1つ、倉庫部屋にてアイテムの数を数え、整理しているところだった。


 ここにはまだまだ大量にあるQPを使って購入した特大の〈空間収納倉庫アイテムボックスLV10〉が鎮座している。

 セレスタンに「我々の管理能力を超える」と言わしめた、〈エデン〉の素材収集能力によって集められた品々は、とりあえずここにまとめて収納されるのだ。

 その数は、――俺も知らない。


 正直、大丈夫なのか? これ、ちゃんと管理できる? と思っていたのだが、マリアの職業ジョブは【マーチャント】、その辺抜かりはない、との報告を受けている。


「『商品整理』! 『商品相場』! す、凄いわ! これも、これも、これだって! 今売り出せば高値で売れるはずよ! これはもう少し時期を待ちましょう。きっと凄い高値が付くはずだわ。そうしたら、ゼフィルスさんから褒められるかも。ふふふ、盾ちゃんごめんね!」


 そこには狂喜乱舞、とまではいかないが〈空間収納倉庫アイテムボックス〉の中身を見て目を輝かせて小躍りしているマリアがいた。ステップを踏みながらメモを高速で走らせておられる。控えめに見積もってもちょっとヤバめな光景だった。俺たちがこっそり部屋に入ったためだろう。こっちには気付いていない。

 し、シエラの目が、シエラの目が細まっていく!?


「こんにちは、今いいかしら」


「あ、あら!? ゼフィルスさんたち居たのですか? やだ、お恥ずかしいところを。ええ、大丈夫です」


 見かねたシエラが声をかけると、少々の動揺を見せてから取り繕うマリア。先ほどの光景が嘘のようにキリッとしてメガネをくいっと上げた。


「初めまして。私は〈エデン〉に〈助っ人〉を依頼されたマリアンヌと申します。あなたはサブマスターのシエラ様ですね。お噂はかねがね、どうかマリアと呼んでください」


「ええ、初めまして。私の事を知っているようだけれど改めて自己紹介するわ。〈エデン〉のサブマスター務めているシエラよ、今後ともよろしくね」


「はい! こちらこそよろしくお願いいたします!」


「それで、これは何をしていたところだったのかしら?」


 一通り自己紹介が終わると、床に大量に詰まれた素材や武器などを見てシエラが聞いた。

 なぜか尋問をしているように聞こえたのは気のせいのはずだ。

 しかし、マリアは気にした様子もなく再びメガネをくいっと上げてそれに答える。


「在庫整理と商品価値の高い物を仕分けしておりました! 〈エデン〉は本当に凄いですね。宝の山です! これを見てください、今相場がかなり高騰しておりまして」


 どうやらシエラの質問がマリアの商人魂に火をつけてしまったようだ。

 シエラが口を挟む隙がないほどマシンガンのように商品の説明をし始めるマリア。


 おおう。なんか凄い。

 マリアには、高く売れるものや需要の高いものなどを選定してほしいと頼んであった。その選ばれた品の書かれた票を見て、俺かセレスタン、シエラが売るか決めようと画策していたが、早速仕事をしていてくれたらしい。

 凄く仕事熱心!


 最初はなぜか疑いの眼差しのような目を向けていたシエラも、マリアの熱意を受けて認識が変わった様子で色々意見交換をしていた。


 俺も仲間に加わり、売って良い物、売ってはいけないものを指示する。


「これは売ってはいけないのですか? 今売れば高値で売れますよ?」


「この素材は後々になって使えるんだ。売らずに取っておいてくれ」


「ゼフィルスさんがそう言うのならかしこまりました! ではこれらは省きますね!」


 そうやって指示しているとあっという間に2時間以上が経過していた。

 マリアは仕事に戻ってもらうと、シエラと俺はドッと疲れが出たので一度ギルド部屋に戻り、ティータイムで休息を取った。セレスタンが入れてくれたお茶が身に沁みる。


 一息ついたところでシエラがマリアの感想を言う。


「多少の問題には目を瞑るわ。あのやる気と体力とポテンシャルは〈エデン〉と〈アークアルカディア〉に益をもたらすわね」


「あれだけのマシンガントークで話していてケロッとしていたからな。凄い体力だったな。それに在庫数の把握はすでに終わっていて、在庫整理に移っているのも驚いた」


 2人でメガネをくいっと上げた、出来るマリアの姿を幻視しながら呟いた。

 シエラは、第一印象は微妙だったみたいだが仕事ぶりは有能だと認めたようだ。


「これは、残りの2人も気が抜けなくなりそうね」


「いや、マリアが特別なんだと思うぞ? ……多分」


 少しの休憩後、次はメリーナ先輩の下へと向かった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る