第301話 第二回、ゼフィルス先生の~大爆弾投入




 サターンたちのことを少しの間〈マッチョーズ〉に引き継いだ。

 俺は金曜日から日曜日は忙しいし、サターンたちのことはミサトが面倒を見てくれることになってはいたが、ミサトだっていつまでも付きっ切りはできない。

 ミサトも俺も見ていないならサターンたちはきっとサボるに違いない。


 そこで訓練のスペシャリストである〈マッチョーズ〉に頼んだのである。

 なぜか日頃からプロテインジュースはどこの物がいいだの、うさぎ跳びに適した道で競争しようだのと俺に話しかけてくる〈マッチョーズ〉。

 つい先日、なぜ積極的に声をかけてくるのか聞いてみたら、俺の筋肉がとてもいいと褒められた。よく分からなかったのを覚えている。


 話の流れでどこでどんな訓練をしているのかという話になり、サターンたちのことを話したのがきっかけだった。

 なぜか自分たちも是非参加したいと申し出てきたので、ちょうどいいからサターンたちを頼んだ形だ。




 金曜日は臨時講師の日だ。

 本日2回目の授業だが、少し困ったことになっている。


「国立職業ジョブ研究所の所長を務めていますガギエフと申します。今日という日を楽しみにしていました!」


「王宮魔道師団で副団長にいますマクロウスと言います! 会えて光栄です【勇者】様!」


「〈国立ダンジョン探索支援学園・第Ⅳ分校〉で分校長を務めておりますロロイクロイと申します。今日はよろしくお願いいたします」


 来るわ来るわ、良く分からないがすごそうな肩書きを持つおっさんたちが大挙して押しかけてきていた。

 一人ひとり順番に節度を持って自己紹介してくるが、すでに彼らの名前と顔は俺の記憶に残っていない。


 いったいなぜこんなことになったのか?

 前回学園長室で相談されたことが起因している。いや依頼か?

 「是非自分も受けたいという学生、教員、企業が急増していての。ゼフィルス君さえ良ければ枠の増大を願いたい」と依頼されたはずだ。

 かなり高額なQPとミールを報酬に出された。


 高位職の育成方法がまだ多く知られていないということもあり、俺はこれを引き受けた。

 しかしだ。


 授業の邪魔をしていいと言った覚えは無い。


 すでに授業が始まっている時間なのに、企業やら国家運営のなんちゃらこんちゃらやら肩書きを持つおっさんたちが次々挨拶に来るのだ。


 おのれ学園長め、俺の授業の邪魔をするか!


「セレスタン」


「は、ここに」


「こいつらは迷宮学園の学生でも教師でもない。追い出していいと思うか?」


「おそらくですが、正式な手続きの下こちらに馳せ参じられたのかと思われます。排除しては後々のちのち学園との摩擦が生じるかと」


「……学園長。この貸しは高くつくぞ」


 後でたんまりと搾り取ってやると決める。リーナも呼ぶか?


 しかし、俺の〈育成論〉が知りたいというのならさっさと授業させてほしい。

 挨拶とか後回しにしてくれ、授業ができなくて他の学生たちが退屈してるだろう!


 ピキッときた俺は強引に挨拶に来たおっさんたちを打ち切ることにする。


「これから授業を始める! 時間も過ぎている。挨拶はまたの機会にしてもらおうか!」


 綺麗に列を作り挨拶の順番待ちをしている学外の方々にそう唱え、俺は強引に壇上に戻り授業を開始する構えを見せた。


 文句をいう人が出るかと思ったのだが、学園の研究所の職員やミストン所長たちがとりなす形でササッと席に戻っていった。

 ミストン所長、いたのか。


 現在、場所は〈戦闘3号館〉のデカイ講堂。

 さすがに人が増えるとなると前回の教室では収まりきらないため講堂が貸しきられた形だ。

 最初入ったときはこんなところで壇上に立つのかと少し緊張したものだが、おっさん挨拶ラッシュのせいでいつの間にか緊張はどこかへ飛んでいってしまった。


 少し落ち着いて、改めて講堂内を見渡す。


「こりゃ圧巻だな。何人くらいいるんだか」


「調べましたが、学生1年生150人、教員30人、そしてそれ以外の学外の方72人でした」


「マジか」


 俺はセレスタンの報告にただ頷くだけだ。

 合計252人。前回の5倍以上である。

 とんでもない数が集まったものだ。

 というかセレスタン、調べたってどうやって調べたんだ? まさか数えたのか?


