第405話 新メンバー歓迎会。忘れてはいけない御神体!




「アイギス【姫騎士】。ノエル【歌姫】。ラクリッテ【ラクシル】。サチ【魔剣士】。エミ【魔本士】。ユウカ【魔弓士】。ニーコ【コレクター】。カイリ【シーカー】。アルル【炎雷鋼ドワーフ】。レグラム【花形彦】。以上10人、これが〈エデン〉の下部組織ギルド、〈アークアルカディア〉のメンバーだ。皆、仲良くしてくれたら嬉しい」


 各自、自己紹介も終わり改めて最後に俺が〆るとたくさん拍手が鳴り響く。


 全員高位職で、高の上が【姫騎士】【歌姫】【ラクシル】【炎雷鋼ドワーフ】【花形彦】の、なんと5人。

 残りの5人は【魔剣士】【魔本士】【魔弓士】【コレクター】【シーカー】は高の下だが。

〈アークアルカディア〉のメンバーもかなり強力なメンバーだ。


 ゲーム時代、下部組織ギルドというのはレギュラーとの交代要員であったり、脱退させるのに抵抗があって残していたりという使い道が大半だった。

 それは、ゲームでの下部組織ギルドがそういう使い道しか出来ず、探索もオートだったからだ。


 そりゃ下部組織ギルドがレギュラーたちと同じように運営できたら下部組織ギルドの意味がない。レギュラーが増えるのとほとんど同じ意味だ。上限を設定している意味がなくなってしまう。


 故に、ゲーム時代の下部組織ギルドは探索後の報酬も微々たるもので、プレイヤーにくれる素材・装備も少なく、ただのQPの食いつぶしでしかなかったわけだが、リアルだとその扱いがかなり変わる。180度くらいに。


 なんとリアルは自由に下部組織ギルドのメンバーと交流することもできるし、ゲームではできなかった下部組織ギルドのサブメンバーとレギュラーのメンバーでパーティを組み、合同攻略なんかもできる。

 下部組織ギルドを必要以上に支援することもできるし、逆に下部組織ギルドに指示を出し、必要な素材などを集めさせることなんかもできるようになるわけだ。

 ゲームとリアルの格差がすごいな。夢が膨らみまくる!


 唯一と言っていい出来ないことといえば、ギルドバトルの合同くらいのものだろう。

 ギルドバトルはギルド同士のバトル。別ギルドのメンバーは参加不可である。もちろん下部組織ギルドでもだ。

 ただそれを除けば自由すぎるほど自由だ。もう第二の〈エデン〉とか、〈エデン〉二軍と言ってもいいレベルである。

 もうゲーム時代と違いすぎて大変やべぇんだけど!


〈エデン〉はまだEランクなのに合計25人もメンバーがいていいのだろうか? いいんだな?

 OKOK! ゲーム時代、上限人数の関係で散々悩んでメンバーから外してしまったメンバーもガンガン入れよう! いや、でもここはリアル。永遠の補欠下部ギルドとか可哀想か?

 うん。少し落ち着け俺。やっぱりシエラたちと相談しながら決めていこうか。


 頭の中で考えが二転三転クルクルしながら、とりあえず今後のギルドの方針について語っていく。


「もうすぐ〈エデン〉はDランクに上がる。上限人数も増加するとして20人になるから、5人分の枠ができる。基本、〈アークアルカディア〉から〈エデン〉に昇格してもらうことになるだろう。そこが初の昇格試験だな」


 そこまで言うとサブメンバーたちがざわめく。

 まあ、近々昇格する機会があるというのだ。気合が入るだろう。


「ここまでで質問のある人」


「じゃあお言葉に甘え、質問いいかな?」


「お、ニーコか。どうぞ」


 俺が聞くと手を上げたのは【コレクター】であり未成熟研究者のニーコだった。


「ぼくの職業ジョブはダンジョン専門だからね。昇格試験は辞退しておくよ。ぼくは〈エデン〉からもらえる品さえあれば満足さ」


 ニーコの言葉に今度は〈エデン〉メンバーも含めてざわざわする。

 昇格の辞退とは、この世界の感覚からすれば本来ありえない。

 それは、この世界ではギルドバトルが一種のステータスとなっており、ギルドバトルで優秀な成績を修めた者こそエリート街道を突き進める、という風習があるためだ。


 実力主義のこの世界において、自分の成果を魅せる場であるギルドバトルこそ、何よりの目標なのだ。

 しかし、Cランクになることができない下部組織ギルドはギルドバトルを行なう事も限られてくる。

 観客だってランクが上の方が注目される、お偉い方々は基本Bランク以上のギルドバトルしか見に来ないなどもあり、あえて下部組織ギルドのまま終わりたいと思う者はほとんどいないのだ。


 だが、ニーコの職業ジョブは【コレクター】。まあギルドバトル向けの職業ジョブではないよな。


「思い切りがいいなぁ。了解だ。ニーコはダンジョンの方に注力してくれ」


「うむ。そちらは任せてくれ」


「よし、他に質問はあるか?」


「んじゃ、うちもいい?」


「いいぞアルル」


「うちも生産職やし、戦闘能力は全然ないかんなぁ。ニーコはんと同じく昇格はしなくてええわ。というか〈上級転職チケット〉使わせてもらうことになっとるんやから、レギュラー入りまで目論んだら罰が当たるわ」


 おっと、ニーコに続き【炎雷鋼ドワーフ】のアルルもか。

 まあこれも仕方が無い。〈エデン〉も〈アークアルカディア〉も戦闘系のギルドバトル専門だ。

 生産職は戦えない。基本は戦えない。(重要なので2回)


