第184話 待ちわびた納品!〈からくり馬車〉ゲット!




 帰還した俺がまず向かったのは恒例のマリー先輩の店、ではなく寡黙な先輩、ガント先輩の居る彫金屋だった。


 今日は日曜日。オークションが開かれる日ではあるが、そちらはセレスタンに任せてある。

 これまでの周回で〈金箱〉のハズレドロップなんかも出るのでその中から2つ選ばせてオークションに出させたのだ。

 俺たちもFからEランクギルドに上がり、出品数が1品増えたからな。売り上げも倍だ!

 ふはは!


 さて、それはともかくだ。

 前回ガント先輩に〈陰陽次太郎〉の素材を卸したのが木曜日の夕方。

 そしてそれから3日後の夕方が今である。


 ガント先輩に依頼していた物も3日で出来上がると言っていたしすでに完成しているだろう。むっちゃ楽しみだ。


 ワクワクと心を弾ませながら進んでいくと、あっと言う間に目的の店に着いてしまう。

 ちなみに女性陣は帰還後シャワーが鉄板なので初ダンで分かれている。

 俺は一人で店の入口を潜った。


「ガント先輩居ますかー!」


「表に出ろ」


 おっといきなりなんだ。喧嘩か? いや喧嘩じゃない。

 声の主はガント先輩だった。

 店の暗がりの陰から腕を組んだままご登場。その頭には鉢巻きが結ばれている。今日はよく見るな鉢巻き。


 と、そんな事を思っていると俺の脇を抜けてガント先輩が外に行ってしまう。さすが職人気質の寡黙な先輩。無言の付いて来いっていう事だろう。ちょっとカッコイイと思ってしまう俺が居ます。俺もその後に続いた。

 そしてやってきたのは店の横のちょっとした空きスペース。馬車の駐車場だった。


「完成品だ」


「素晴らしい! 素晴らしいよガント先輩!」


 そこには完成した最上級の〈カラクリ馬車〉が鎮座ちんざしていた。

 レアボス〈陰陽次太郎〉の素材をふんだんに使い、渡した〈竹割太郎〉の素材もほぼ大半が使用されたという贅沢な馬車。馬も当然のごとくセットだ。


 おそらくマリー先輩たち〈デザインペイント変更屋〉も手伝ったのだろう、俺の知っているゲームの物と、まったく違う見た目をしている。なんというか、全体的にゴージャスなのだ。金色とか銀色とか赤色なんかが多く使われた煌びやかな意匠となっている。

 多分、王女様が乗る馬車という事で気を使わせてしまったのだろう。ありがとうございます、マリー先輩。

 あとでお礼をしに行こう。


 そして馬車を引く馬だが、こちらは100%カラクリ仕掛けの馬だ。無機物だが、なんか魔法的な要素か、それとも付喪つくもの効力なのかは知らないが、走ります。

 数は二頭。全身にゴージャスな馬鎧を着ていてむちゃくちゃ強そうである。

 こんなのがスキル使って走ってきたらとんでもない恐怖だな。轢かれたショックで転生してしまうかも知れない。……あながちモンスターは本当に転生してリポップしているのかもしれないが。


 それはともかく鑑定だ。

 どんな能力を持っているのか、まず確認するのが納品前のお約束。

 ちなみに〈エデン〉の『鑑定』アイテム〈メドラ〉はシエラたちのグループに貸してしまったので今はない。その代わりガント先輩が無言で〈解るクン〉を差し出してきた。さすがである。


―――――――――――

〈カラクリ馬車(最上級):攻撃力60。乗車人数7人。

『テントLV1』『空間収納倉庫アイテムボックスLV3』『空間拡張LV3』〉

―――――――――――


 うは。

 全体的に予想通りであるが攻撃力が60もある!


 初級ダンジョンのドロップの中で最も強い〈怒りの竹割戦斧〉でも攻撃力56だ。

 攻撃力が比較的高い傾向のある〈斧〉装備ですら敵わない数値。

 つまりドロップ品では到底届かない境地、さすがは生産品。それにしてもこれは力の入れ具合が凄いな。


 ちなみに、この攻撃力だが、〈乗り物〉は〈アクセサリー〉扱いなので〈武器〉には加算されない。武器は武器、乗り物は乗り物でダメージ計算がなされる。つまり合計や合算はしない、となる。二刀流などと同じだな。

 そうじゃなかったら攻撃力が一人だけとんでもない事になるからな。


 他のスキルは、とりあえず後で説明しよう。


「めちゃくちゃ気に入ったよ寡黙な、いえガント先輩! これは素晴らしい出来だ! 早速納品してくれ」


「…200万ミールだ」


「え? 安いな。良いのか? いくら素材持ち込みだからってこれほどの性能だ。もっと掛かるかと思ったが」


「構わん」


「そっか。じゃ、御言葉に甘えますぜ!」


 学生手帳をタッチして支払いを済ませる。

 いやあ。ガント先輩太っ腹だぜ。普通ならこの金額の3倍は行きそうな性能なのにな。

 こんな良い物をこれだけの値段で譲ってくれるのだから頭が下がる。

 ちなみにこの支払いはギルド予算で支払う事が決まっている。エステルはギルド内で引っ張りだこになるだろうからな。


 その後〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉に馬車と馬を入れる。

 装備なのでゲームでは鞄に入る事は知っていたが、リアルで見るとマジびっくりするな。

 あの質量が吸い込まれるように入ってしまった光景が信じられなくて、俺は〈空間収納鞄アイテムバッグ〉を3度見した。

 ちなみにちゃんと収納は出来ていた。取り出す事もできるぞ。


「お世話になった! また何かあったら依頼するのでその時はよろしく」


「ああ」


 無事納品も終わったためガント先輩にお礼を言って次の目的地、マリー先輩の下へ向かった。


 そして今日の戦果、レアボス〈デブブスペシャル〉の素材を出した途端、マリー先輩が嬉しい悲鳴を上げたのだった。




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