 気にはなったがツッコミはいれず、とりあえず時間が勿体無いので授業を開始する。


「前回一緒だった方こんにちは、今回が初めての参加と言う方、初めまして。【勇者】ゼフィルスだ。今回は多くの方に受講してもらい嬉しく思う。時間も過ぎているので早速授業を始めようか。まずは前回やったことの復習から」


 いつの間に用意したのか、セレスタンが小型マイクのようなアイテムを渡してきたのでそれに向かってしゃべると会場に俺の声が響き渡った。

 これは大声でしゃべる必要が無くてありがたい。


 とりあえず前回受講してくれた子には少し退屈かもしれないが、1時限コマ目と2時限コマ目は先週のおさらいだ。初参加の方に教える意味でも必要な処置だった。

 一応通知はしておいたので、続きからを望む子は3時限目から授業に来てほしいと案内しておいたが、前回受講した50人全員が1時限目からの参加だった。

 なぜか女子は一つの生き物みたいに動いて俺の近くの席を全て確保していたけど、あれはなんだったんだ?

 おかげで2回目から参加の子たちは後ろの席と住み分けが出来ているのでわかりやすくはあるが。



 授業は進み、2時限目が終わる。

 また今回は質問を5問までとした。1時限につき5問だ。

 さすがにこの人数全ての質問を受けていたら日が暮れてしまう。

 あと学外の人たちの質問は基本的に無しとした。そしたら代わりに教員さんに何かを渡して質問してくれるよう拝み倒すようになったが、やめてほしい。メインは学生なんだけど?

 〈ダン活〉は学生しかスカウトできないゲームです。


 休憩を挟み、やっと前回の続き、3時限目に移った。

 第2回目は、〈育成論〉をもう少し深くから説明しようと思っていたのだが、やめた。予定変更だ。

 せっかく学外の方や教師の方が多く来ているのだから、この機会に世界がしている勘違いを正そうと思う。

 俺がずっともやもやしてきた課題の1つ、〈転職〉についてを語ってみよう。


「研究所の目覚しい研究により発覚した〈モンスター撃破〉というこの条件、これにより、職業ジョブとはまず中位職に就き、モンスターを撃破し、その後〈転職〉によって高位職に就くのが正しい手順だとわかる。故に、自分は一度就いた職業ジョブであっても、〈転職〉は推奨されるべきだと考えている」


 そう〈転職〉についてを語った瞬間、周囲がざわめきに包まれた。

 この世界では〈転職〉とはご法度扱いに近い。

 そこへ〈転職〉は正しい手順なんだと告げられれば研究者たちだって戸惑うだろう。


 だが、常識とは時代と共に常に移り変わっていくもの。

 今回、氷山の一角を溶かしたことによりこの世界の常識は大きく変わりつつあった。

 そこに便乗して、この際〈転職〉について正しい理解を植えつけておこうというのがこの話の魂胆だ。


「〈転職〉をすればLVはリセットされてしまう。今までの努力が、訓練が水の泡となるのは非常に苦しいとは思う。しかし逆に考えてみてほしい、〈転職〉とはやり直しの機会なのだと。今教えている〈育成論〉は、LVが低いほど目指せる高みがより高くなる。〈転職〉とは、より自分のステージを押し上げるための一種の革命とも言えるのだと」


 俺は〈転職〉を推奨する。〈転職〉について語っていく。

 ゲームでは、キャラクタークリエイトしたとき、どの時期でもLV0からのスタートだった。

 5月1日に運命の日を迎えているにも拘らずLV0ということは、それは〈転職〉していたということに他ならない。


 〈転職〉をやってはいけない?

 バカをいっちゃいけない。むしろ推奨されるべきだ。


 さて、まだまだこのリアル世界が勘違いしていることは山ほどある。

 〈育成論〉を語るに当たって、邪魔な常識はどんどん取っ払ってしまおう。

 そうすれば〈転職〉によってまだまだ高位職は増えていくに違いない。

 LVもリセットされれば〈育成論〉の対象者だ。もうガンガン〈転職〉してほしい。


 世界よ。〈転職〉は良いものだぞ。




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