第451話 メリーナ先輩とサトルの仕事ぶりを拝見。
メリーナ先輩は〈総商会〉にいた。どうやら俺たちが依頼した〈上魔力草〉の手続きをしていたようだ。
「あら? ゼフィルスくんじゃない。こんな時間にいるなんて珍しいわね。今日はダンジョン行かないの?」
「今日はうちのサブマスターのシエラが帰ってきたから紹介しようと思ってさ。――シエラ、2年生のメリーナ先輩だ。〈総商会〉で〈エデン〉の担当をしてくれていた方だ」
「初めまして。〈エデン〉サブマスターを務めていますシエラよ。私が不在の間、〈エデン〉を支えてくれてありがとう、とても助かっているわ」
「いいのよ~これが仕事だもの、それにここはやりがいあるわ。面白いものがたくさんあるもの。改めて、2年生のメリーナよ。〈エデン〉には〈助っ人〉として参加しているわ。よろしくね」
そういってパチリとウインクするメリーナ先輩。
なんか、お姉さん的な余裕を感じるぜ。
メリーナ先輩には〈総商会〉とのやり取り全般と、〈エデン〉が行なっている依頼の管理(出す方、受ける方の両方)、そして〈アークアルカディア〉のアイテム在庫管理などを任せている。
まあ、〈アークアルカディア〉のダンジョン探索はほとんど〈エデン〉との共同で行なわれているので在庫管理、というかセレスタンやマリアの補助担当みたいな位置にいるな。
今後、シエラのサポートにも入るはずだ。
シエラは、最初見定めるような目つきだったが、すぐに打ち解け、すぐ仕事の話に移行していた。
「凄いわね。これたった1日でまとめたの?」
「こういう書類関係は【秘書】の得意分野だからね~。さすがに戦闘職には負けられないわ」
「そうね。これを見ると……、これからは得意分野に分かれてギルドを運営する動きにシフトしていくかもしれないわね」
シエラは多少経理なども出来るがやはり本職には敵わない。
その仕事の成果を見て、今後のギルドの運営の仕方を見直すことにしたようだ。
「貴重なお時間を頂いてありがとう。とても有意義な時間だったわ」
「そう言ってもらえてよかったわ。また時間を作って詳しく相談しましょう?」
「そうね。では今日はこれで失礼するわね」
「メリーナ先輩、また。今日は急に訪ねてすまなかった、助かったよ」
メリーナ先輩から話の過程でギルド運営の方向をアドバイスされたのだ。
さすがは上級生。経験豊富な知識をお持ちである。
メリーナ先輩が〈助っ人〉に来てくれてよかったよ。
ハンナにも感謝だな。
「気にしなくて良いよ~。ゼフィルスくん、シエラさん、気になる事があったらいつでもお姉さんに相談して良いからね~」
スマイルが眩しい! 俺の脳には頼れるお姉さんのメリーナ先輩として刷り込まれた。
今後、何か困ったことがあったら相談するとしよう。
シエラと共に〈総商会〉を出る。
「ゼフィルス、分かっているとは思うけど、相談するのなら私にも話を聞かせてね? あとくれぐれもメリーナさんの迷惑にならないようにして」
「お、おおう。分かってるよ。――大丈夫だ。俺だって頼れるギルドマスターなんだぜ?」
「そうね。でも頼りになる人が増えたのは助かるわ。戦闘職の私では限界があるって分かったのは大きな収穫だったわね」
俺の渾身のセリフとスマイルをシエラは軽く流した。
それはともかくシエラの意見には同意だ。メリーナ先輩とマリアが〈助っ人〉に来てくれたのは大きな収穫だったと思う。
「最後の人も期待が持てるわね」
「…………」
最後の1人、サトルは信者である……。そう告げようか迷うところだ。
だが、シエラにはシエラの判断で見定めてほしいという思いもあるので結局教えなかった。多分大丈夫だろう。サトルはハンナやルルを前にしたとき以外は普通らしいし。
とりあえずサトルにも紹介しないと始まらないのでチャットで居場所を聞くと、なぜかシェリアから『ギルド部屋』にいると返事が返ってきた。
……なぜシェリアから?
ちょっと不安に思いつつギルド部屋に戻る。
どうもサトルは、ちょうど俺たちと入れ替わりでギルド部屋に来たようだった。
シエラと共にギルド部屋に入る。
「ただいまー。…………ええっと、シェリアはそこで何をしてるんだ?」
「監視です」
「…………」
俺が質問をするととても簡潔なセリフが返ってきた。
ギルド部屋では【ハードワーカー】なサトルがハードなお仕事に努めていた。
いったいどこから持ってきたのか分からないほど大量の書類の山。
どこから持ってきたのか分からない作業用デスクが部屋の端に置かれ、そこに座るサトルが現在進行形でペンを走らせている。必死な形相で。
そして、その横に立ち、サトルをジッと見つめているシェリア。
いったい何があったんだ?
