第211話 新しいクラスにご案内、奥に筋肉が見える。




 迷宮学園では各専攻、各課にクラス分けがなされ、在籍する学生は先生の指導の下に職業ジョブを磨き、自分の進む道へと邁進まいしんする。


 その大切なクラス分けが行われている一つがココ、〈戦闘3号館〉と呼ばれる〈戦闘課〉専門の校舎だ。

 この〈戦闘3号館〉は主に〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉の1年生が在籍する。他の〈攻略専攻〉である〈採集課〉や〈調査課〉、〈罠外わなはずし課〉などは別の校舎で行われているはずだ。


 全学年で2万人も在籍しているため、もうクラス分けというよりも学舎分けと言っても良い具合だな。


 少し遅れ気味に校舎に到着すると、そこは学生でごったがえしていた。

 この世界はダンジョン資源で回っているため〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉に在籍する学生は多い。というより全ての課の中でトップの大人気部門だ。

 故にここに集まる学生もむちゃくちゃ多い。そして校舎もむちゃくちゃデカい。


 さて、完全に出遅れたな。こりゃ俺の番までだいぶ時間が掛かりそうである。

 どうしたものか。


 目の前の人混みに軽く悩ましい顔をしていると、声を掛けてくる人物がいた。

 俺の従者であり執事のセレスタンだ。どうやら俺を待っていたらしい。


「ゼフィルス様、おはようございます」


「…セレスタンか! おはよう。なんか制服姿が新鮮すぎて一瞬わかんなかったぞ」


 セレスタンの格好は白いブレザーに紺のズボンとこの迷宮学園の標準の制服姿だった。

 いつも上下がパリッとした執事服を着ているため少し違和感がある。


「ゼフィルス様は制服姿がよくお似合いですね」


「そうか? ありがとな。そういえばセレスタンも〈戦闘課〉だったんだよな。執事だから別の課でもいいと思うんだが」


「僕はゼフィルス様の従者ですからね、それに戦う執事でもあります」


 どうも俺に無理して付いてきている様子は無いようだ。【バトラー】、というよりもセレスタン自身が執事なので別の課に行ってもおかしくはなかったが。まあ、セレスタンが良いと言うのだから良いのだろう。


「それと、ゼフィルス様こちらに。すでにクラス分けが決まっておりますので、クラスまでご案内しましょう」


「仕事が早いなセレスタン!?」


 どうやらセレスタンのおかげであの混雑に並ぶ必要は無いようだ。さすがセレスタン。良い仕事をする。

 ちなみに俺たちは早期に職業ジョブに就いていたため、先生方からの確認はある程度免除されていたそうだ。どうりで早いはずだ。


 先導するセレスタンに付いていき校舎に入った。


「そういえば他のメンバーはどうしたんだ?」


「はい。シズさんやエステルさんたちに連れられて先にクラスへ向かったはずです。ゼフィルス様が最後ですね」


 どうやら俺が最後だったらしい。アレだ、ギルドマスター出勤ってやつだ。遅刻ではない。



「あ~、来る途中ちょっとしたトラブルがあってな」


「おや、大丈夫でしたか?」


「ああ。多分。問題ない」


 大丈夫かは俺も知りたいところだが、とりあえずそう言ってごまかした。

 話を変えよう。俺は先ほどから気になっていた事をセレスタンに聞く。


「それよりメンバーの所属クラスを教えてくれないか、ハンナ以外は〈戦闘課〉希望だっただろ?」


「はい。全員〈戦闘課1年1組〉ですよ」


「お、それは何よりだ」


 〈エデン〉のメンバーはハンナを抜かして全員が〈ダンジョン攻略専攻・戦闘課〉希望だった。そしてその希望が通り、無事所属。さらにクラスまで全員一緒とはとても幸先が良いな。

 クラス分けは職業ジョブの種類、そして職業ジョブLVと成績で決まる。〈1組〉ならその課で最も優秀なLVと成績を修めた者がクラス分けされるシステムだ。さすが実力主義。


 そして〈エデン〉のメンバーは全員職業ジョブLV30以上、初級中位ダンジョンクリア者なので当然のように1組だった。実は狙ってた。ハンナはすまん。


「到着しました。こちらが1組です」


「案内ありがとな」


 クラスに到着した。

 見覚えのある教室がそこにあった。

 俺は心の中でジーンと感動し、これからの学園生活に夢を膨らませる。


 セレスタンが優雅に扉を開けてくれたので、背筋を意識してピンと伸ばし、悠々と中に入った。


「あ、ゼフィルスが来たわ! もう遅いじゃない!」


「おは。ゼフィルス」


 最初に出迎えてくれたのはラナとカルアだった。

 その声に反応してクラス全員の視線が俺に向く。

 今クラスに居たのは15人ほど、そのうち俺とセレスタンを抜いた9人が〈エデン〉のメンバー、5人が制服の上からでも盛り上がる筋肉が分かるほどの筋肉、〈マッチョーズ〉のメンバーである。あと女子学生が1人、こちらは知らない顔だ。


 少しだけ教室内がざわめく。主に〈マッチョーズ〉。


「む、アレが【勇者】か」


「身体は細身だが筋肉は中々」


「ああ。鍛えられているな」


「どんな奴かと思っていたが中々どうして、話せそうだな」


「よし、後で筋肉談義に誘ってみよう」


 そこ、聞こえているからな。というか筋肉談義ってなんだ? 参加しないぞ俺は、絶対にだ。


 どうやら、1組のクラス分けはまだまだこれかららしく、まだ半数しか決まっていないようだ。

 まあ1年生の中でもトップの学生を決める作業だからな、学園側も慎重になっているのだろう。

 その慎重になった結果に何故【筋肉戦士】が入っているのか俺には悩ましいのだが、この世界では【筋肉戦士】が非常に優良職なのだと認識されているのだから仕方ない。


 後何気なにげに【筋肉戦士】たちは訓練によって凄まじくLVが高いらしい。少し前に【筋肉戦士】5人のパーティがついに〈デブブ〉を倒し〈幽霊の洞窟ダンジョン〉を攻略したようなのだ。その時に聞いた話では全員が【筋肉戦士LV35】なのだという。正直めまいがするほど驚いた。どんだけ訓練してるんだこの筋肉たちはと。

 まあ、そんなわけでLVも高く、成績も初級中位ダンジョン2つクリアとあって1組に決まったようだな。


 俺は意図的に筋肉から視線を外し、まず〈エデン〉のメンバーの下へ行く。


 さて、では他の学生たちが集まり終えるまで少し談笑でもして待つとしようかね。

 筋肉談義には参加しないからな?




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