第159話 いつかはやるだろうと、思っていました。
「あ、ゼフィルス君。いらっしゃい。というかどうやって部屋まで来たの?」
〈姫職〉組のステータスを最強流に振り、三人がそれを見てジーンと感動に震えている間に俺はハンナを迎えに行っていた。
ハンナが朝居る場所。もちろん女子寮である。
いや、女子寮は男子禁制なのでその前でハンナを待っていようかと思ったんだ。
そしたらな、
「なんか親切な人たちが色々と案内してくれた」
俺はそう言って後ろを振り返る。
そこにはなぜだか人混みが出来ていた。色々とカラフルな装備がたくさんいて面白い。
「あ~、うん。ゼフィルス君、自分が【勇者】だって忘れてない?」
「忘れてた」
俺は【勇者】。公式
入学した当初はそりゃあチヤホヤチヤホヤ、ヤンヤヤンヤされたわけだ。
あの勧誘合戦が今は懐かしい。すっかり鳴りを潜めていたから完全に忘れていた。
俺が女子寮の前に到着したらなんかいろんな人から声を掛けられて、うっかりパーティメンバーを迎えに来たと言ったら、じゃあ案内してあげるよ~、ってなってこうなった。
男子が女子寮に入っても良いのかと一瞬だけ思ったが、せっかく案内してくれるというのだ、俺は疑問を綺麗に忘れておとなしく従った。
う~む。ここが女子寮。男子禁制の聖地。
ゲーム〈ダン活〉時代、ここも当然のように入場禁止だったので、何気にゲーム含めて初めての潜入である。やばい、そう考えると緊張してきた。
「はぁ。もうちょっと待っててねゼフィルス君。もう少しで終わる、いえ終わらせるから」
「なんだ、なんか手こずってるのか? 俺でよかったら手伝う―――」
そこまで言ったところでハンナの部屋の奥からガラガラドッシャーンッ! という何か、雪崩でも起きたのかという音がした。
何か想像を絶する質量が崩れたみたいな音だった。今のはいったい…。
「なあ、ハンナ――」
「ん? なあにゼフィルス君?」
ハンナが凄い笑顔だ。有無を言わさない迫力を感じる。
しかし、俺は華麗にスルーした。
「お邪魔します」
「あ!? ちょ、ちょっと待ってゼフィルス君!? 今散らかっちゃってるからー!」
抵抗するハンナを俺はひょいっと押しのける、STRその他諸々が初期値のハンナが【勇者】に敵うはずもない。ふはは。
そのまま部屋に侵入した俺が見たものは、部屋一面、いや部屋一杯に広がる真っ赤な魔石の山。
いや、むしろ部屋に入る前から分かっていた。何しろ魔石の雪崩が玄関近くの廊下まで到達していたから。
ハンナの部屋は、もうほぼ魔石に埋め尽くされていた。
俺はくるりと後ろに振り返り質問する。
「おいハンナ。これはいったいなんだ?」
「え、えへへ?」
可愛いけど。
可愛いけどなその答え。でも違うんだよなぁ。
「えへへじゃない。まだ学園に来て一ヶ月も経ってないのにコレはいったいどういうことだ? 部屋が魔石に埋まってんじゃねぇか!」
「ち、違うの。違うんだよゼフィルス君! これには訳があるの!」
「ほう? ちゃんと納得出来るだけの理由なんだろうな?」
「え、えっとその。え、えへへ?」
えへへじゃない。
つまりアレだ。スラリポ中毒ここに極まれりだ。このスラリポ中毒者め!
部屋が埋まるほどスラリポやるなよ! いつかはやるんじゃないかと思ってたが、むちゃくちゃ早かったな一ヶ月経ってないって。
「片付けるぞ」
「……へ?」
「片付けるんだよ。今すぐに! やるぞ! この〈
「ひゃ、ひゃい!」
俺はこの時、〈
カルア、リカ。すまん。君たちへの貸与、少し遅れそうだ。
それから超速で片付け、部屋一杯の魔石をなんとか2つの〈
その間に何度か〈姫職〉組からの催促のチャットが届いたが、理由を話すとハンナが可哀想なので少し遅れるとだけ伝えておいた。後で改めて謝ろう。
「すっごいねゼフィルス君! 床が、床が見えるよ!」
「今までハンナはどんな生活を送ってきたんだ?」
というか何故こんなになるまで放っておいた。このスラリポ中毒者め。きっと魔石がミールに見えていたに違いない。
「ね、ねぇゼフィルス君。その魔石はどうするのかな?」
広くなった部屋を、ハンナはまるで新築に訪れたお客さんの様に見て回っていたが、ハッと我に返って俺にこっそり聞いてきた。
俺は淡々と伝える。
「没収だ」
「う、うそ!?」
「もちろん嘘だ」
「も、もう! 酷いよゼフィルス君!」
「酷いのはハンナだ。この〈
「は、はーい」
はぁ。なんかドッと疲れたが、とりあえずハンナを迎えに来るミッションは済んだ。
その後ハンナを連れてギルド部屋へ向かった俺だったが。
なんとかその話は誤報だと学園インフォメーションを流してもらい、噂は誤解だと正されて事なきを得たが、一部【勇者】ファンが増えたという噂を聞いてさらに頭を悩ませたのはここだけの話だ。なんで増えたし。というか【勇者】ファンってなんだ?
※【勇者】が部屋に無断侵入してアイテムを取っていくのはゲームの中のお話です!
あ、〈ダン活〉ってゲームだったわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます