第318話 エクストラダンジョン夜。BBQとカレー三昧!




「ゼフィルス、夜、夜にこれ食べたいわ!」


「ん。見事な肉」


「じゃ、これも入れるか」


 時刻は夕方。

 すでに全員ボスの周回が終わりまったりとした空気が漂っていた。


 周囲の採取はかなり進みたくさんの贅沢な食材が集まっている。

 そろそろ日も暮れそうなので散策と狩りとボス周回は一旦止め、最下層の救済場所セーフティエリアに陣地を形成し、豪華な夕食にしゃれ込もうという魂胆だ。


 しかし、問題が一つあった。とても大きな問題だ。


 あまりに高級品ばかりの食材の山にどれをチョイスすればいいのかとても悩むのだ。

 そしてあまり悩みの少なそうなラナとカルアに助力を願い、今に至る。


 ラナとカルアが選び出した〈モーギュのミスジ肉〉をラインナップに加える。

 すげえ美味そうだ。ハンナの特製ダレに漬けて焼肉で食いたい。


「ゼフィルス、夕食もバーベキュー? カレー食べたい」


「知らないで選んでたのかぁ」


 カルアがそういえばという顔で聞いてきた。

 さっき説明したはずなんだけど、多分忘れちゃったんだなぁ。カルアは忘れっぽい子なのだ。

 もう一度説明しよう。


「すでに〈カレーのテツジン〉は起動済みだ。後10分もすれば美味しいカレーが食べられるぞ。今選んでいるのはBBQ用の肉だな」


「ん。素敵」


 俺の回答にカルアの目がすごく輝いている。


 実は夕食は昼と同じくBBQにしようかと思っていたのだが、なんと運良く高級カレー自動調理器〈カレーのテツジン〉がドロップしたため急遽カレーがラインナップに加わった形だ。

 やっぱこういうときってカレーが食いたくなるよな!


 作る時間がネックで、カレーは下ごしらえに時間が掛かる。

 エクストラダンジョンは利用に制限時間があるので今回は見送ろうと思っていた。


 しかし、〈カレーのテツジン〉がドロップしたなら話は変わる。

 自動調理器である〈カレーのテツジン〉は調理系の職業ジョブ持ちでなくてもバフの付くカレーを量産してくれる素敵アイテムだ。

 素材を入れておけば勝手に出来上がるため、野菜の皮むきすらいらない。

 いつの間にか皮はむかれ、手ごろな大きさにカットされ、じっくりコトコト作られたカレーが15分くらいで完成するのだ。(皮なんかがどこに消えたかは知らない)

 俺は米を用意しておけばいい。



 ちなみにゲームの時はスキップできたのだが、リアルはスキップ機能はないので普通に待った。なんかみんなといるとこういう待ち時間も楽しいな。

 食材はカレー粉も含めて〈食材と畜産ダンジョン〉でドロップするので、それを〈テツジン〉に放り込んでおいた。全て19層で手に入る高級素材ばかりだ。肉は贅沢に〈ボスモーギュ〉のビーフ肉を使用。

 後は完成を待つばかり。なんかすげぇ楽しみだ。どんだけ美味いものが出来るんだろうか?


「というわけだ」


「すごくよくわかった」


 それを告げると、カルアは珍しくキリッとした顔で頷いた。

 食いしん坊なんだよなカルアって。


「良い匂いね。食欲をそそるわ」


 ラナが漂ってきたBBQとカレーの香りに微笑む。


「こちらももうすぐ野菜に火が通ります。もう少々お待ちください」


 そう言ってトングを片手に野菜を焼いているのはエステルだ。

 バーベキューコンロは3台あり、それぞれエステル、セレスタン、シズが担当して野菜や肉を焼いている。

 また、〈ミスジ肉〉の担当はハンナだ。

 先ほど〈金箱〉からドロップした〈お肉ブラスター〉を贅沢に使い、〈ミスジ肉〉を焼き上げている。


「待ち遠しいわ。一瞬で焼けるアイテムとかないのかしら?」


「残念ながらスキップ機能はないんだ。スキルならあるけどな。とはいえ料理スキル持っているメンバーはいないから出来上がるのを待とう」


「スキップ機能って何よ?」


「こっちの話だ」


 ちなみに、一瞬で出来上がるアイテムはあるにはあるが、【調理師】系の職業ジョブ持ちが使うことが前提となっているので俺たちが持っていても使うことができなかったりする。スキップ機能はないのだ。


 とそこでボス部屋の門が開いた。

 中から今ボスに挑戦していた5人が出てくる。


「ゼフィルス、今戻ったわ。〈笛〉ありがとうね」


 代表してこちらに来たのはシエラだった。貸していた〈笛〉を受け取る。

 〈笛〉の回復は経費で落ちることになっていた。後で回復しに行こう。


 続いてルル、シェリア、パメラ、リカが現れる。

 ヒーラーがいない構成でのレアボスチャレンジだったが、上手くいったようだ。

 タンクも出来るメンバーばかりだったからな。楽勝か。


 ちなみにここのレアボスは〈ボスミノタウロス〉〈ボスオーク〉〈ボスコカトリス〉という構成で、全員が二足歩行に加え何かしらの武器や装備をしているためかなり手強い。

 レアボスなので先ほどのボスと比べ一段上のスペック、つまり一体一体が中級下位チュカクラスのボスだった。


 ユニークスキルも強力で、名称は『圧倒的1位と、2位3位争い』というなんだかよくわからない名のスキルなのだが。ボス同士の大暴れの争いに巻き込まれるととんでもないダメージを負う。

 あれは多分、己の肉について争っているものと思われる。ちなみに1位はミノタウロス(ビーフ)だ。2位と3位は争っている。たまに2体(ポークとチキン)が手を取って下剋上するがミノタウロスが勝って終わる。ビーフは永遠の1位だ! と、そんなスキルである。


 また、3体の中で〈ボスミノタウロス〉が一番強いのだが、こいつを先に倒してしまうとユニークスキルが変化し『醜い1位争い』というより強力なものになってしまう罠が仕掛けられている、気をつけろ。あれなぜか初見殺し並みに強いんだ。

 俺はゲーム時代に全滅させられたことがある。あれは悲しかった。

 エクストラダンジョンは一度全滅するとその日は入れなくなってしまうのだ。

 ああQP勿体無い。あれ絶対開発陣が仕掛けた罠だよ。


 そんなことを思い出しているとトテテテーっと走ってくる小さな影がやって来た。ルルだ。

 しかし、その横にはなぜかシェリアがルルを見つめながら併走していた。

 どんな状況?


