第308話 許してくださいシエラ様。有用性を語れ!





 シエラから特大のジト目とアウト宣言をもらった俺は必死に〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉有用性を語った。

 何しろレアボス〈金箱〉産である。

 しかも〈装備強化玉〉を使わなくても十分上級下位ジョーカーで通用するレベルの強装備だ。

 有用性はいくらでもある。

 そして、なぜギルドのミールで購入を決めたのかも語っていった。


「俺はこれをギルドで役立てたいんだよ。貸与品としてな。〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉は雷属性に非常に強い。つまり雷属性系のダンジョンに行くときに使うのが目的の装備だ」


 別に普段使づかいにしてもいい装備品ではあるんだが、それはともかくだ。

 上級ダンジョンに行くと対策防具なるものが必要になってくる。

 環境対策、属性対策、状態異常対策、その他もろもろだ。


 そんな対策装備をはたして全員が自腹で買う必要ってあるのか?

 現在〈エデン〉では「基本的に自分で使う装備は自腹で購入すること」というルールがある。


 しかしである、5着だけ作ってギルドで使い回すほうが懐に優しいじゃん。

 というのがRPGの考え方である。

 まあ、そんなわけで。


「この〈雷光の衣鎧ころもよろいシリーズ〉はギルドの共有財産にしたい。必要なときに誰でも使うことのできる貸与品としたいんだ。もちろんタダでとは言わない。レンタル料はきちんとギルドに支払う形でな」


 マリー先輩だって〈幼若竜〉をギルドの共有財産として使っていた。

 そして使用料をお客さんからもらってギルドに入れていたんだ。

 なら装備品でも同じようなことをしてもいいだろう。

 サイズの問題はあるが、それも〈ワッペンシールステッカー〉に任せれば問題ない。


 今回、ゲーム時代のクセで思わずはっちゃけて衝動買いしてしまった感は否めないが、自分の装備とは別にギルドメンバーに貸与できる装備というのは作っておいた方がいいと前々から思っていたんだ。


 と、シエラに熱心に説明した。


「理解したわ」


「ふう。分かってくれたか」


 シエラの言葉に俺は安堵のため息を吐きながら汗を拭う仕草をする。

 しかし、ジト目は終わらなかった。

 シエラの口から判決が下される。


「でもはっちゃけた分は別よ。事前の連絡不足で減点、ギルドマスターなのだからうやむやするのもダメよ。貸し1つが妥当かしら」


「オゥ……、〈笛〉の貸し出しでチャラって事には……」


「何か言ったかしら?」


「なんでもないです……」


 ギルドのミールで衝動買いしてごめんなさい。

 シエラの静かな微笑みが恐ろしい。

 しかし、有用性は認めてくれたと思うのでそこまで大変な事は言われないだろう、と信じたい。


 うん。切り替えていこう。


 その後色々と昨日の件について情報交換を済ませて朝のミーティングを行う。


「シエラたちのパーティは〈学園長クエスト〉達成分の素材を、無事確保できたそうだ」


「「「おー」」」


 先ほどシエラに聞いた話を皆に伝えると、小さい歓声と共に疎らに拍手が鳴り響いた。

 昨日〈陰陽次太郎〉を狩りに行ったシエラ、ハンナ、ルル、シェリア、パメラのパーティは、貸し出した〈笛〉8個を使いレアボスを呼び出すことに成功。32回中19回というちょっと悪い出現率だったものの無事〈最高級からくり馬車〉の素材が集まったとのことだった。


