第404話 とち狂った開発陣が作り上げた男子最高ジョブ。




「じゃあ最後だな。レグラム、頼めるか?」


「了解した」


 俺の頼みにクールに了承し席を立ち上がるのは、一言で言えば貴族のイケメンだ。

 ホワイト寄りのブロンド髪をマッシュウルフに近い髪型にし、水色系の落ち着いた眼がクールだ。

 全体的にキラキラした、なんというか乙女ゲームのヒーローみたいな印象を受ける男子である。


「レグラムだ。〈戦闘課1年8組〉に在籍し、主に前衛アタッカーを務めている。職業ジョブは【花形彦はながたひこ】LV22。以前よりゼフィルスには大きな借りがあり今回ギルドへ応募させてもらった。加入したからには足手まといにならないよう全力を注ぐつもりだ。よろしく頼む」


 そう簡単に自己紹介すると周りから拍手が飛ぶ。


 すると、当然のようにメンバーから気になるという質問も飛んだ。


「よろしくね。私はシエラよ。それでゼフィルスに大きな借りがあるとはどういうことなの?」


「私も気になるわ。またゼフィルスが何かやらかしたの?」


「おいラナ。いつも俺が何かやらかしているみたいに言うのはやめてもらおうか?」


 ラナが失礼なことを言い出したので即で訂正を求める。

 しかし、返ってきたのは「何言ってるの?」みたいな眼だった。せぬ。


 しかし、女子たちの多くはシエラやラナと同意見らしく、レグラムに解を求める眼をしている。

 レグラムが予想外の展開に面食らいつつも話し出した。


「ふむ。なに、ゼフィルスにとっては大したことは無かったのだろう。俺が勝手に借りだと思っているだけである。一言、アドバイスをもらい受けた。俺が【花形彦】に就けたのは間違いなくゼフィルスのおかげだろうと確信している」


「アドバイスねぇ。ゼフィルスって本当にいろんな所でそんな事しているのね?」


「あ~。まあ。誰でもってわけじゃないけどな。たま~にな」


 レグラムの言葉に「またか」みたいな視線を寄越すラナ。

 いやだって仕方なかったんだって。これには深い理由があるんだって。


 あれはいつだったか。

 夜の訓練場でなんか熱心に剣を振り回し、難しい顔をしたキラキラした男子がいたんだ。

 このキラキラを見た瞬間、俺はそれが「人種」カテゴリー「男爵」のシンボルであると確信したね。


「男爵」のカテゴリーは〈ダン活〉の中でも異色中の異色。

 まず女子のシンボルは〈チョーカー〉なのに対し、男子のシンボルはキラキラエフェクトである。

「男爵」のカテゴリー持ちは、何か行動する度にキラリとしているのだ。

 髪をかき上げたらキラキラ、身をひるがえせばキラキラ、剣を振り続ければもうキラッキラだ。


 また、「男爵」の男子は、職業ジョブ【イケメン】に就く事が出来るため、かなり整ったイケメン顔をしていることが多い。というかイケメンしかいない。

 イケメンでキラキラ光っていたら「男爵」。これ〈ダン活〉プレイヤーの常識。


 もちろんこれだけでは終わらない。

「男爵」が異色中の異色と言われる所以ゆえんはその男子の優遇処置にこそある。


〈ダン活〉では男性プレイヤーの心を掴むため、主に女子キャラや女子専用職業ジョブがとても優遇されていた。

 その代表となるのが〈姫職〉である。

 しかしだ。何をとち狂ったのか開発陣の誰かがこう言った、「〈姫職〉があるなら、〈彦職ひこしょく〉があってもいいだろう?」と。


 俺も雑誌のインタビュー記事を読んだだけなので詳細は分からないが、開発陣の間でこれが大いに揉めたらしい。

 結局なんか徹夜続きでハイになったテンションで下級職を2つ作ったところでアイディアが無くなり、そのまま企画がおじゃんしたとかなんとか。

 寝て覚醒した開発担当者はいつの間にか完成していた〈彦職〉を見てこう呟いたらしい「まったく覚えていない」と。


 どんだけヤバい状態だったのか想像を絶するな。

 しかし、せっかく作った職業ジョブだ。生かさない手は無いとかで、「男爵」のカテゴリーにだけこの〈彦職〉が加わった。

〈彦職〉は〈姫職〉と同系統。つまり強力な職業ジョブだ。


「男爵」の名声値(スカウト値)はたったの20。「姫」は名声値150である。

 でも強さはほぼ横並び。

 もうね、とんでもない事をしてくれたよね開発陣は。男子をなぜ150にしなかったし。

〈彦職〉以外の「男爵」職業ジョブが弱いのが原因だけど!

「男爵」と「子爵」は男と女で就ける職業ジョブが違うという特殊仕様だったからなぁ。


 それで〈彦職〉な、むっちゃ強いんだよ。

 俺たち〈ダン活〉プレイヤーは、これによってどんなイケメン嫌いな人でも最初はイケメン男爵を使わざるを得なくなったのだ。

 この影響でイケメンが大好きになっちまった男性プレイヤーも少なくないと聞く。

 恐ろしい影響だった。


 長くなったがレグラムが就いているこの【花形彦】こそ、〈彦職〉の一角だ。

 前衛で、剣を武器に戦い、アタッカーで回復も使え、バフとデバフもこなし、さらには馬に単騎騎乗することもできる、まさに貴族の中の貴族といった職業ジョブ


 こんな職業ジョブが手に入る機会を逃して良いと思うだろうか?

 俺もゲーム〈ダン活〉で初期の時代、この〈彦職〉、【花形彦】と【彦スター】には散々世話になったのだ。ちなみに【彦スター】はアイドル系なのでバフ特化だった。

 そしてリアル化した〈ダン活〉でも、〈彦職〉は加えたいと思ってしまったのだ。


 まあ、当時はもしかしたら将来的に〈エデン〉に組み込むかもなぁと思って【花形彦】の発現条件を満たすアドバイスを、ほんのちょっとだけ送っといたのだがまさか、本当に【花形彦】に就いて巡り巡って〈エデン〉にやってくるとは。当時の俺はナイスとしか言いようがない。


 それにレグラムがあの時のことを本当に恩に感じていて、面接の時、他のメンツとはもの凄い加入への意気込みの温度差があって目立っていた。

 他の男子たちが女子にばかり目が行っていたのに対し、レグラムだけは誠実に前を向いていたしな。


 ちなみにこれは後で聞いた話だが、どうもレグラムには婚約者がいて他の女性にはあまり目が行かないらしい。すげぇな。ちょっと羨ましいと思ったのは内緒。

 また、「男爵」はイケメンすぎて、まあ小さい頃から女性に対し耐性ができるとも言っていた、結構苦労したような口調で。うむ、深くは聞くまい。


 セレスタンの性格面の調査も〈合格〉が出ており問題無かったため今回〈エデン〉に採用となった。


 10人目は男子、〈彦職〉【花形彦はながたひこ】のレグラム。


 俺は君を大歓迎する!




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