第213話 これがリアル〈ダン活〉の自己紹介か!



 クラス分けの翌日、今日から授業が始まる。


 〈戦闘課〉の授業は大きく分けて3種類、〈一般授業〉〈戦闘授業〉〈選択授業〉がある。


 迷宮学園の授業は各専攻、各課によって異なり、俺たちの通う〈戦闘課〉は一般授業の他に多くの戦闘についての授業が組まれている。


 〈一般授業〉の必修科目は国語、数学、歴史の3点。その他は選択授業で学生の伸ばしたいように伸ばす方針だ。


 〈戦闘授業〉の必修科目は、ダンジョン攻略、職業ジョブ連携パーティ特産とくさんの4点。

 これを座学、実技の両方で伸ばしていく。

 他、受けたいものは選択授業だ。


 〈選択授業〉は他の課と合同、専攻毎の括りは取り払われ、自分の好きな授業を選択して受講することが出来る。

 たとえ〈戦闘課〉に所属していても生産を勉強したり商売を勉強したりして、将来の自分がなりたいものへの技能を身につけることができるのだ。個性を磨く非常に重要な授業と言えるだろう。

 他の専攻の同級生との出会いの場でもあるしな。


 と、教壇の奥で新任美人教師のフィリス先生が説明してくれる。


「これから時間割と選択授業のパンフレットを配りますね。1年生の選択授業が始まるのが来週金曜日からになりますので、皆さんは希望する選択科目を選び先生に提出するようお願いしますね」


 今は朝のロングホームルーム中。学園生活についてのあれこれをフィリス先生が説明してくれているところだ。

 そして窓側には〈轟炎のラダベナ〉先生が座っており、そんなフィリス先生と学生たちの様子を観察している。

 そのせいか、学生たちは少し落ち着きが無い。

 まあ、今日初めて学園生活がスタートしたものだし、最初だから浮き立っているだけかもしれないが。


「以上です。何か質問はありますか? 無ければ1人ずつ自己紹介をしましょう」


 そう言ってフィリス先生がまず廊下側の壁際に座っている男子の列に紹介を頼む。


 ふむ。自己紹介か、この辺は日本の学校とそんなに変わらないな。


「我は【大魔道士】のサターンだ。我がクラスを引っ張っていくから光栄に思うが良い」


 まあ、自己紹介の内容は普通じゃなかったが。


「ふふ、前の彼は少し品に欠けていましたね。僕は【大剣豪】のジーロンです。僕こそがクラスを引っ張っていくにふさわしいでしょう」


「待つが良い。自分は【大戦斧士だいせんふし】のトマ。自分以外にクラスを引っ張っていくにふさわしい人物はいない」


「俺様を忘れてもらっちゃ困るな。俺様は【大戦士】のヘルクだ。俺様こそ先頭に立ってクラスを引っ張るにふさわしい」


 なんでこいつらは自己紹介でマウントを取り合ってるんだ?

 というか最後の俺を忘れて貰っちゃ困るとか、知らんぞこいつ。


 なんか睨み合う男子学生たちを見て頭をひねる。

 ゲーム〈ダン活〉では授業内容なんて当たり前のようにカットされていたため俺にはこれが常識なのかよく分からない。


 もしかしてそういうノリなんだろうか。

 また一つリアル〈ダン活〉の知識欲が満たされてしまった。


 しかし、そこに物申す者が現れる。我らが頼れる王女様、ラナだ。


「ちょっとあなたたちいい加減にしなさいよ! そんなドングリの背比べなんてして、まったくの不毛だわ!」


「な、なんだと!」


「ふふ。面白いですね。僕以上の人が居るとでも?」


 最初に紹介した【大魔道士】と【大剣豪】がラナの言葉に過剰に反応する。

 なんでこいつらは自信満々なんだ? あ、ラナがこっち向いた。

 顎をクイッとなさって、その顔は言ってやりなさいと告げている。

 え? この雰囲気の中、言うの? 俺が?


 ……なんだか楽しくなってきた。言ってやろう。


「そこまで自信があるのならLVを言ってみてはどうだ?」


「ぬ」


「貴様は! 【勇者】か!」


 男子列の最後の席に居た俺が立ち上がってそう言うと【大戦斧士】と【大戦士】の男子がこっちを向く。まだ自己紹介はしていないはずだが向こうは俺を知っているらしい。

 すまん【大戦士】。俺は君を知らなかった。


「この学園は実力主義だ。なら、分かるだろ?」


 俺の言わんとすることに気がついた4人が何故か平静を取り戻す。まるで自分たちの方が上だと確信しているかのような振る舞いだ。


 え? 絶対そんな事無いと思うが? 俺、代表の挨拶をしたラナと同LVだぞ?


 そんな事を思っていると【大魔道士】のサターン君が前に出て言った。


「ほう? 良いだろう。だが【勇者】がしただった場合はそれ相応の扱いを覚悟することだ。聞け! 我はサターン! 【大魔道士LV17】のサターンである!」


「低いっ!?」


 思った以上に低かった。

 しかし、そんな反応をしたのは俺だけだったらしい。他の3人が落ち着きを無くす。


「ふふ。お、おかしいですね。計算と違います」


「17、だと!? バカな」


「この俺様より上がいるだと!?」


 君たちの反応こそバカなである。


 後ろを振り返り、そんな3人の様子を確認したサターン君が自信満々にこっちを向いて言った。


「どうかね。教えてくれないか、君のLVを」


 なんかむっちゃ勝ち誇った顔してる! 俺にはそれがピエロにしか見えない。


 え、どうしよう。

 言っちゃって良いのこれ? 


 ラナの方に視線を向けると、とても優しい笑顔で親指が上に立てられた。

 ゴーサインが出てしまった。もう告げるしか無い。さらばサターン君。


「俺はゼフィルス。職業ジョブは【勇者】。LVは――50だ」


「…………ん? すまないがもう一度言ってくれないか? どうも幻聴が聞こえたようでね」


 現実を受け止められず幻聴に聞こえたらしい。

 ならば次こそちゃんと聞こえるようハッキリと言ってやる。


「俺はゼフィルス! 【勇者LV50】の、ゼフィルスだ!」


「な、なんだとぉぉぉっ!!??」


 サターン君の驚愕の叫びと共にざわっと教室内がざわめきに包まれた。

 全員の視線が俺に向き、隣の席同士でこそこそ話し合っている。

 ちょっと気持ち良い。


 見ればサターン君の足が子鹿のようにプルプルと震えていた。もう一押しだな。


「ちなみに言っておくと俺たちのギルド〈エデン〉のメンバーは全員LV30を超えているからな?」


「な、なんだとぉぉぉっ!!??」


 サターン君に追撃。二回目のなんだとぉぉぉが教室に響いた。

 もうサターン君のHPは0のようだ。ついでに後ろの3人も


「はいはい。では次にいきましょうね。隣の女子の列おねがいしますね」


 ここでフィリス先生が何事も無かったように次に進めた。


 促されて席に戻った彼ら4人は、真っ白に燃え尽きていた。




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