 〈最高級からくり馬車〉を作るにはレアボス素材が40個ほどあればいいのだが、せっかくの機会だったので大量獲得してきてもらった形だ。

 19回レアボス撃破、レアボス素材数は190個確保できた。残りの素材はまだ使えそうなので取っておこうかな。フフフ。


「素材はガントさんだっけ、あの職人さんに渡しておいたよ。月末までには間違いなく完成しているって言ってた」


 ハンナが手を挙げて言う。これで後は納品されるのを待つばかりだ。


「〈笛〉についてはシェリアに任せたのだけど」


「はい。朝一番で貰ってきました。ゼフィルス殿、お返しいたします」


「おう、確かに」


 シエラは報告書やなんやらを担当し、貸した〈笛〉はシェリアが担当で爆死ギルド……こほん、〈私と一緒に爆師しよう〉ギルドに持って行ったようだ。

 しかし、〈笛〉回復に使う素材が足りなくなったとのことで、今日の朝納品になったのだそうだ。


 朝シェリアがルルと分かれていたのは〈笛〉を取りに行っていたかららしい。

 しっかり残り回数が5回になっている〈笛〉6本を確認して受け取った。学園から貸与された2本はセレスタンに任せておく。


 それから俺とラナの報告も済ませ、いよいよ今日の話題に移った。


「待ちに待ったエクストラダンジョンの日だ! 今日はこれからエクストラダンジョンへ入ダンし、夕方まで狩って採って採りまくる! 何か意見のある者は挙手を!」


 しかし、誰も手を挙げる者は居なかった。


 とはならず、シエラやシズから手が挙がる。


「エクストラダンジョンのQPについてよ、あと入ダン手続きは済ませているの?」


 なるほどと納得する。

 エクストラダンジョンは資源の宝庫、特に人類を支える非常に重要なダンジョンなため入ダンするには許可がいる。

 ちゃんと許可が取れていないと、当り前だが入れない。

 シエラはそこを確認しておきたかったようだ。


「その話か。セレスタン、頼む」


 その辺は全てセレスタンが済ませておいてくれたはずなので、話を引き継ぐ。


「かしこまりました。入ダン手続きは先週のうちに済ませておきました。本日1日間〈食材と畜産ダンジョン〉の入ダンが可能となっております。また、これに使用したQPは1万QPとなります」


「1万QP…、いいお値段ね…」


 セレスタンの言葉を聞いてシエラが思わずといった様子で呟いた。


 QPのレートは1QP=1000ミールだ。

 1万QPなら1000万ミールである。

 確かにちょっと値が張るかもしれない。

 しかし、美味しい物には抗えない。


 またEランクギルドのクエスト達成報酬の平均は1500QP程度だ。1万QP貯めるのは相当骨である。


 しかし、Dランクであれば達成報酬の平均は1万QPである。

 Dランク級クエストの報酬がエクストラダンジョン1日利用権だと思えばそれほど悪くは無い。

 それに見合うだけの報酬がエクストラダンジョンにはあるのだ。

 主に食材だが。食材大好き! ハンナのご飯大好き!


 ふう。少し落ち着こう。もう1人手を挙げている方へと向き直る。


「シズはどんなことだ?」


「はい、エクストラダンジョンは基本的にモンスターが出にくいということですが、出ないわけではない、ということですよね? どれほどの強さかと思いまして」


「ああ。強くても初級中位ショッチュー上層並の弱いモンスターしか出現しないから安心してくれ。万が一襲われても、まあ間違いなく撃破可能だと思うから」


「なるほど。了解いたしました」


「よし、他になければこれでミーティングは終了。出発しよう」


「「おおー!」」


 俺の掛け声にあわせてルルとカルアが拳を空中に突き上げた。


 〈エデン〉のメンバー全員でエクストラダンジョン地区まで向かう。




「なんか、圧巻ね」


 途中、俺の横にいたラナが感慨深そうに言い、エステルが頷く。


「ギルド全体として動くのは初の試みですからね。最初と比べると、ずいぶんと大所帯になってきました」


「だな。もう13人だしな」


 俺も改めて〈エデン〉のメンバーを見る。

 毎回パーティ単位で動いていたが、今日はギルド単位で動く団体行動だ。

 エステルの言うとおり、何気に初めてである。

 なんかテンション上がるなぁ。


「あ、見えてきたぞ。アレが〈エクストラダンジョン門・特伝〉通称:〈エクダン〉だ」


 俺の声に全員の視線が建物を見る。

 そこには緑色の屋根をした、〈初ダン〉や〈中下ダン〉と同じ規格の建物があった。

 しかし、その大きさはざっと5倍は大きい。


 中に入ると、まるでそこは市場だ。

 一部では競りが行われていて、厳つい顔の大人たちが様々な食材を競り落としている姿がある。


 そこは、食糧事情の中枢の一つ。

 全ての資源がダンジョンから手に入るこの世界にて、最も重要な施設である。



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