第212話 癒しを与えるのも〈幸猫様〉




 クラス分けは1日掛けて行われるためにどのくらい待たされるのかと思ったが、思いのほか早く教員の方が来た。しかも偶然にもよく知る先生である。

 どうやら学校案内をしてくれるらしい。


 さすがにクラス分けが完全に終わるまで教室で待機というのは効率が悪いため、クラスが過半数近く揃ったところで学園案内が行われるのだという。クラスの全体で校内を歩き回るのも大所帯過ぎるので分ける形だな。

 つまり俺たちは前半組。やったぜ。


「今日から君たちのクラスを受け持つことになりますフィリスといいます。皆さん気軽にフィリス先生と呼んでくださいね」


 案内役はお馴染みのフィリス先生だった。ちょっとびっくり、しかもフィリス先生はこのクラスの担任を務めるらしい。

 19歳美人教師が担任とか、やったぜ。(二回目)


 ちなみに後で聞いた話では副担任はEランク試験の時に担当してくれたあの〈轟炎のラダベナ〉先生が就くらしい。なるほど、ベテランがサポートに付くということだろう。

 普通担任と副担任逆じゃないか、とも思うが、何か事情があるんだろうな。

 思えば1組には王女を始め、高貴な姫たちが多数在籍している。フィリス先生はリカのお姉さんで侯爵家の長女だ。何かそういう配慮的な問題かもしれない。

 俺的にはフィリス先生が担任でラッキーである。


 その後、前半組の17人とフィリス先生で校内を始め学園内の主要なエリアをぐるりと回った。

 リアル〈ダン活〉に来てからダンジョンばっかりだったため、こうやってリアルの学園を見て回るのは実は初だったりする。学園に来た当時の感動を思い出したぜ。

 一通り見終わった時にはすでにお昼だった。主要な場所に絞って見たはずなのにさすが、学園は広い。


 途中〈マッチョーズ〉の面々が俺を囲み、購買に売っているオススメのプロテインジュースがどうこうと切り出してきた時は焦った。が「僕、筋肉語、ワカリマセン」と言って乗り切った。

 嘘だ。

 実はセレスタンに助けてもらった。出来る執事がいて俺は恵まれてる。



 昼食後は、午後一番で〈戦闘3号館〉に備え付けられている〈練習場〉に〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉の学生全員が集まり、そこで入学始業式が行われた。

 入学始業式。入学式なのか始業式なのかよく分からないが、時期が微妙なので合わさっちゃったものと思われる。


 〈戦闘3号館〉は1年生専用の校舎なのでここに集まるのは全て同級生だ。

 広い〈練習場〉にクラス毎に並ぶ同級生たち。俺たちが見て回っている間にすでにクラス分けは終わったらしいな。

 先生方、お疲れ様です。


 そこから壇上に立った学園長の短い御言葉があった。学園長は全ての課に向かい挨拶を行うので短い言葉で学生を激励した後すぐに去っていった。学園長もお忙しそうだ。


 〈戦闘課〉の入学式代表の挨拶はラナが務めた。まあ順当だろう。ラナは王女だし。LV50だしな。


「我々は世界に資源を供給するとても大切な仕事を担当します。そのためのノウハウや技術を学園から、先生から、そして先輩方から学び取り、自分たちのかてと致しましょう。また―――」


 一瞬本当にラナが喋っているのかと疑ってしまった。

 壇上に立つラナはなんというか、いつもの無邪気さは無く、とても高貴なオーラに包まれていた。この光景だけを見ればラナが王女だと疑う者は居ないだろう。俺は疑ってしまったが。


 ラナも昨日は帰った後忙しそうにしていた理由はこれだったんだな。と一人納得する。


 そんなこんなで式も終わり、今日はこれで終了となった。前半組は。

 後半組はこれから学園案内が行われるらしい。連れて行かれる男女13人を見送った。後半組よ、ガンバレ。俺たちは一足先に帰るから。また明日、クラスで会おう。




「あふぅ。疲れたわ~」


「ラナ様、お疲れ様でございます」


「ラナ様、レモンティーです。お熱いのでお気を付けくださいませ」


「ラナ様、ケーキはこちらに置かせていただきますのでご自由にお取りください」


「苦しゅぅないわぁ」


「なんだこれ?」


 解散した後そのまま帰るのも勿体ないとギルド部屋に来た〈エデン〉のメンバー11人だったが、入学式代表の挨拶で気を張りまくったラナが一瞬でテーブルの上にぐだぁと身を預けた。


