第七章 〈エデン〉大面接と中級中位攻略!

第346話 装備が貧弱。まずは装備を調えよう。




「ねぇゼフィルス。ちょっとカルアの装備が心配なのよ。見繕うの手伝ってくれないかしら?」


 日曜日の朝はそんなラナの言葉から始まった。


 〈天下一大星〉とのギルドバトル〈決闘戦〉が終わった翌朝、いつも通りウキウキ気分でギルド部屋を訪れると困った顔のラナ、リカといつも通りボーっとした感じのカルアがいた。

 ラナよ。とりあえず挨拶から交わそうぜ? いつも後ろから見ているはずのエステルかシズはどこに行ったんだ?


「とりあえずおはよう。それで、どうしたって?」


「おはようゼフィルス」


「おは」


「おはよう。そんなことより、カルアの装備が貧弱って話なのよ!」


 そんな事よりじゃねぇよ。挨拶はしようぜ!?

 まず挨拶をするとリカとカルアから返事が返ってきたがラナはちょっと適当だった。

 シズが居たら無言の「こほん」圧力にさらされていたはずだ。


 しかし、カルアの装備?

 俺はカルアの装備を上から下まで見る。

 靴は優秀な〈爆速スターブーツ〉だ。しかしそれ以外の装備が軒並み初級中位以下の性能ばっかりだった。


 優秀である〈爆速スターブーツ〉も防御面はあまり性能が良くない。その真価はスピードにあるからだ。


 つまり、カルアは紙装甲だったのだ。

 よく今までこんな装備でやってこれたものである。

 まあカルアの【スターキャット】は回避にとても重点を置いた職業ジョブなので、当たらなければどうということは無いのだが……。さすがに中級中位ちゅうちゅう以降にその装備は辛いだろう。一発でも当たればシャレにならないダメージを負うはずだ。


「ん。当たらないよ?」


中級中位チュウチュウからは全体攻撃をする敵が増えるからなぁ」


 カルアは全ての攻撃を避ける気満々といった様子だが、何事にも限度というものはある。

 特に中級中位チュウチュウのボスは大範囲攻撃、全体攻撃を普通に使ってくるのでアタッカーも被弾が増えるのだ。


 ある程度防御力を上げていないとここで脱落する。

 この〈ダン活〉で極振りができない理由だな。

 また、多くの上級生が中級中位チュウチュウで手こずっている理由でもある。


 タンク無視の攻撃は辛いのだ。


 〈エデン〉も中級下位チュカのクリア者が増えてきて、もう少しで本格的に中級中位チュウチュウにコマを進めようというところ。

 カルアだけではなく、そろそろギルド全体の装備の更新の時期だな。


「よし。採用しよう。カルアの装備を調えるか。カルア、予算はあるか?」


「ん。必要ないのに……。今あるのはこれくらい」


「……ちょっとどころじゃなく足りないな。あれ? 〈ビリビリクマリス〉狩りなんかで得た報酬はどこ行ったんだ?」


「ぬいぐるみの作製費とか、カレーとか、いろいろ使った」


「マジかよ……」


 カルアが見せてくれた〈学生手帳〉に記載された残高を見て、俺は天を仰いだ。

 食べ物でなんでこんなに使うんだ……、ってそうか、カルアはカレーは飲み物だって勘違いしている娘だった。後でちゃんとカレーは食べ物なんだって教えておかないと。


 とそこでこちらの話に加わってきた者がいた。〈エデン〉の頼れるサブマスターのシエラだ。


「おはようゼフィルス。聞かせてもらったのだけど、ゼフィルスが以前作っていた〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉を貸与してあげるのはどうかしら?」


「おはようシエラ。あれなぁ。〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉は確かにカルアにぴったりだが、あれはあんまり使いたくない」


 シエラの言う〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉とは以前狩りまくった〈ビリビリクマリス〉の素材で作られた頭から足まで揃った5点セットの装備のことだ。

 一応、ギルドの者なら誰でも使っても良い貸与品として〈エデン〉の共通財産となっている。

 雷属性系のダンジョンに行くための対策装備という位置づけのものだ。


 故にカルアが独占する形になるのは避けたいところだ。

 対策装備が必要な場面になった時、カルアが使っているので貸せません、となったらなんのために作ったのか分からないからな。

 あれを作ったがために俺はシエラから長時間のお説教をもらったのだ。

 タダでは貸せない。(貸与のハードルが無意味に上昇中)


 しかし、カルアの初級装備で中級中位ダンジョンに挑むのも危険だ。


 ということでまずは本人を説得してみるか。


「カルア。今後中級中位チュウチュウに進みたければ装備を更新することが条件だ。俺たちが納得する装備を揃えられるまで中級中位チュウチュウに挑むのは禁止とする」


「そんな……」


 俺の宣言にカルアががくりと肩を落とす。

 そこへラナが近寄ってカルアを励まし始めた。


「大丈夫よカルア。要は装備を調えれば良いだけじゃ無い! きっとゼフィルスがなんとかしてくれるわ」


「ん。そうだった。ゼフィルスお願い」


「って俺にぶん投げかよ。まあいいけど」


 カルアがキラキラした視線で俺を頼っています。助けてあげますか?

 イエス。


「どうするの?」


 シエラが状況を確認した上で俺に尋ねてくる。


 どうするもこうするもなぁ。


 俺は考える。現在6月9日(日)。

 来週からはまたダンジョン週間が始まる。

 前回から2週間しか経っていないが、先月が一週間ずれ込んでいたのと、今月の第四週が16日からスタートということで、今回は期間が短いのだ。

 また、このペースで行けば〈エデン〉はダンジョン期間中に中級中位ダンジョンへ進むことは間違いないだろう。


 つまり期限はあと1週間。

 それまでに装備を調えるだけのミールを稼ぐ。

 ちょっと厳しいか?

 まあ出来なくは無いが、素材を売って、査定が出て、装備の作製を依頼して、装備が完成する。までの工程を考えると、それなりに無理を推し進める必要があるな。


 他のメンバーの事もある。パメラ、シズ、セレスタン、ミサトも装備を更新したいところだ。効率よくステップアップするには次のダンジョン週間を装備の充実に当てるが吉のはずである。


 しかし、ここはリアルだ、ゲームには無かった要素のあるリアルだ。

 ゲームなら装備を作るため、大量の素材をゲットするところから始めなければならないが、リアルの〈エデン〉にはゲームではあり得なかった資産がある。それも膨大な。


 その資産の名は〈クエストポイント〉通称:QP。

 ちらりと現在の〈エデン〉のQPを確認すると、129万QPが残っていた。

 ミールに換算すれば、約13億。

 やばい。


 というわけで、今回はこれを使って装備を調えようと思う。


「今日は日曜日だしQPも潤沢にある。〈シングルオークション〉に参加するのはどうだろう?」


 俺はそう提案した。




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