第317話 金箱回! 〈幸猫様〉の恩恵が光る!




「〈金箱〉が出たのです!」


 ルルの声がボス部屋に響いた。


 最後の1体、〈ボスモーギュ〉が倒されると、その場に大量の食材と一つの宝箱が鎮座していた。


 宝箱は、キラッキラに耀く金色、見間違いようも無い、アレは〈金箱〉だ!


「2個あるのデース!」


 パメラからの指さし報告にギュインと音が鳴る勢いで首を捻り向く。


「おおお!!」


 2体目に倒した〈ボスプビィ〉の消えた辺りに2つ目の〈金箱〉が鎮座していた。

 思わず感動の震え声が口から漏れる。


 瞬間俺の脳細胞が閃きを放った。

 〈ボスモーギュ〉後に1個、〈ボスプビィ〉後に1個、〈金箱〉がドロップしている。

 ならば! ならばならば!

 まさかと思い1体目に消えた〈ボスコッコ〉の場所にも目を向ける、この期待は大きい!


 しかしそこには何も無かった。


「知ってた!」


 俺の脳細胞は空回りしただけだった。


 通常ボスの〈金箱〉は最大2つ。

 これ〈ダン活〉プレイヤーの常識。

 3つ目の宝箱は無いのだ。

 知っていたはずなのに何故か悲しくなった。


「ルル、この宝箱さん凄く開けたいのです! ゼフィルスお兄様、開けても良いですか?」


「がはっ!?」


「ゼフィルスお兄様?」


「ルル、気にしなくていいのです。ゼフィルス殿は敗北したのですよ」


「??」


 ルルの言葉に心臓を打ち抜かれたポーズを取る俺。危うく「うん。いいよ」と言ってしまいそうになった。ルルのお兄様呼びが油断した俺のハートを撃ち抜きに来るのです。


 そんな俺を見て、分かります分かりますと言うように頷くのはシェリアだった。

 ルルは俺とシェリアを見て首を傾げている。なんて可愛いポーズだろう。

 シェリアの顔面がややゆるんで見えるのは気のせいだろうか? 多分気のせいではないだろう。

 俺も緩んでそうだ。シエラがこの場に居れば溜め息を吐かれてしまうかもしれない。気を引き締めなければ。


「こほん。では改めて、宝箱を誰が開けるのか決めようではないか!」


 気を引き締めすぎて偉そうな口ぶりになってしまった。

 まあいい。


 今回、〈金箱〉が2個。〈金箱〉が2個もドロップした。


 実はエクストラダンジョンはQPを多く支払う必要があるためか〈金箱〉のドロップ率が通常ダンジョンよりも高い。

 大体5%くらいの確率で〈金箱〉をドロップするのだ。

 ここに〈幸猫様〉の恩恵が加わればもっと確率は上昇する。

 素晴らしい。素晴らしいよ! ふはは!


 おかげでたったの3周で〈金箱〉がドロップだ! しかも倍率ドンである。

 俺たちには〈幸猫様〉が付いてる! 中身もきっと良い物が入っているに違いない!


 さて、問題は誰が開けるかである。


「「「はい!」」」


 三つの手が挙がる。


 希望者は3人のようだ。


 1人目はルル。小さなお手々を一生懸命挙げてアピールしている。

 もうこれだけで決めてしまっても良いんじゃないのかと俺の脳がささやくんだ。

 いや待て、焦るな俺よ。まだ決める時間では無い。

 そう自分に言い聞かせてなんとか落ち着く。


 2人目はパメラ。まったくしのぶ気が無いピンク色の装備を見る。なんかこの装備を見る度に「女忍者!」と少し興奮する。なんで忍者装備ってこう、テンションが上がるんだろうな? 普通の装備とは違う魅力があるぜ。

 手を挙げるパメラ。その目はとっても耀かがやいていた。今回パメラが凄く成長しているのを見させてもらった。一ヶ月前とは雲泥の差だった。頑張ったで賞を送りたいくらいだ。


 3人目はシェリア。その視線はガッチリルルをロックオンしている。

 宝箱じゃないんだ、と一瞬思った。

 シェリアはルル大好き。〈金箱〉を開けられるか開けられないかの瀬戸際なのにルルの方が一番らしい。逆にすがすがしいな。


 ちなみに4人目に俺もいるぞ。俺も開けたい。


「リカはいいのか?」


「2周目の〈銀箱〉を開けさせてもらったからな。今回は辞退しよう」


 確認するとリカは辞退を告げて大量に散らばる食材ドロップを集め始めた。

 〈金箱〉イベントが終わればすぐに戻れるようにとリカの配慮だろう。

 次はラナたちだ。早く後続にこの部屋を明け渡さないと俺が怒られてしまう。

 あまり時間は無い。


 ちなみに1周目の宝箱は〈木箱〉で開けたのはルルだ。

 ドロップは〈料理器具3点セット〉。

 次にリカが開けた〈銀箱〉からは〈熟成箱〉というお肉などを熟成させるアイテムが入っていた。

 ここ〈食材と畜産ダンジョン〉では調理系のドロップが中心なんだ。

 もちろん武器などもドロップするぞ。


「さて、早速決めてしまいたいが」


「ゼフィルス殿、私はルルと一緒に開けたいのですが、よろしいでしょうか?」


 今回はどうやって決めるかと思っていた所にシェリアから共同作業の提案が届く。


「ルルもシェリアお姉ちゃんと一緒に開けたいのです!」


「許可しよう」


 即行で許可した。

 なんか前にもこんなことあった気がする。

 仲の良い2人で一緒に宝箱を開けるのだ。

 共同作業が〈エデン〉では流行っているのだろうか?


 いや、なんにしてもすぐに決まるのは良いことだ。

 これで残る1箱はパメラか俺になるわけで。

 と、思っていたのだが、猛烈なハプニングが起こった。


「では残りの1個は私が開けるデース! この宝箱はもらいマース!」


「あっれぇっ!? ちょっと待てパメラ!?」


 気がついたらいつの間にか〈金箱〉の一つを確保していたパメラが蓋に手を当てていた。

 宝箱を開ける1秒前というやつだ。


「じゃーん!」


「ああああ!!」


 1秒後、宝箱を開けるパメラ、崩れ落ちる俺。


「こ、これはお宝デース! 高級カレー自動調理器の〈カレーのテツジン〉デース! カルアがすごく欲しがっていたやつデース!」


 パメラが宝箱に入っていたアイテムを見てはしゃいでいたが、俺は茫然自失だった。

 なぜ、何故開けたしパメラー!


 後で知ったことだが、これは俺が手を挙げていなかったのが原因らしい。

 そういえば、手を挙げるのを忘れていた。

 ま、まさか。こ、こんなことがー!


 〈金箱〉回は苦い思いで終わった。


 ちなみにルルとシェリアが共同作業で開けた〈金箱〉からは〈お肉ブラスター〉というフライパンがドロップしていた。

 火が無くても焼き料理ができるうえに、お肉系の食材の味とバフと品質を上昇させ、ついでに何故か個数も増加する素敵アイテムだ。

 このフライパンで作った料理アイテムは通常3個手に入るところ、何故か5個入手出来たりする。

 超ありがたい!


 これ、ひょっとして〈幸猫様〉に催促されている?

 いや、きっと気のせいだろう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る