第306話 〈救護委員会〉、馬車と同じ匂いがするマッスル
「やあ優秀な後輩。君も〈バトルウルフ〉狩りかい? 他のメンバーはいないのかい?」
「こんにちは。失礼ですがどちら様で?」
「あははは! いや、これは失礼した。わたしたちゃ〈救護委員会〉の者さ。ほれ、これがエンブレムな」
なんと。遠くにいた方々はパーティが全滅した時なんかに地上に送り届けてくれる〈救護委員会〉の面々だったらしい。
よく見たら〈救護委員会〉のエンブレムの付いた腕章を着けている。
ゲーム〈ダン活〉時代ではよくお世話になりました!
〈救護委員会〉とはエリート中のエリート。学生だけに留まらず、各地から非常に優秀な人材が集められ組織された、学園公認のギルドである。ちなみに〈救護委員会〉はギルドランク外という特殊な位置づけだ。
HPが全損し、非常に危険な状態の学生を怪我一つ無くダンジョンから脱出させるスペシャリスト達である。
しかし、そんな人たちがどうしてここへ?
「なぜ、こんな所に〈救護委員会〉がいるのかって顔してるね」
おっと、顔に出ていたらしい。
「それはね、アレのためさ」
特に気にした様子も無く、リーダー風の彼女がボス部屋の門を指さすと、突如門が開き、挑戦していた1年生と思われる人たちががぺってされるように吐き出されてきた。
瞬間、〈救護委員会〉のメンバー達が雄叫びを上げて立ち上がる。
「うおー! 全滅者が出たぞ!」
「無事に連れて帰るぞ! 怪我一つ負わせるんじゃねぇ!」
「まったく全滅してしまうなんて情けないわね。大丈夫、ちゃんと地上に送り届けて上げるから」
「マッスル救助! マッスル救助! 筋肉が唸る。唸りを上げる!」
「あんたたちもう少し静かにやりな!」
リーダーを除いた4人が素早く全滅者の1年生に駆け寄ったかと思うと、これまた素早くいくつかのアイテムを使い救助を始めた。
その姿は圧巻で、とても手際が良かった。ちょっと無駄に迫力に溢れていたが。
たった10秒ほどで仕度を終え、その中でも筋肉がこぼれそうなマッチョマンが全員を抱えて素早く地上に向けて走り去っていった。
あの筋肉さんやべぇな。多分【筋肉戦士】の上級職、【鋼鉄筋戦士】だぞ。裸族だ。スキルも使わず、荷物を持つかのように全員抱えて行っちまった。
「行ってしまったわ…」
リーナも今の光景に呆然としていた。
あの筋肉からはうちの〈サンダージャベリン号〉と同じ迫力を感じた。道中のモンスターはきっとあの筋肉に轢かれて光に還るのだろう。
「騒がしくしちまったね。つまり、ここのボスでやられた学生を
なるほど。
ゲーム時代には無かった設定だ。
ゲームでは〈救護委員会〉は全員が地上にいて、〈救難報告〉が出るとどこからともなく現れて地上に連れていってくれる部隊だった。
このように出待ちというか、救助待ちで
これもリアルならでは、ということなんだろうな。
また、こうして
「
「大変ですね」
「お疲れ様ですわ」
「ありがとよ。んで、優秀な後輩君。君たちはたった2人でここをクリアするつもりなのかい? 正直言って〈バトルウルフ〉はかなり強い。5人で挑んだ方がいいよ」
いい人なのだろう。その忠告をするために長々と話しかけてきてくれたようだ。
だが、〈バトルウルフ〉は余裕なんだ。心配ご無用である。
「ご忠告ありがとございます。でも安心してください。俺はこれですから」
そう言って胸の攻略者の証を見せる。
するとリーネシアさんが目を見開いて驚いた。
「〈ジュラパ〉と〈六森〉の攻略者の証!? え? 本当かい?」
「証は嘘をつけませんよ。譲渡すると消滅してしまいますからね」
「は~。今年の1年生は質が高いとは聞くけどね。正直ここだってこの時期に到達するのは早いペースだってのに、もう
「ふふ、ゼフィルスさんですから」
「はは、信用されてるんだね色男。わかったよ、呼び止めて悪かったね。今後も頑張りなよ」
「ありがとうございます。頑張りますよ」
「今後お世話になることもあるかと思いますが、その時はよろしくお願いいたしますわ」
「あいよ。お嬢さんもがんばりなよ。色々とな」
そう言うとリーネシアさんは踵を返し、手をヒラヒラさせて戻っていった。
リーナがなぜか頬に手を当てて困ったような、でも嬉しそうな顔をしているのが印象的だった。
その後、リーネシアさんと話している間に俺たちの番が来たので〈バトルウルフ〉戦に突入し、少しだけ連携のおさらいをしてから屠って帰還したのだった。
ちなみに俺の教え子たちは普通に一発突破していた。攻略法教えてないのに。
優秀すぎる!
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