第310話 お肉を手に入れたのだがカルアの様子がおかしい




「わあ! ねえねえゼフィルス! あれは何かしら」


「あれは畑だ。採取エリアだな。生えてるのは麦と、きゅうり?」


「へぇ、きゅうりはそのままだけど麦は全然形が違うのね」


 ラナが指差す畑を答えると、シエラが妙な感想を言う。

 おそらくドロップ品と比べていると思われる。

 採取したらなぜか加工済みになるからな。きゅうりはそのままだが。というかなぜこの2つのチョイス? 時期が違くない?

 しかし、たとえ時期が違くても、365日採取できるのがダンジョンである。素晴らしい。


 現在馬車2台で進みつつ、俺は先頭を走るエステルの横に座って途中でちょこちょこ現れる採取ポイントの説明役をしていた。

 またエステルに指示を出し、最短ルートで最奥まで向かう。

 途中の採取ポイントにメンバーが目移りしそうになっているが、「最奥のほうが美味い」「ここで時間を消費しては最奥にたどりつけないぞ」と言って何とかなだめた。


「目の前に食べ物がたくさんあるのに、食べれない……」


「カルア、今は腹をすかせておくんだ。きっとお昼は美味しい料理が待ってる」


「うん。がんばる……」


 そんな会話が聞こえ車内を見てみると、長い尻尾と耳をへんにゃりさせたカルアをリカが抱きしめながら励ましていた。

 優しく頭を撫でるリカはまるで聖母のようだ。表情はかなり緩くなっているが……、可愛い者を愛でているとリカはこうなる。


 そうこうしているうちにやっと下層にたどり着いた。11層だ。


 やはり馬車だと速いな。障害物なども特に無かったので2時間弱でここまで来てしまった。モンスターもほんの少し出たが、エステルの前に飛び出したやつは全て光に還った。


「よし。エステル、その広場に停めてくれ」


「了解しました」


 11層の中間地点辺りにあったやや広めの広場、そこに停車する。


 今日の予定ではまずこの辺りで休憩と探索を挟む。

 目指すは最下層ではあるが、ずっと馬車で移動ではつまらないからな。


 それに下層に入れば食材もかなり良い品質な物が採れる。

 そこら辺では売っていない、売っていてもお値段見てパスする類いのお高い食材たちが採れるのだ。

 というわけで、午前の部はここを到達ポイントとして採取を楽しみつつ、採った物で昼食を食べよう! という計画だった。


「よーし、各自好きなように食材を集めてきてくれ。バッグに入りきらなくなったら戻ってくるように。馬車の『空間収納倉庫アイテムボックス』はかなり容量があるからそっちに素材を移してほしい。今日のお昼はみんなが集めてきてくれた食材で作るから、各自全力で励むように、皆に貸し出した採取用アイテムは持ったな? よし、では解散!」


「「「わー」」」


 俺が手早く注意事項を述べて宣言すると、メンバーの多くは我先にと採取畑エリアポイントへと駆け出していった。先頭はラナとハンナ、そしてルルだ。

 今まで我慢させて悪かったな、と思いつつそれを見送った。


「ゼフィルスは行かないの?」


 と、後ろから声を掛けられたので振り向く。


「シエラか。いや、俺は別のものを狙おうと思ってな」


「別のものって?」


「肉だ」


 このまま採取ポイントで集めたら野菜オンリーのヘルシーなお昼になってしまう。

 それはそれで女子には好評かもしれないが、やはりガッツリしたものが食べたい。

 まだ体は16歳だからな。

 わりと腹が減るんだこの体。


「なるほどね。付いて行っていいかしら?」


「もちろん構わないぞ。むしろ人手が多くて助かる」


「あの、わたくしもご一緒してもよろしいでしょうか?」


「ん、一緒に行きたい」


「ん?」


 後ろに振り向くと小さく手を挙げたリーナとカルアが居た。

 あれ? 今畑に向かって行ったのを見たのだが…。もしかしたらスキルを使ったのか?

