第160話 とても無視出来ない問題でしたが、出発です。




「というかハンナはあの部屋でどうやって暮らしてたんだ? 料理とかさ」


「料理は厨房を貸してもらって、というか個人の部屋にキッチンなんて最初から無いよゼフィルス君」


「あ、そういえばそうだったな。貴族舎には完備されてたからうっかりしてた」


 ギルド部屋へ向かう道でハンナからあの酷い部屋の事を聞き出したところ、あんなに溢れそうになったのはここ最近のことらしい。

 それまでは錬金で〈魔石(小)〉などにまとめ、そこからさらに錬金したりなんなりして消化していたらしいが。


「装備でミールがほとんど無くなっちゃったから、少し焦っちゃったの」


「少し焦っちゃって、あの状態か…」


 今度からはハンナを焦らせないよう気を付けなければいけないかもしれない。


 生産(?)に没頭しすぎてついあの状態になってしまったと言うハンナは順調に生産職(?)の道を歩んでいるようだ。


「でもねでもね、すごいんだよゼフィルス君、この『すべては奉納【ほうのう】で決まる錬金術』ってユニークスキル! 使わなくなった〈銀箱〉産を捧げるとね20個に増えるの! もうMPポーションがどんどん増えて楽しいよ!」


「そうか。良かったなハンナ」


 そう言って応えた俺の目は優しい感じになっていたに違いない。


 ちゃんと普通の錬金もしていたらしいハンナ。大失敗【デザートファンブル】しかしてないのかと思ったぜ。


 ハンナは今まで普通の錬金すらした回数はそんなに無かったはずだ。そりゃ楽しいだろうな。


『すべては奉納【ほうのう】で決まる錬金術』も使いこなしている様子だ。

 頼もしいことは頼もしいんだが……、あの部屋を見た後では素直に喜べない。


「ねえゼフィルス君。また〈魔力草〉取りに行こ?」


「ああ。だがそれはもうちょっと後だな。まずEランクに上がっておきたいし。〈魔力草〉を取りに行くのはその後だな。あと数日だけ我慢してくれ」


「そっかぁ」


「悪いな。それまでは『素材返し』と『奉納錬金』のループで増やしていってほしい」


「うん。わかったよ」


 『奉納錬金』で増やしたアイテムの片方を『素材返し』で素材に戻し、その素材をまた『奉納錬金』で増やすとアイテムを無限に増やせるループが出来る。両方とも〈スキル〉LV10なので失敗しないし消滅しないのがすばらしい。

 ただ『奉納錬金』と『素材返し』はMPを消費するので多用は出来ないのが残念なところだ。一応俺が持っていた『MP自動回復LV1』の付いた〈真魂のネックレス〉を渡しておいたが。全然MPが足りていない。


 やはり、ループさせるより素材を採取して『奉納錬金』のみに集中させた方が効率的ではあるんだよなぁ。〈魔力草〉を全部MPポーションに錬金してしまったのが悔やまれる。

 『素材返し』はもっと上級で使うスキルなのだ。


「それで、今日はどうするの? Eランク試験を受けるの?」


「いや、それは明日にしよう。その前にやる事があるんだ」


 俺は昨日マリー先輩に言われてレアボス素材を取りに行くことを伝える。


「じゃあ今日は〈付喪の竹林ダンジョン〉だね。これから行く?」


「まずは〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の中身をギルドの倉庫に放出してからだな。このまんま行ったら素材が入らないぞ」


 何しろ二つの〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉がパンパンなのだ。もうこれ以上は入らないというくらい。

 正直、ダンジョンでパンクする前に〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉が満杯になるとは思わなかった。


「え、えへへ?」


 その誤魔化し方誰に教わったんだ? 可愛いじゃんか。

 鋼の精神力を持つ俺じゃなかったら危うく誤魔化されていたぞ。(鋼の精神力そんなものあっただろうか?)




 その後、ラナから「遅かったじゃないの!」と叱られ、魔石を倉庫に放出し「ひゃわ! 何よこの魔石の数は!? プール? プールなの!? ここで泳ぐ気なのゼフィルス!」「泳がねぇよ」とひと悶着あったが割愛かつあいする。


 Fランクギルド部屋の倉庫が小さすぎて〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉が一つしか空かなかった。どんだけあるんだこの魔石は。あまり数えたくない。


 まあ一つは空になったのでなんとかダンジョンにアタックできるな。一時はどうなることかと…。


 一息ついて、いつもの5人メンバーで〈付喪の竹林ダンジョン〉向かうことにした。





「これが【聖女】の力よ! 『聖光の宝樹』!」


 ラナのエリア範囲魔法が光る。


「びびる!?」


「びびるびびる!?」


 巻き込まれた〈お湯太郎〉君と〈バスケット〉が一撃でエフェクトになった。

 すごく強い。


「どう、この力! ゼフィルス、何か私に言いたい事でもあるんじゃないの?」


「え? ああ。すごく強いな?」


「なんで疑問形なのよ! すさまじく強いでしょう!」


 テンション低くて悪いなラナ。強いことは強いけど俺の出番がないので寂しいこの頃なのだ。


 ダンジョンに突入して、新しく使用可能アクティベートした〈スキル〉〈魔法〉を使いたくてしょうがないとソワソワしている〈姫職〉組に出番を譲ったため、現在5層に到達しても俺とハンナの出番は無い。ラナたちは強くなりすぎてしまった。

 このままではいけない。


「次からは俺も攻撃に参加する!」


「ちょっと待ちなさいよ! 6層からは〈幽霊ハンテン〉が出るのよ、また私の出番でしょ!」


「ラナはもう十分撃っただろうが、俺にも譲るんだ!」


「そんなの横暴よ。王女優先よ!」


「王女優先なんて言葉初めて聞いたぞ!」


 途中モンスターの取り合いが発生したが進行速度に狂いは無く、順調に階層を降りていった。今回は採取も最低限。隠し部屋も全部開き済みなのでサクサク進み、お昼過ぎには救済場所セーフティエリアに到着したのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る