「たくさんお肉採ってきたですよ! 褒めてくださいです!」


「もちろんです。ルルは偉いですね」


「シェリアお姉ちゃんじゃないですよ! ルルはゼフィルスお兄様に褒めてもらいたいのです!」


「そ、そんな!」


 なぜかルルに違う言われたシェリアが愕然としていた。


「シェリアは一緒に戦ったでしょう。何を言っているのですか」


 エステルにも呆れた視線を向けられている。

 最近のシェリアはルルに夢中である。最初の賢そうな印象とは逆転している気がする。

 何が彼女をそうさせてしまったのか。ルルの魅力は魔性である。


 とりあえず俺もルルを褒めよう。


「ルルありがとう。こんなに採ってきてくれて嬉しいよ。頑張ったな」


「むっふー」


 おお! ルルのドヤ顔だ。

 思わず頭もなでなでしてしまう。


「な! ルルの頭を撫でるなんて、なんて羨ましいのでしょう」


「そ、そうだな。私はシェリアの方が少し怖いが」


 シェリアがハンカチでも噛みそうな勢いで俺を見つめ、共に来ていたリカが少し引いていた。

 はて? 羨ましいとか言っているがシェリアは普段からルルの頭を撫でていた気がするのは気のせいだっただろうか?


「ゼフィルス。これ、お土産よ」


「っておお! これレアボス〈金箱〉産の〈解体大刀かいたいだいとう〉じゃん! 〈金箱〉出たの!?」


「やっぱりあなたはこれが分かるのね」


 さらっとシエラが手渡してきたのは刃渡り1mを超える刀に分類されるレアボス〈金箱〉産武器だった。

 見た目は刀というより包丁に近い。直刀なので渡すならパメラか、いやしかしリカに渡すのもいい。


「こいつは動物型モンスターに特効を持った武器なんだ。しかも動物型にトドメを刺した時、一定確率でドロップを倍にする効果も持つ。動物型っていうのは中級ダンジョンでは結構多いから使える機会は多いぜ」


「ふむ。ならば私よりパメラの方が良いだろう。私はタンク寄りだからな」


「リカ、いいのデース?」


「ああ。私にはカルアに貰ったこれがあるからな」


 リカが腰に差している〈六雷刀ろくらいとう獣封けものふうじ〉を見る。

 リカがいいと言うなら、これはパメラに進呈しよう。


「じゃ、これはパメラに貸与する」


「やったデース! あったらしい武器デース!」


 〈解体大刀かいたいだいとう〉を渡してやると、それを両手に持ってパメラがピョンピョン跳ねる。

 全身で喜びを表現しているかのようだ。


「リカもシエラもルルもシェリアもありがとうデース! 大切に使うのデース!」


 こうして〈解体大刀かいたいだいとう〉はパメラが主武器メインとして使うことになった。


 ちなみにレアボスの宝箱は2つ出る。もう1つはなんだったのかというと、巨大なフライパンハンマーの〈フライデスパンチ〉という武器だった。

 見た目は完全にネタ武器だが、性能はとんでもなく強い。

 ただ〈エデン〉にハンマー使いがいないのが残念だった。シズに装備させてみたかったが、拒否された。無念だ。フライパンで戦うメイドさんが……。

 これは料理専門ギルド〈味とバフの深みを求めて〉に売りに行こう。もしかしたらいい値段で買い取ってくれるかもしれない。


「とりあえず皆お疲れ様。そろそろ肉も焼けるから皿を持って取りに行ってくれ」


「わかったわ」


「あ、おかえりシエラ、このミスジ肉オススメよ。すごく美味しかったわ」


「もう食べてんのかよ!」


 皿に焼肉を乗せたラナが満面の笑顔で告げてきた。

 まったく油断も隙も無い王女である。

 俺も食うぞ! ハンナからミスジ肉をもらい一口…。


「美味い!」


 噛んだ瞬間あまりの柔らかさに肉が溶けた。いや蕩けるほど美味かった。

 ハンナ特製のタレがしっかり染み込んでいて、もう咀嚼する以外のことを起こせる気がしなかった。

 これが〈ダン活〉の贅沢な肉。高級な肉!

 美味すぎる!


「おお、おおお」


 ついに語彙力まで失ってしまった。素晴らしい肉だ。これはみんなにも是非食べてもらいたい! 後で〈幸猫様〉にもお供えしよう! 絶対だ!


 ああ、本当に美味しいな。

 俺、〈ダン活〉の世界に来れて本当によかった。目と口からビームを出したい気分だ。


「ほらみて、ゼフィルスがこんな反応をするのよ。是非皆食べてみて頂戴!」


「頂くわ」


「どんどん焼くね!」


 ラナが俺を指差して肉を勧め、シエラがまず受け取った。

 ハンナも気合を入れて焼いていく。


 こうしてエクストラダンジョン、〈食材と畜産ダンジョン〉での楽しい一時は瞬く間にすぎていったのだった。




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