第305話 リーナの新【姫軍師】装備! 連携も学ぶ!




「おお、リーナその装備すごく似合ってるな」


「ありがとうございます! やっと家から後衛向けの装備が届きましたの。ゼフィルスさんに一番にみせたかったのですわ」


 そう言って一周くるりと回るリーナ。ラベンダー色の縦ロールもふわりと持ち上がり、とても浮かれているのが分かる。


 リーナは以前【大尉】の職業ジョブに就いてしまったために前衛向けの装備を付けていたのだが、〈転職〉で【姫軍師】になったことにより後衛向けの装備をご実家に催促していた。

 それがつい先日届いたらしい。

 今日が初披露だそうだ。リーナの頬が高揚しているのは興奮のせいだろうか?


 さて解説しよう。


 リーナの装備は、とても一言で言い表すことはできない。

 ゲーム特有の煌びやかな白を基調とした女将軍風の〈姫職装備一式〉。

 白色でツバが無いベレー帽系の装備を頭に乗せ、白と金を基調とした身体のラインが出る服に、胸甲きょうこうを装備している。

 スカートは青で短いが、足装備のグリーブが足から腿までをカバーしていた。こちらも白を基調としている。

 他にもいくつも小さなパーツが付いており、一目で美しくも存在感のある装備だと思わせた。


 武器も届いたようで、これもその存在感はすさまじい。

 前に使っていた間に合わせ装備とは似ても似つかない大きさ。リーナの背ほどあり、大砲というよりはビームが出そうな機械の大型砲といった感じの装備である。ショルダーベルトで腰に構えて撃つタイプのやつだ。


 開発陣はたとえ初期装備だとしても手は抜かない。

 見事というほかない素晴らしい見た目の装備である。


 正直に言う。リーナがすごくカッコイイです!


「これは使うの楽しいだろうな」


「わたくしも、早く装備の性能を確かめてみたいですわ!」


「よっし、じゃあ早速挑むとしようか!」


 リーナの装備を回収するために一度貴族舎に戻っていたが、やっと出発だ!

 目指すは〈小狼の浅森ダンジョン〉、〈ウルフ〉の出るダンジョンである。




「『爆発魔砲』ですわ!」


 リーナの魔砲から飛び出す砲撃、それが着弾した瞬間、着弾地点を中心に爆発が起きた。


「ウォン!?」


 直撃を避けたと思われた〈ウルフ〉が爆風に呑まれてエフェクトに還ってしまった。

 あれを避けきるのは難しいだろうな。南無である。


「よっし、次行ってみよう! 今度は〈リーダーウルフ〉の動きをよく見てほしい」


「分かりましたわ!」


 リーナの育成はかなり順調に進んでいる。

 今回はボス周回はせず、基本的に連携や統率など集団を運用する方法について実地で学ぶことがメインだったが。


「よし、次の敵を発見した。今回リーナは攻撃せず、敵の動きをよく観察しておいてくれ、『アピール』!」


「はい!」


「ただバフを掛けるだけでは勝てるものも勝てない。連携の基本は囮と奇襲だ。1人が狙われている隙にもう1人が攻撃する。これが基本形だな。〈リーダーウルフ〉に引き連れられた〈ウルフ〉の動きをよく見てくれ」


「はい!」


「連携は数の有利を活かすのが基本的な考え方だ。たとえ2対2の戦いでもどうにかして2対1の状況を作り出すのが指揮官の仕事、腕の見せ所だな」


「はい!」


 〈小狼の浅森ダンジョン〉の下層で〈リーダーウルフ〉に率いられた〈ウルフ〉2体と戦闘しながらリーナに指導していく。

 俺が『アピール』でタゲを受け持ち、高LVに任せたタンクで〈ウルフ〉たちの攻撃を受けている。先ほどから何度か齧られているが別に翻弄されているわけではない。俺だってプレイヤースキルは上昇してきている。これくらい受け持てる、はずだ。

