第324話 ミサトから提案。〈天下一大星〉をへし折ろう!




「ごめんねゼフィルス君、大丈夫だった? 怪我は無い?」


「ミサトが謝ることなんてないから大丈夫だ。怪我もしてないし。それに親切な人たちに助けてもらったから」


 今朝の話はすぐに学園中に広まった。

 すごいんだ。教室に入ったらすでに全員が知っていて、〈エデン〉メンバーから問い詰められたりもした。

 プンスコ怒ったラナとルルに、静かにどこかへ連絡しようとするセレスタンやシズを抑えるのが大変だった。ギルドバトルで叩きのめそうなんて案が出たときは焦ったよ。

 あと、シエラがサターンたちの席を冷たい目で見ていたのが妙に気になった。あのジト目に震えが……。

 ふう。なんか朝からすっごい疲れた。誰か元気を分けてくれ。


 そしてミサトの耳にも話が入ってきたのだろう。

 先日まで在籍していたギルドがやらかした、その責任の一端を感じているようで俺の席まで謝りに来ていた。


 ミサト良い子だなぁ。

 本当に、あれは男子たちの暴走であってミサトに非は一切ない。

 もちろん俺にも無い。無いよな? うん。無いな。


「本当? それならよかったけど……」


「というかミサト、〈天下一大星〉から抜けたんだな」


「うん。元々一時加入の予定だったしね。いつまでもお世話になるのも不義理だし」


 凹んでいるのか、声に元気無く言うミサト。視線を上にあげれば、うさ耳もヘコッと曲がっている。あの耳はいったいどうなっているんだろうか。


 ミサトは義理堅い。

 元々一時加入の約束で入ったギルドのために、自分が抜けた後の代わりの人材を探してくるくらいだ。

 しかもヒーラー高位職の【ホーリー】に斥候高位職の【密偵】まで見つけてきてギルドの強化につなげたのである。

 それだけではない、驚いたことにあの今朝いた上級生の人たちの一部はミサトが〈天下一大星〉にスカウトしたらしい。


 実力主義のこの世界で上級生が下に付く1年生のギルドは珍しい。

 どういうからくりかと思ったら裏にミサトの活躍があった模様だ。

 だからこそ俺に謝りに来ているわけなのだが。


 別に責任を感じる必要もないのに。とても良い子である。


「でも抜けるの勿体無かったんじゃないか? 上級生がいるギルドだろ?」


 上級生は1年以上ダンジョン生活を送ってきたため、その実力は初心者の1年生と雲泥の差がある。正直、ミサトはあのまま在籍していてもよかったのではないかと思う時もある。

 だが、それを言うとミサトは困った顔になるのだ。


「お姫様扱いみたいにされちゃって、その、周囲の目がよろしくないと言うか」


「あー、なるほど」


 例の男子たちの姿を思い出す。

 なんというか、熱狂的な信者を思わせる光景だった。

 上級生たちがミサトが抜けたことを嘆いていたのはそういうことだったらしい。


 ミサトは絶対チヤホヤされていたであろうことは間違いない。

 そして、ギルドに紅一点だと周囲の目がよろしくないというのもわかる。

 ならば女子をスカウトすればいいじゃないか、と思うが、ミサトの手腕をもってしても女子の加入者は見つけられなったらしい。

 紅一点はミサトとしても困ったことだろう。


 俺も男子たちから憎いだの羨ましいだの爆発しろだの言われたしな。

 ミサトも女子から同じことを言われたか、そうじゃなくてもいい目では見られなかったんだろう。


 うん、そういう観点からも抜けてよかったんだな。


「しかし、驚いたぜ。いつの間に〈天下一大星〉のメンバーはあんなに膨れ上がったんだ?」


 〈天下一大星〉総勢22人。

 Eランクギルドは上限人数15人なので下部組織ギルドまでできている。

 次のDランクを見越して合流する人材を集めていたのだとしても2名も溢れる人数だ。Dランクは上限人数20人だからな。

 相当人望がないとここまでの数は揃わないと思う。

 ミサトがスカウトしてきたのは8人という話なので残り10人はサターンたちが集めたようだ。


 正直、よくこの短期間に集められたと感心する人数だった。

 確か最初サターンたちだけでクラスを回ったときは誰一人として付いてきてくれる人がいないと嘆いていたのに、サターンたちも成長したものである。ほんの少しだけ見直した……いや、やっぱり見直さない。


「あ~、あれね。うん。なんだかね。〈天下一大星〉の掲げる目標みたいなのに同調する人が増えちゃった、みたいなのね」


 なんだか歯切れの悪い言い方でミサトが言う。

 〈天下一大星〉の目標? そういえばあいつらは何を掲げてたんだ?