「いったい何があったのシェリア?」
シエラが聞いた。
「シエラさん、おかえりなさい。いえ、このわきまえない愚か者に制裁を与えていたところです」
いったい何をしたんだサトルは。シェリアの目がマジだぞ?
シェリアがこんな目をしたところは……ルル関係でしか見たことがない。
話は続く。
「この男ときたら、ルルにぬいぐるみをプレゼントして口説こうとしたのです」
「そ、それは誤解だと!」
「お黙りなさい。誰がどう見ても事案としか思えない現場でした。私がしっかりルルを守っていなかったばっかりに、あんなことになってしまって」
シェリアが悔やみながら告げる。
マジかよ。サトルめ、ハンナ信者だけじゃなくロリコンだったのか!
一応言い分がありそうなサトルだったがシェリアがそれを許さない。
ちなみに、ギルド部屋をよく見れば、ルルが見覚えの無い可愛いクマのぬいぐるみを膝の上に抱えて愛でていた。
「このぬいぐるみはすごいのです! なんと〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉の作品だったのです! ルルは凄く感激しているのです!」
どうやらシェリアの「あんなことになった」とは、プレゼントしたぬいぐるみをルルが気に入ったことのようだ。それだけであってほしい。
しかし、〈天道のぬいぐるみ職人・フラーラ〉といえば、確か特大〈モチッコ〉モチモチぬいぐるみ、通称モチちゃんの制作者と同じ名前だったはずだ。
リカが泣きを見たあのぬいぐるみだな。毎朝リカが愛でに来るほど愛らしく絶妙な触感を持っている大作にして〈幸猫様〉をお守りするための身代わり。
つまりルルの持っているアレは凄腕のぬいぐるみ職人の名作の1つということ。
そのぬいぐるみはとても人気でなかなか手に入らない、故に最近ファンの間では高値で取引されているとも聞く。(
サトルめ、あんなものどこで手に入れてきたんだ? しかもそれをプレゼントに選ぶとは、ちょっとどころじゃない本気度を感じるんだが……。
「ゼフィルス?」
「ま、まあ、待てシエラ、まずはサトルに聞いてみよう。話はそれからでいいだろう?」
「……そうね」
シエラがこの男、大丈夫なの的な目で見てくるのでとりあえずフォローする。
「お、おお、おおお! ゼフィルスさん、俺はあなたが神に見える!」
やめろ信者。神はハンナだけで十分だ。
とりあえずシェリアがどっかから持ってきた書類仕事は一旦やめさせ、話を聞くことにした。
「俺はハンナ様だけじゃなく、ルルさんにも助けられたんだ。俺が〈ウルフ〉にがぶりとやられて落ち込んでいたときに、そっとチョコレートを恵んでくれたんだ。その後も俺の奪われたアイテムを取り返してくれたりして、あれはまさしくヒーローだった。あの時は満足にお礼も出来ず、ずっとお礼がしたいと思っていたんだ」
なんだか思い出して感激しているサトル。
サトルよ、君助けられてばかりだな? 今も俺に助けられていたし。
詳しく聞くと、どうやらダンジョンでアクシデントが起こり、大切なペンダントが 〈ウルフ〉に奪われたときにルルが一緒に探し出してくれ、しかも道中のモンスターは全てルルが片付けてくれたのだという。おかげで奪われたペンダントは無事に戻ってきたのだとか、それからちょっとした騒動があって満足にお礼も言えなかったことを悔やんでいたらしかった。
そこで今回機会を得たのでお礼としてルルが気に入りそうなぬいぐるみをプレゼントし、食事でも奢ろうとしたところをタイミング悪くシェリアに見つかり、なんやかんやあって今に至るらしい。
なんやかんやの部分が説明不要なほどはっきり想像できるな。
「あれは完全に口説いていました! お礼に食事を奢りたい人が『食事でも、そ、その、どうですか? 奢りますよ』なんて聞くものですか! ルルを口説くなんて万死に値します!」
「き、緊張しすぎて言葉が上手く言えなかったんだ。ほ、本当だ」
む、難しい。とても難しい判断だった。
ルルにも確認したが、奪われたペンダントを探したこと自体は覚えていたが、サトルのことは覚えていなかった。サトルはそれを聞いて白目をむいていた。そっとしておくべきか。
とりあえずサトルだが、ルルを口説こうとした真偽は不明のまま終わり、ロリコン疑惑を受けたままとなった。
不幸にも、俺とシエラにはシェリアを止めるだけの理由が見つからず、サトルはシェリアから要観察者に認定されてしまう。
「大丈夫だ。本当にお礼がしたいだけで下心が無いのだったらすぐに疑いは晴れるさ」
と言ってサトルを励ましておいた。
ちなみにシェリアから罰と言われて課された書類の山だが、サトルは一日で終わらせた。
あれだけの書類の山を一日で、だと……?
ゆ、有能……。
とりあえず書類の罰は全てやり遂げたことにより反省の色は見えたため、シエラの判断は今後の仕事ぶりとサトルの行動を見てから決める事となった。
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