 あ、また囓られた。


 ふう。今回ここに来たのはこの〈ウルフ〉たちの動きをリーナによく観察してもらいたかったからだ。

 この〈小狼の浅森ダンジョン〉の『統率』による連携はかなり手強い。

 連携させると手間なのでまず指揮官たる〈リーダーウルフ〉から屠るか、分断工作をするのがセオリーである。

 逆に言えば、そうやって連携を崩さなければいけないほど、〈ウルフ〉たちの連携は上手く、参考になるということだな。


 リーナも実家で様々な戦術、戦略を学んで来たようだがほとんどが座学だったようで、実際に見た事はほぼ皆無とのことだ。まあ、生身は危険だしな。

 故に、実戦で連携を学ばせている。


 先ほどまで爆撃しまくっていた時とは打って変わり、〈ウルフ〉たちを食い入るように見つめるリーナ。時折メモを取るリーナを背中に感じながら、しばらく〈ウルフ〉たちと遊んだ。

 おかげで俺も連携された時の対処法タンクが掴めてきた気がする。きっと気のせいではないはずだ。


 ただ連携を観察するだけではつまらないので、リーナの武器の試運転がてら時々無双して気分転換しつつ先へ進んでいったのだった。




 15時を過ぎたところで最下層まで到達したので今日はここまでとなった。

 最後にボスの方にお邪魔すると、数組のパーティが救済場所セーフティエリアで順番待ちをしていたのは驚いた。

 〈戦闘課1年1組同じクラス〉の女子も3人ほどいた、確か俺の授業に出てくれている子たちだ。彼女たちもこちらに気がついた様子で手を振ってきたので少し挨拶を交わす。


「ハロー、ゼフィルス君!」


「よう、昨日ぶり。3人はこれから〈バトルウルフ〉か? ずいぶん早いなぁ」


「そそ。ゼフィルス先生の授業のおかげで私たちもノリに乗ってるからね! 今日は思い切って〈バトルウルフ〉に挑んじゃおーってチャレンジするところ!」


「ゼフィルス先生には感謝感謝だよ~」


 ゼフィルス先生、とても良い響きです。

 見れば他にも女子2人が仲間にいるようだ、この子たちも見た事がある、俺の授業で。


 なんと驚いたことに、彼女たちは俺の授業参加者で組まれたパーティだった。これから初の〈バトルウルフ〉戦に挑むとのことだ。

 皆1年生なのに、あの『統率』の〈リーダーウルフ〉をもう突破してきたのか。

 この子たち優秀だぞ。


 よし、5人は〈エデン〉メンバー候補として名前を控えておこう。

 クラスメイトはさすがに知っていたので、残りの2人、「狸人」の子と「男爵」のカテゴリー持ちの子の名前も聞いておく。


「よければ君たちの名前も聞かせてもらっても良いか?」


「こここ光栄です! うち〈戦闘課1年8組〉のラクリッテって言いますです! よろしくお願いしますです!!」


「もう、ラクリッテちゃん緊張しすぎだよ~。私はノエルって言いますよ。同じく〈戦闘課1年8組〉、覚えてくださると嬉しいです」


「おう。ラクリッテとノエル、しっかり覚えたぜ」


 声を掛けるとなぜか直立不動で緊張しまくりの女子が「狸人」のラクリッテ。

 逆に冷静でゆったりとした独特の雰囲気を持っているのが「男爵」のノエル。

 しっかりと心のメモ帳に記入した。


 その後いくつか言葉を交わして最後に頑張ってと応援して別れ、俺とリーナも最後尾へと並ぶ。


「ずいぶん話が弾んでいるようでしたわね」


「あっとすまん。教え子たちだったんだ。蔑ろにしてごめんな?」


「もう。仕方ありませんわね。今度はわたくしのこと忘れないでくださいよ」


 ほったらかしにしてしまいリーナが少し拗ねてしまう場面もあったが、なんとか謝って許して貰えた。

 ここでこの時期に1年生がボスの順番待ちしているとか結構凄いことなので、つい興味が勝ってしまったんだ。

 おかげで優秀そうな子をチェックできたが、次からは気をつけよう。


「ん?」


 改めて周りを見渡すと、今度はまた異質な集団がいるのに気がついた。

 明らかに初級装備ではないパーティがいたのだ。

 全員が上級生、3年か? いやもしかしたら卒業生なのかもしれない。

 ボスの列に並びもせず、少し遠くに固まっている。


 しかもそのうちのリーダーっぽい女性と目が合うと気安い感じで話しかけてきた。




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