第325話 隠れたエリートクラスが存在する。その名は8組!




 【賢者】。

 〈ダン活〉の多くの職業ジョブ群中でも【賢者】というのは異彩を誇る。


 【賢者】のもっとも変わっている点は、発現することができるその人種カテゴリーにある。

 なんと【賢者】に就けるのは「貴人」。

 貴人とは正確に言うと王族貴族、「王族」「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」「騎士爵」の意味。

 つまり王族貴族であれば誰でも就くことが可能なんだ。


 びっくりである。


 他の職業ジョブでは「王族」であれば王族専用の職業ジョブがあるし、「子爵」であれば子爵専用の職業ジョブがある。

 〈ダン活〉はそうやって人種と職業ジョブの役目を分けていた。


 しかし、中には【賢者】のようにどんな王族貴族のカテゴリーでも就くことができる職業ジョブというのがほんの少しだが存在する。


 ちなみに、名声値が低い「男爵」や「騎士爵」で【賢者】に就いた方がお得である。「王族」なら名声値は200。とても割に合わないが、「男爵」ならば名声値はたったの20だからな。

 まあ王冠やティアラを被ったキャラクターが【賢者】しているのはロマンではあるが、「王族」は1名までしかギルドに在籍できないので、すごく勿体無い。


 ではなぜこんな、どんなカテゴリーでも就くことができる職業ジョブが存在していたのかというと、上限人数のためである。


 「貴人」系のカテゴリーは名声値さえ確保すれば加入させることができる。

 しかし、その人数には上限があり、「王族」なら1人、「公爵」「侯爵」「伯爵」「子爵」「男爵」は2人、「騎士爵」は5人までと決まっている。

 故に上限が埋まってしまうカテゴリーを避け、空いている枠に【賢者】を入れるのだ。


 例えば「騎士爵」は5人に【ナイト】系を入れたいからダメ。

 「子爵」は【ヒーロー】が強いからダメ。【ヒーロー】入れたい。

 「王族」は名声値が高いからダメ。【聖女】か【英雄】入れたい。

 などの理由で省き、この「男爵」カテゴリーなら空きがあるから、この枠を使おう。そうやってカテゴリーの枠を使い分けることができるわけだ。


 しかし、当たり前だが専用職業ジョブの方が強い。

 【賢者】は、どの「貴人」カテゴリーでも就ける代わりに、その性能は高の中と若干低かった。

 まあ〈姫職〉ではないので仕方ない。男でも就けるしな。


 だが、〈育成論〉によってはその実力は素晴らしいものになる。

 ポジションは後衛オールマイティ。

 魔法アタッカー&ヒーラー&バッファー&デバッファーである。

 【聖女】がヒーラー寄りのオールマイティなら、【賢者】はアタッカー寄りのオールマイティである。強いぞ。


 ちなみに、同じ賢者の意味を持つ【セージ】は回復特化である。

 〈ダン活〉では同じ意味の職業ジョブでも、こうしてまったく違うポジションや使い方をされることがままあった。

 有名処だと【勇者】【英雄】【ヒーロー】なんかがそれにあたるな。

 開発陣から言わせれば「言葉の意味は同じでもイメージは異なる」とのことだ。

 俺も同意見である。英雄とヒーローって全然イメージ違うからな。


 おっと気がそれた。

 俺は改めてミサトの話に集中する。


「こほん。じゃあまず面接するか。ちなみどこ・・の子どもだ?」


「さっすがゼフィルス君。【賢者】だけでそこまでわかるんだ。うん、うちの部族が仕えている「伯爵」の子息なんだけどね」


 ふむ、「伯爵」か。

 それに子息ということは男子か!

 〈エデン〉には男子が少ない。

 それで絡まれているので男子の加入は嬉しい。是非歓迎したい。

 これはいよいよもって気が抜けなくなってきたな。


「学年とクラスは? できれば同級生がいいんだが」


「うん。同級生だよ。〈戦闘課1年8組〉」


 ほう。8組・・か。

 こりゃ、期待値高いかもしれないぞ。


 前にも話したが〈戦闘課〉というのは127組まである。

 そのうち〈戦闘課7組〉までと〈戦闘課8組〉以降の間には明確な差があるのだ。

 それは初期の時点のLV差である。

 〈8組〉以降のクラスの子はその全てがLV0スタートだった。

 つまり5月1日頃に〈覚職かくしょく〉した学生たちである。


 逆に言えば〈7組〉まで210人の子は5月1日までに〈覚職かくしょく〉した学生たちだ。4月中に〈覚職かくしょく〉し、LV上げを行なった者たちが〈7組〉までに在籍している。

 これがどういうことかわかるだろうか?


 つまり、〈7組〉までのクラス分けは明確な能力で分けられたわけではないんだ。

 ただスタートダッシュに成功し、LVを上げることができたからこそ〈7組〉以内に在籍できている。

 おそらく学年全員がLV0、つまり同じ条件・・・・でクラス分けされていたらもっと違う結果になっていたはずなんだ。

 サターンなんて絶対1組に在籍できなかっただろう。


 では〈8組〉は?

 ここで考えて欲しいのは〈8組〉から〈50組〉はLV0の高位職で全員成績は同じという点だ。

 では〈8組〉の学生は、なぜ8組に選ばれたのか、基準はなんだったのか?


 それは職業ジョブと学力と実技である。

 LVで測れないから、その他全てで能力の強さを測ったわけだ。


 つまりだ。5月1日に高位職に〈覚職かくしょく〉した1,290人のうち、本当の意味で成績優秀者が在籍するクラスこそ、この〈8組〉なのだ。


 みんな勘違いしているんだ。

 例年だと〈1組〉に成績優秀者が集まる。それは間違いない。

 だって例年なら入学計測で高位職になれなかった者は、ほぼ高位職になれないから。

 高位職の条件が分からない。だからこそ5月1日までにダークホースが出てくることはほとんどない。故に一ヶ月も経てば実力はLVに反映され、明確なクラス分けとして現れる。


 しかし、今年は違う。

 新しい高位職が1,290人。この集団に、本当に〈7組〉までの学生たちはまさっているのか?

 絶対そんなことはないと言い切れる。

 むしろ〈7組〉の学生がLVで追いつかれたなら、大きく転落するだろう未来がありありと見える。


 〈戦闘課1年8組〉。

 このクラスは、実は隠されたエリートクラスなんだ。




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