 アルルの場合は俺が〈上級転職チケット〉を余分に入手したとき、アルルを上級転職ランクアップさせることも話しているため、辞退したようだ。

 まあ、この世界では上級職は一握りの存在しかなれない。たとえギルドバトルで結果を残せていなくても上級職というだけでどんなところにも引っ張りだこだ。

 しかも生産職で上級職とかほぼ皆無なので将来的に引く手数多だろう。ギルドバトルに参加する理由がないのである。

 故に下部組織ギルドでも構わないらしい。


 他にも募ってみたが、昇格試験を辞退したいのはこの2人だけのようだ。


「では、他の8人が〈エデン〉加入の有力候補だな。それと、覚えていてほしいのは基本下部組織ギルドが昇格の有力候補であるのは変わりないし、皆のことは俺たち〈エデン〉のメンバーがLV上げなんかも手伝うけど、それでも外部から優秀な人が加入する場合もあるというところだ。この5人の枠に必ず〈アークアルカディア〉のメンバーが選ばれるわけじゃないから、そこは留意していてほしい」


 要は〈エデン〉が昇格しDランクになって上限5枠増えたとしても、その枠に〈アークアルカディア〉が必ず選ばれるわけではないということだ。


「はい。そこはサブメンバーも全員了解しております。他のギルドでも普通のことです。問題ありません」


 俺の言葉に同意したのは〈アークアルカディア〉のギルドマスター【姫騎士】のアイギス先輩だ。


 本当はこの5人の枠は全て下部組織ギルドからレギュラー入りをさせてあげたいのだが、シエラとメルトから待ったが掛かった。それはダメらしい。

 下部組織ギルドの人をレギュラー入りさせないというのももちろんダメだが、レギュラー入りさせるのを下部組織ギルドサブメンバーだけに絞るのも危険らしい。


 これは他のギルドでもあることだが、補欠下部ギルドがいるにも関わらず、他の上級職の人の引き抜きに成功して一足飛びでレギュラー採用することがよくあるためだ。


 要は、あるとき〈上級転職チケット〉が偶然ドロップし、まったく注目していなかった学生が急に上級職になったとして、引き抜きに自分の下部組織ギルドへスカウトしても頷いてくれるわけがない。当然レギュラー入りを確約しないと首を縦に振ってはくれないだろう。


 そういうことだ。


 ということで、悪いが〈アークアルカディア〉のサブメンバーは〈エデン〉メンバーの最有力候補という位置づけとなることを了承してもらった。


 他にも〈エデン〉の下部組織ギルドとしての注意点などを語った。うちには色々と秘密が多いからな。

 終わる頃には遅い時間になったため、〈エデン〉恒例の歓迎会&親睦会を含めたパーティを開催し、〈エデン〉〈アークアルカディア〉の友好を深める。


 おっと、忘れてはいけない〈エデン〉の最後のメンバーも紹介しておかなければな。


「〈アークアルカディア〉のみんな、ちょっと前に集まってくれ。とても大切な仲間を紹介しよう。我が〈エデン〉の御神体様にして猫の神。〈エデン〉の最後のメンバーである〈幸猫様〉と、最近加入した〈仔猫様〉だ!」


 ババン! と背後に文字が浮かびそうな勢いで我が〈エデン〉の御神体様を紹介した。

 歓迎会&親睦会をやると言ってみんなに準備を手伝ってもらったときの隙を突いて、俺はラナから〈幸猫様〉を取り返していたのだ! 頑張った。


 おお、素晴らしき御神体。思わず頭を下げてしまいたくなってしまいます〈幸猫様〉~。

 ありがたや~ありがたや~。


 さらにそのお側にちょこんと置かれるのは〈猫ダン〉でドロップした〈仔猫様〉だ。

 今まで攫われる危険があったので出さなかったが、これからパーティだ。

 是非お二方にも楽しんでもらいたい。そして〈アークアルカディア〉を紹介したい。


「かわいー!」


「何これー!」


「うっ、撫でてみたい」


 ふ、仲良し三人娘が〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の魅力にやられてしまったようだ。

 だがおさわりはダメだぞ? お祈りをするんだ。


「まず俺が見本を見せよう。こう祈るんだ。おお〈幸猫様〉〈仔猫様〉~新しいメンバーが加わりました、どうか俺たちに『幸運』をお与えくださいませ~」


 俺は〈アークアルカディア〉のメンバーたちの前で拍手2度打ってお祈りした。

 すると、オレンジ色のグロウな光がギルド部屋に溢れる。


「わあ。これは、綺麗ですね」


「び、ビックリしました。これが〈幸猫様〉? 〈仔猫様〉の力?」


「幻想的な光だな。美しい光景だ」


 ノエルとラクリッテがグロウな光に感動したように言う。

 レグラムもこの光景に目を見張っているようだ。


 もちろん〈アークアルカディア〉だけではない。

 パーティ準備をしていた〈エデン〉メンバーも一時その動きを止め、部屋の光景を見つめていた。


「懐かしい光景ね」


「そうですね、シエラさん。最初の〈エデン〉創立の時を思い出します」


「へえ。〈エデン〉の時もこれやったんだね。その時から〈幸猫様〉はいたのかい?」


「はい! 〈幸猫様〉とは〈エデン〉が出来たときからの付き合いです!」


 シエラとハンナがしみじみと言い、【シーカー】のカイリがそれに食いつき、ハンナがそれに応える形で話を広め始めた。


 そうして少しずつ〈エデン〉と〈アークアルカディア〉の距離は縮まっていく。


 今ので〈アークアルカディア〉のメンバーにも『幸運』が生えたはずだ。


 今日はゆっくりとパーティを楽しんでほしい。


 そして明日からは本格的に〈アークアルカディア〉始動だな。




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