 【姫軍師】は色々と把握する能力に長けているので俺とシエラが別の場所に行くことを素早く察知したのかもしれない。

 カルアは、なんだろう? 肉に反応したのか?

 こんなところで有能さを発揮しなくても……。(有能とは?)

 まあいいか。


「俺は構わないぞ」


「私もいいわ。早く行きましょう。このままだと大所帯になるわよ」


「だな。リーナ、カルア、行こう」


「はい!」


「ん」


 ということで俺、シエラ、リーナ、カルアは畑エリアから少し離れ、畜産エリアへとやってきた。

 畜産エリアはだだっ広い草原のような場所で、ここでは様々な動物や家畜が生息している。主に牛乳、お肉、卵、チーズなどの食材が手に入るのだ。しかし、


「あ、家畜がゴブリンに襲われてますの!」


「大変、すぐに助ける。ユニークスキル『ナンバーワン・ソニックスター』!」


「ゴビュー!?」


 俺たちが到着したとき、数匹のゴブリンが牛を襲っている光景に出くわした。

 モンスター同士は基本的に共闘することが多いが、動物は基本的にモンスターに襲われるのだ。なぜかは知らない。

 〈食材と畜産ダンジョン〉では、ゴブリンがそこそこな数徘徊している。

 所謂いわゆるお邪魔モンスターだが、たまに跡をつけてみると思わぬレア食材にたどり着けることもあるので倒すかの判断が難しい。

 しかし、とりあえず家畜を襲っているゴブリンは倒して良しだ。


 ユニークスキルを発動した瞬間、カルアが一瞬で消え、直後に断末魔の叫びが聞こえて消えた。


「ん、終わった」


「一瞬でしたわね。さすが〈エデン〉いちのスピードマスター。わたくしが出る暇がありませんでしたわ」


 何がそうさせるのか、いつもより本気度マシマシでカルアが飛び出して行ったかと思うとほとんど一瞬のうちにゴブリンは光に還っていた。文字通りの瞬殺だ。


「ゴブリンは敵。気がついたら増えていて、畑は荒らすし家畜は襲うし女の子にイタズラするし男の子には蹴りを入れてくる。団ではゴブリンは見つけたら狩れと教わった」


 珍しく饒舌なカルア。

 今の光景はカルアのかんに触れたらしい。

 リーナがなにやら熱心にカルアの言うことをメモっているのが気になる。


 そんな光景を尻目にシエラが尋ねてきた。


「邪魔者は消えたわ。それでゼフィルスお肉はどうやって手に入れるの?」


「え、普通にこうやって、『ソニックソード』!」


「モー!?」


 俺は近くに来た、助かった~とばかりに油断して近寄ってきた牛を斬った。

 一瞬でエフェクトに還った牛の跡には生肉が鎮座していたのであった。


「ダンジョンに登場する動物は倒せば肉や牛乳や卵をドロップするんだ」


「あ、あ、あ、牛さんが……」


 カルアが生肉を見つめて呆然としていた。どうしたのだろうか?


 しかし、シエラとリーナはあっさりと頷く。


「なるほど、倒せばいいのね」


「ちょっと可哀想ではありますが、お肉のためですもの、仕方ありませんわ」


「牛さん……」


「ちなみに倒し方によって変わった物がドロップすることもある。こうやって『属性剣・火』! せいっ!」


「モー!?」


「牛さん!?」


 俺は火属性にした〈天空の剣〉を使って近くに居た牛を再び斬った。

 カルアが珍しく悲痛な声を上げた気がしたがきっと気のせいに違いない。


 そしてエフェクトの跡に残っていたのは、〈上手に焼けたビーフステーキ〉という料理アイテムだった。


「牛は火属性で倒すとこうしてステーキになる。鶏なら〈目玉焼き〉がドロップしたりするから色々試してみるといいぞ」


「牛さん……」


 びっくりではあるがこれが〈ダン活〉の食糧事情の実態である。


 カルアの目が〈上手に焼けたビーフステーキ〉に釘付けだったのが妙に気になった。




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