第300話 特別回? 〈天下一大星〉と〈マッチョーズ〉
「ぐぐぐ、ゼフィルスめ。我にだけこんな仕打ちを……」
いつも通りゼフィルスにしごかれまくったサターンたち4人、
とあるギルドバトル大敗北とちょっとした行き違いが原因で、先週の2倍~3倍の訓練メニューをこなすことになってしまっていた。筋肉が至る所で悲鳴を上げている。
しかし、その結果は悪くはなく、サターンたちの実力は目に見えて向上していた。訓練によりLVも上がっている。
ゼフィルスの特別訓練メニューは確実にサターンたちの力になっていた。
故に逃げ出すこともできない。
仮に逃げ出したらミサトを引き抜かれてしまう、とサターンたちは思っていた。
すでにゼフィルスがミサトを引き抜こうとしていることを、サターンたちはまだ知らない。
若干足取り怪しく帰路についていた4人だったが、そこへある一団が声を掛けてきた。
「よう〈天下一大星〉」
「貴様らは、〈マッチョーズ〉か!」
現れたのは〈戦闘課1年1組〉の同級生で在り、また1年生最強のギルドの一角と言われている【筋肉戦士】だけで構成されたギルド、〈マッチョーズ〉だった。
突然の登場にサターンは面食らう。
「なんの用だ?」
「ははは、なんの用だはないだろう?」
「隠してるつもりか? 俺たちは知ってるんだぜ?」
サターンの問いにそんな言葉が返ってくるがサターンたちには身に覚えが無かった。
しかし、〈マッチョーズ〉の迫力と筋肉が盛り上がる。
ごまかすことは許さないとでも言うような気迫だった。
「な、なんの話だ?」
「ふふ、身に覚えがありませんね。トマは?」
「お、俺にも身に覚えが無いな」
「俺様もだ。〈マッチョーズ〉の勘違いではないか?」
サターンたちは目配せするも全員身に覚えが無いと首を振る。
本当になんの用なのかさっぱり分からず、しかし筋肉は迫力が増し、次第に目は筋肉へと向く。
あまりの迫力に目が固定されるのだ。
サターンたちは若干引きつった顔をして早く帰ってくれと願った。
しかし、願いは届かなかった。
「まだしらばっくれるのか」
「なるほど。それほどのものなのか。俄然興味が出てきたな」
「俺もだ」
しかも余計興味をそそられた様子でさらに筋肉が盛り上がった。サターンたちは恐怖を感じ始めた。
「では問おう〈天下一大星〉よ」
ごくり。
〈マッチョーズ〉のリーダーの言葉にサターンたちが息を飲む。
いったい何を問われるのか、サターンたちに緊張が走るなか、筋肉リーダーは筋肉を唸らせながら言った。
「聞いたぞ、最近
「……………………は?」
サターンはいったい何を問われたのかよく理解できなかった。
実はジーロン、トマ、ヘルクも同じ気持ちだった。
思考が完全に真っ白になり、まるで情報過多で固まったパソコンのように動かなくなったサターンたちを見て、しかし〈マッチョーズ〉の面々はまだ隠す気らしいと思い込んだようだ。
「おいおい、分かってるんだぜ? 今更隠そうとするなよ」
「隠れて鍛えようとするなんて、粋な奴らだ」
「それに筋肉を見れば分かる。筋肉は正直だからな、ずいぶん痛めつけられている」
「しかもだ、あのゼフィルスに直接鍛えられているみたいじゃないか?」
そこでようやく〈プラよん〉のフリーズした脳が理解の色を示した。
―――こいつら、勇者の訓練がどういうものなのか偵察に来たのか!?
そんな思考がサターンたちに巡った。
しかし、筋肉たちはさらにその上を行った。
「一緒に筋肉しようぜ?」
「こ、断る!」
もはやなんの誘いかも分からなかったがサターンは反射的に叫んだ。
しかし、筋肉は諦めない。
「まあまあ、そう慌てて答えを出すことも無いだろう?」
「そうだ。何もタダでとは言わないさ。俺たちも教える」
「向こうに兎跳びに適した、良い道があるんだ」
「俺たちの秘密の訓練ポイントだ。筋肉が膨らむぜ?」
そんな道を教えてもらってもサターンたちはどうしていいのか分からない。
「わ、我らは今の訓練だけで十分満足している。さらなる訓練は、ふ、不要だ」
「ふふ、そうです。これ以上訓練したら身が持ちません」
「そ、そうだぞ。勇者の訓練はすげぇ過酷なんだ。俺でも音を上げるほどだぞ。知らない方が身のため、いやお互いのためだ」
「そうだ。そもそもそんな事誰から聞いた。俺様たちが勇者に鍛えられているなんて、それこそゼフィルスくらいしか知らないはずだぞ」
「その勇者から聞いたぞ。一緒に訓練してやってくれとな」
「「「「ゼフィルスーーーーーー!!!!」」」」
〈マッチョーズ〉に話をリークし、さらに〈天下一大星〉と一緒に訓練するよう仕向けたのは、件の勇者だった。
サターンたちは腹の底から叫んだ。
「はっはっは。なるほどサプライズだったか」
「なるほど、そう言うことか。勇者も粋なことをする」
「勇者の訓練方法を秘密にしたかったのだろうが、安心しろ。その勇者から許可をもらっているからな」
「一緒に筋肉を作ろう」
「兎跳びもしよう」
サターンたちは足が震えた。
それは、今の訓練に〈マッチョーズ〉の訓練が加わるということ。
とてもではないが、人間にこなせるものとは思えなかった。
むしろ〈マッチョーズ〉は同じ人類なのかサターンは判断が付かなかった。
「さあ、教えてくれよ。勇者直伝の鍛え方ってやつを!」
筋肉リーダーが筋肉をひけらかしてサターンに迫った。むちゃくちゃ血走った目にサターンが震える。
「わ、わかった。わかったから、教える! だが俺たちは訓練には参加し、しないぞ!」
「それはいけない。勇者からは鍛え方を教えて欲しければ訓練を強制せよと言われているんだ。一緒に訓練してもらうぞ!」
「嘘、だろ!?」
「さあ、楽しい訓練の始まりだ!」
サターンたちは連れて行かれてしまった。
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