 ちなみに〈エデン〉の目標はSランク到達である。裏目標にダンジョン全制覇もあるがまだ秘密だ。


「えっとね〈天下一大星〉の目標って、『打倒勇者』なの」


「あ~」


 すっごい納得した。

 えっとそれってつまり。


「『打倒勇者』が目的の男子たちが集まってきたと?」


「うん。まあそんな感じ」


 なんで目標が俺やねん。ダンジョン攻略目指せや!

 思わずエセが入ってしまった。


 あの男子たち、アホだろ。


「多分、また絡まれると思う」


「ああ、やっぱりそう思うか?」


「〈天下一大星〉って諦めが悪くて有名な部分があるからね。たぶん帰ってきたら申し込まれると思うよ」


 げんなりした。だけどすごく納得する。

 あれでサターンが引き下がるわけがないな。


 そんな俺を見てミサトはなぜか決意するように言う。


「ゼフィルス君、よければ私を〈エデン〉に入れてくれないかな? 私が〈天下一大星〉を抑えてみせるよ」


「んん?」


 思わずミサトを見た。

 ミサトが〈エデン〉に加入する? それは嬉しいが…。


「それって火に油を注いでないか?」


 絶対男子たちが爆発するものと思われる。

 ドッカンってなるんじゃないか?


「うん。でもね、私が元いたギルドだし、何とかしたいんだけど。今の私って部外者だから筋を通したいなって」


 ミサトは義理堅い。

 つまりミサトが説得するということか? いや無理だろ。

 むしろ怒りメーターが振り切れて発狂すると思う。


「無理じゃないか?」


「ぐっ、はっきり言われた……。でもさ、どっちみちゼフィルス君との衝突は避けられないと思うよ」


「まあ、確かに。なぜか『打倒勇者』目標にしているからな」


「なら、今更私が加わったところで変わらないでしょ?」


「ミサトが加わったところで〈天下一大星〉が押さえられないなら意味無くね? いや入ってくれるのは嬉しいけど」


 むしろミサトが〈エデン〉に加入すると激化すると思われる。終わらない戦争の幕開けになるぞ。


「だからこそ叩き潰すのに意味があるんだよ」


「…………ほう、その心は?」


「人の迷惑になる人たちはね、怒られても文句は言えないと思うの。だから圧倒的に勝とう! 〈天下一大星〉をへし折ろう!」


「とんでもない事言いやがった!」


 俺だって口には出さなかったのに!

 というかさっき〈エデン〉の一部女子からも同じようなこと言われたよ。

 押さえるのが大変だったんだよ。


 しかし、ずっと絡み続けられるのも、ちょっと迷惑だしなぁ。〈エデン〉のメンバー(主に女子)もなぜか〈天下一大星〉をはっ倒す気満々だし。

 いっそのことギルドバトルで勝って絡むのをやめさせるのは、案外良い案かもしれない。

 目標を失ったギルドが空中分解する未来も見えるが、それは仕方ないのだ。うん。


「ということで私も〈エデン〉に入れてください! ギルドバトルなら〈総力戦〉になるでしょ? 〈エデン〉のメンバーって13人じゃん。私、役に立つよ! ギルドバトルの間だけだから。ね!」


 少し考えてみる。


 ミサトが加わると〈天下一大星〉を怒らせる。

 しかし、本気の本気になり、何の言い訳もできないようにして勝つ。というのは悪くない。

 そこでミサトから「めっ」ってしてもらえば彼らはもう絡んでこられなくなるだろう。

 そういえばハンナもなぜか様付けで呼ばれていた気がする。ハンナからも「めっ」てしてもらおう。……なんでハンナは様付けされてたんだ? ……後で聞いておこう。


 それとミサトは【セージ】だ、結界と回復に特化した強力な高位職である。

 今の〈エデン〉はヒーラー不足。【セージ】は喉から手が出るほど欲しい。


 しかし、〈天下一大星〉との溝は決定的になると思われる。

 あれ? わりとどうでもいいな。


 うーむ。他にミサトを入れるデメリットか……。

 特に思いつかない?


 俺が悩んでいるとミサトがさらにメリットを上乗せした。


「私なら他の高位職仲間をエデンに加入させられるよ! 【賢者】なんてどうかな?」


「採用!」


 あ、と思ったが俺は悪くない。


 【セージ】と【賢者】、欲しいです。




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