第183話 〈デブブ〉周回。カルアの短剣が光る。




「ん。『急所一刺し』!」


「ゲゲ!?」


「ダウンだ! ナイスカルア! 全員総攻撃!」


「……ケケ…ケ…」


 俺の指示に全員の攻撃が〈デブブ〉に降り注ぎ、HPが0になって消えていく。

 すでに20回目ということもあって見慣れてしまった光景だ。

 まるでダルマさんのように丸々としている〈デブブ〉が萎んでいく光景は何度見ても笑ってしまう。



 現在俺たちは〈幽霊の洞窟ダンジョン〉のボス〈デブブ〉を周回中だ。

 本当はクリアが目的だったので周回する予定は無かったのだが、カルアが氷属性短剣〈アイスミー〉を装備した事で予定を変更。〈デブブ〉狩りと相成ったわけである。


「ぶい」


「カルアむっちゃ活躍するようになったなぁ」


「そうだな。羨ましいくらいだ」


 この中で唯一〈幽霊ゴースト特性〉に対して有効な攻撃手段を持たないリカが羨望の視線をカルアに向ける。

 リカは属性武器持ってないからな。刀は装備可能の職業ジョブが少ないのでドロップが辛いのだ。

 ましてや属性を纏った刀なんてそう簡単には見つからない。

 一応【姫侍】の三段階目ツリーには属性攻撃スキルが各種用意されているのだが、出来れば二段階目ツリーで使いたかったな。


 というわけで今回のリカは挑発スキルでタンク役にのみ注力してもらっていた。


 一方で属性武器を手に入れたカルアの活躍は目覚ましいものがあった。

 二刀流の内片手一本かたていっぽんしかないが、それでも手数があるため〈チビゴースト〉をみるみる倒していく。

 足も速いため〈チビ〉と本体の間を素早く移動出来るので戦闘の幅が広い。魅せるねぇ。


 もちろん手数だけでは無く、今〈デブブ〉からダウンを取った『急所一刺し』のように単発の強力なスキルも多い。『急所一刺し』はノックバック中や〈ユニークスキル〉の硬直中などのダウンチャンスに当てると、クリティカルが取りやすくなる効果がある。リカとの相性も抜群のスキルだ。


「お疲れ~。そろそろ上がるか?」


「えー、もうそんな時間?」


「時間が経つの早いですよね」


 空を見れば夕焼けに染まり良い時間だ。

 ラナとハンナはもう少しやりたそうにしている。まあいつもの回数に比べたら20周は少ないもんなぁ。

 これは〈デブブ〉の行動が何ステップか分かれて攻撃してくるために時間が掛かるためだな。普通のボス周回のおよそ倍くらい時間が掛かる。


 しかし、倒すのに時間が掛かる分ドロップは良い物が多い。〈デブブ〉は属性武器や魔法武器を数多く落とすのだ。『空きスロット』を持つ〈マナライトの杖〉も、初級中位ショッチューではここでしかドロップしない。


「うむ。結局属性の付いた刀はドロップしなかったか。残念だ」


 最後の宝箱は〈木箱〉1個。それを見てリカが残念そうに呟いた。


「ま、そのうちドロップするさ。それに腰に付けているその二本の方が強いぞ?」


 「侯爵」「姫」が持つ初期装備の刀は中級中位ダンジョンでも戦えるほど性能が良い。初級中位ショッチューでドロップする物より全然良い物だ。


「はは。そうなのだがな。つい新しい刀は欲しくなってしまうのだ」


「その気持ちは少し分かるけどな」


 新しい武器なんてすげぇワクワクするし。それに武器はついコレクションしたくなるんだよなぁ。〈ダン活〉ではミールがどんどん飛んでいくためにゲーム時代は途中でコレクションするのは諦めたが、出来るなら売らずに全部集めて制覇したかった。それをやり遂げたコレクターエンディングという物もあるのだが俺はそれを遂げられなかった。少し心残りだ。


 ドロップも全て回収し終わると門の方に人の気配がすることに気がついた。

 どうやらボス部屋が空くのを待っている人たちがいるらしい。

 珍しいな。一年生だろうか? 少し気になって門の方へ耳を傾けてみる。



「俺たちの筋肉なら〈デブブスペシャル〉だろうと突破出来る!」


「そうだ! 生まれ変わった不死鳥筋ふしちょうきんを今、魅せつける時!」


「幽霊の筋肉なんかに負けるな! 本物の肉の付いた肉体美には敵わないという事を魅せてやる!」


「筋肉わっしょい! 筋肉わっしょい!」


「わーっしょい! わーっしょい!」



 ………やべぇな。

 筋肉さんのギルド〈マッチョーズ〉一行だわこれ。間違いない。


 しかもわっしょいわっしょいって、完全に祭りに参加するつもりじゃん。

 また全滅するぞ?


 なんか今遭遇するのは色々とよろしくない気がする。

 うん。帰ろう。俺たちのギルドへ。


「? どうしたのよゼフィルス」


「いや。帰ろうか」


「? そうね?」


 俺の態度に頭に?を浮かべるラナを促し、俺たちは転移門に乗って帰還したのだった。



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