 すぐに従者3人がラナの下へ向かい癒やしを与え始める。

 エステルは労い、セレスタンがティーを入れ、シズがサービングタワーを用意して。

 ってシズ、そんなケーキバイキングとかにありそうな物どっから用意した。

 従者の〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の中はいったいどうなっているのだろか、ちょっと覗いてみたい。


 そんな事を思っているとあっと言う間に貴族のティータイムが完成した。早い。

 そんな光景を見てカルアが目を輝かせてラナに言う。


「おいしそう。私も食べていい?」


「いらっしゃいカルア。皆も一緒に食べましょうよ」


 ラナのお誘いもあり、皆でティータイムをすることになった。

 相変わらずセレスタンの入れるティーは美味かった。さすが、『ティー作製』のスキル持ち。やっぱりスキル持ちの作る料理アイテムは美味いなぁ。今度料理アイテム巡りをしようと心に決める。


 他の皆もセレスタンとシズ以外は席に着き、ティータイムが始まった。


「はぁ、でも本当に疲れたわ。慣れない事なんてするもんじゃないわ」


「ですがラナ様はもう少し慣れていただきませんと」


 しかしラナはよほど先ほどの代表の挨拶が堪えた模様だ。最近甘やかし気味だったエステルが珍しく厳しい。


「うぅ~、癒やしが、もっと癒やしが居るわね。カルア、〈幸猫様〉をここへ」


「ん。わかった」


「行かせないぞ!?」


 癒やしを求めたラナがとんでもない事を言い出したため俺が素早く先回りしてカルアを止める。

 そのままカルアを席に座らせて俺が代わりに取ってくることにした。


「ほら、取ってきてやったぞ」


「これ〈幸猫様〉じゃないわ!」


 そりゃシエラが買ってきた普通のぬいぐるみだからな。〈幸猫様〉への魔の手は俺が防ぐ!


「ただいま~」


「あ、ハンナおかえり! こっちで一緒にお茶しましょうよ!」


 そこへギルドにやってきたハンナ。良いタイミングだ。

 ラナの気が逸れる。


「う~。ありがとうございます~」


「どうしたんだハンナ? なんかすっごく疲れているようだが?」


「そうなの。聞いてゼフィルス君~」


 なんか弱っているハンナの事情を聞くと、〈麒麟児のハンナ〉は〈ダンジョン生産専攻〉で大人気だったらしい。

 ハンナは成績優秀だし、可愛いし、話しかけやすいから、もういろんな人に囲まれてチヤホヤ状態だったという。そして【勇者】くんとの仲も根掘り葉掘り聞かれたらしい。

 青春しているなぁと感じる。


「大人気かぁ。良かったな」


「良いけど、良くないんだよ~。あんなに尊敬の眼差しを受けて、私溶けちゃうんじゃないかって思ったもん」


 それに加え〈ダンジョン生産専攻〉1年生全員の前での入学式代表の挨拶までこなしたハンナ。もう今日一日でハンナの許容量は一杯になってしまったらしい。

 なんだか聞く限り、順調にお姉様路線を進んでいるように感じた。

 とりあえず頭をなでなでして癒やしを与えておく。ハンナはこれをすると癒やされるらしいからな。


「え、えへへ~」


「あ、ハンナ、それ羨ましいわ! ゼフィルス、私にもやって!」


「ああ、これくらいなら別にいいぞ、――ってなんで〈幸猫様〉持ってるんだ!?」


「ゼフィルスが持ってきてくれないから私が直々に取りに行ったのよ」


「いやそこは諦めろよ!?」


 ちょっとハンナに気を取られている間に油断も隙も無い王女である。


「もう。ちょっとくらい良いじゃない、ハンナも一緒に癒やされましょ?」


 その後〈幸猫様〉のおかげでラナとハンナは無事元気を取り戻したのだった。


 〈幸猫様〉にも苦労を掛けます!




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