第399話 下部ギルド創立! 良し、歓迎会を始めよう!




 Dランク昇格試験も大事だが、ギルド〈エデン〉にはそれ以外にも大事なことがある。

 下部組織ギルドの創立だ。


 実は以前面接で合格した下部メンバーの交渉や移籍手続きが終わったのだ。

 セレスタンとリーナには感謝しか無い。

 これでようやく下部組織ギルドを創立することが出来る。


 そうして現在、新しい下部組織ギルドを申請するために下部メンバーたちと〈ギルド申請受付所〉に来ていた。


「これで手続きは完了だな。皆は今日から〈エデン〉の下部メンバーだ。これからよろしく頼む」


「「「「はい!」」」」


「「「「よろしくお願いします!」」」」


 手続きが完了するといい返事が帰ってきた。

 ほぼ全員、あの大面接を勝ちあがってきたスペシャルメンバーたちだ。

 今回手続きしたことで正式に〈エデン〉の下部組織ギルドに加わることになる。

 メンバーは女子が9人、男子が1人。男子が少ないのはご愛嬌だ。女子が強い。熱意がすごい。


 下部組織ギルドの設立と運営にはQPが掛かる。

 今回設立のために2万QPを、運営維持のために千QPを支払った。

 しかし、運営維持には毎月千QP支払わなくちゃいけないと言うのが地味にきついな。

 Fランクだから最低額のはずだがそれでもこの値段だ。ミールに換算すると100万ミールである。クエスト1回分と言い換えても良い。


 これが下部組織ギルドのランクが上昇すると、当然ながら運営維持費も上がる。

 Eランクなら3千QP(300万ミール)。Dランクなら5千QP(500万ミール)も掛かる。それも毎月。

 しかし、これも引き抜き対策と思えば決して高くは無い。優秀な人材はどこでも欲しいのだ。この値段で囲い込みができるのならやるギルドは多い。


 ちなみに、今回のように下部組織ギルドの所属者が他のギルドへ移籍したい場合は、ちゃんと親ギルドに許可を取る必要がある。そうしないと囲い込みをする意味が無いからな。相応のミールやアイテムなどを親ギルドに納める必要がある。


 とりあえず、〈ギルド申請受付所〉から移動しよう。

 まずは下部メンバーが与えられたというギルド部屋を見に行った。

 懐かしきギルド舎A棟のFランクギルド部屋だ。


 懐かしいとはいえ、つい2ヶ月ほどの話だけどな。


「殺風景ですね」


「でも、ここから始まりって感じがします」


 Fランクギルド部屋に入って初めて感想を言ったのは【歌姫】のノエルと【ラクシル】のラクリッテだ。

 この2人は一番早く脱退の手続きが済んだためほとんどフライング気味に〈エデン〉の活動に参加していたメンバーだ。

 おかげで2人ともLV30を超えて、この下部メンバーたちの中では頭一つ以上抜けた存在となっている。


「お話中に失礼させていただきます。新しく集まったメンバーですので、親睦を深めるため、何かレクリエーションを行ないたいのですが」


 そう言って丁寧な言葉で話しかけてきたのは〈テンプルセイバー〉の下部組織ギルド、〈ホワイトセイバー〉に在籍していた2年生のアイギス先輩だ。

 彼女は〈標準職〉の【ナイト】に就いていたのだが、現在は俺がプロデュースした例の条件を満たし、エステルと同じ【姫騎士】に〈転職〉していた。

 まだ〈転職〉したばかりなのでLVは10と低いが、〈道場〉に行けばすぐにLV40までは上がるだろう。


 え? いつプロデュースしたのかって? もちろんダンジョン週間中だ。

 日中はダンジョン、夜は下部メンバーの訪問と忙しい時間を過ごした。

 アイギス先輩の下にも当然訪問し、しっかり【姫騎士】の条件を満たしたぜ。

【姫騎士】に〈転職〉出来た時のアイギス先輩は泣きそうな、でもちょっと困ったような顔をしていた。

 でも最終的には喜んで貰えた。


 後はいつも通りスラリポマラソンでLV6まで上げてから、初心者ダンジョン周回でLV10まで上げてもらった形だ。ここまでは簡単にLVも上がるので〈道場〉を使うのは勿体ないからな。


 また〈転職〉に必要不可欠であった重要アイテム、現在国が使用を禁止している〈竜の像〉であるが、最近使用禁止の緩和が発表された。


 これは教育機関である学園などで〈竜の像〉の使用禁止が問題となってしまったためだ。運営上の差しさわりはもちろんだが、何しろ保管している〈竜の像〉自体の量も多く管理が難しいという事もあり、完全に禁止にしてしまうと〈密転〉する者が後を絶たない状態となってしまったのだ。


 ちなみに〈密転〉とはここ最近できた〈秘密に転職〉するという意味の造語である。密輸や密売なんかの親戚かなにかだろう。


 それはともかく、この事態を受けて国は、ある一地域、機関などに特別許可がおりた者のみ〈転職〉の利用ができることを認めたのだ。

 この特別許可を利用したいと学園長に相談。

 以前入学式のとき、何か困ったことがあったら力になると言って下さったので、相談に伺ったらわりと簡単に特別許可が貰えたのだ。

 さすが権力者。ありがたやありがたや。

 今度、何かお礼をしなければならない。


 と、今はアイギス先輩が話しかけてきたんだったな。


「構わないよ。だけどそれはすでにこっちで用意してある。〈エデン〉のギルド部屋まで来てくれ、そこで歓迎会の準備をしているはずだ」


「え? ええと、よろしいのでしょうか? 普通ならギルドメンバーの方々はサブメンバーの受け入れに難色を示すことも多いのですが」


 アイギス先輩が言っているのはリアル世界の特有の現象だ。

 そりゃ本来なら下部組織ギルドのサブメンバーは主力メンバーたちにとってライバルみたいなものだ。

 いつ補欠と交代させられるかも分からない。


 ギルドとして見たとき、上に行くには下部組織ギルドを作り、多くの人材を受け入れた方が断然有利に動ける。

 しかし、個人で見たときは視点が180度変わってしまうのだ。

 普通ならアイギス先輩の言うとおり、諸手を挙げてサブメンバーを歓迎するギルドの方が少ないのである。

 アイギス先輩の在籍していた〈ホワイトセイバー〉の待遇が悪かったのも、そういった理由からだった。


 しかし、〈エデン〉は問題ない。全員が自分に自信を持っているからな。

 自信が付くようにあれこれ伝授したのは俺だが。


 まあ、そんなわけで〈エデン〉に限って言えばそれは無用な心配だ。


「〈エデン〉のメンバーなら大丈夫さ。皆歓迎してくれるよ」


「そうですか? では、せっかくですのでお言葉に甘えさせていただきます。皆さんもよろしいでしょうか?」


「いいですよぉ」


「はい。私も行きます。大丈夫です〈エデン〉の皆さんはとてもいい人たちですから」


 アイギス先輩の確認に真っ先に答えたのはノエルとラクリッテだ。彼女たちはすでに〈エデン〉と交流があったので話はスムーズに進んだ。


 そのまま10人全員で〈エデン〉のギルド部屋へ向かう。


 さて、ちゃんと〈エデン〉の皆には紹介しないとね。




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