第152話 キノコダンジョン最奥。一息吐いて作戦会議。




「モンスターってキノコばっかり落とすね」


 現在第15層で大量のキノコドロップを抱えたハンナが呟いた。

 ここまでボスルート一直線で来たため戦闘は最低限に留めていたが、何故か16層に降りる階段前に大量のキノコモンスターたちがたむろって居たためしかたなく戦闘に、いや無双に突入した。

 結果大量のキノコドロップが手に入った。


 俺はハンナの感想を聞いてコクリと頷く。


「別名〈キノコダンジョン〉なんて呼ばれてるからなここ。あ、ドロップするキノコは〈食用〉と〈食用毒キノコ〉、あとただの〈毒キノコ〉があるから注意しろ」


「それって何が違うの? 特に〈食用毒キノコ〉と〈毒キノコ〉」


「良い質問だぞハンナ」


 なかなかに鋭い質問だ。成長したなハンナ。

 いや、思い返せばハンナは鋭い質問しかしていなかった気がする。

 物怖じせず疑問を口にしちゃうからなハンナは。今までも何度かそこ質問しちゃう!? そこに痺れる憧れる~と思った事は何度もある。


「まあ単純に〈食用〉と〈食用毒キノコ〉は【調理師】の領分。〈毒キノコ〉は【薬師】【錬金術師】の領分だな」


 この素材をちゃんとした職業ジョブがちゃんとしたスキルで作製するとアイテムになる。毒物や料理アイテムだな。

 しかし適性の無い〈食用〉を【錬金術師】が扱ったって失敗する未来しか無い。というわけだ。

 ちなみに〈食用毒キノコ〉は【調理師】の〈スキル〉『毒抜き』などで〈食用〉にしたり、そのまま使ってモンスター用の毒餌どくえにするなどして使用するぞ。


「ま、とりあえずドロップしたキノコは必ず〈メドラ〉で『鑑定』するんだ。間違っても毒キノコ類は食べるなよ?」


 厄介な毒キノコは一口食べただけでHPをがっつり持ってかれて戦闘不能になったりすることもある。逆にそのまま食べただけでMPを回復してくれるキノコなんて物も存在する。

 そっちは〈薬用キノコ〉なんて呼ばれているが、ここは〈毒茸の岩洞ダンジョン〉なので毒キノコしか出ない。〈薬用キノコ〉の登場は中級以降だな。


 そのまま16層を巡り、とある場所で立ち止まる。


 もうお馴染みになりつつある光景にメンバーが浮き立って聞いてきた。


「ゼフィルス! あるのね、ここに!」


「おうよ。鍵出してくれ」


「はい、ゼフィルス君」


 すでに用意が出来ていたのかハンナが〈扉の鉄鍵〉を手渡してくる。

 お察しの通り、隠し扉だ。

 今回は道沿いにある岩洞のただの壁にしか見えないが、よく見れば小さく鍵穴が空いている。保護色になっているのであると分かっていなければ見逃してしまうだろうな。

 俺の場合ゲームの頃の知識に加え『直感』スキルを使っているのでまず見逃す事は無い。


 鍵穴に〈扉の鉄鍵〉を差し込み隠し扉を開ける。岩洞の壁が一部凹み、ゆっくりと内開きで開いていく光景はなかなかに心を躍らせる。本当に隠し部屋って感じがしてドキドキするんだ。ゲームでは味わえなかった感覚だ。そしてさらにもう一つ、ここには心躍らせるだけの理由がある。



「「金箱!」」


 ラナとハンナが中に鎮座する金色の宝箱を見て叫んだ。


 二人とも我先にとダッシュした。行動が早い。

 AGIはラナが50超え、ハンナが初期値の10と、先は見えたようなものに思えたが、意外にも競り合っている。


「私の勝ちです!」


「うー、負けたわー」


 何故かハンナが勝った。


 つまり先に宝箱に到達したのはハンナだった。いつの間に競争になっていたのかというツッコミよりもなんでハンナが勝つんだ? といった困惑の方が大きい。これが〈金箱〉への執念だとでもいうのか? ハンナの執念が凄い件。


「ゼフィルス君! 開けていい!?」


 何故か勝者の特権のようにハンナが聞いてくる。確か次はエステルの番だったはずだが?


「構いませんよ。次に開けさせていただきますから」


 大人の対応でエステルがこっそり俺に言ってきた。せっかくなのでお言葉に甘えるとしよう。


「いいぞ。開けてみな」


「やった! 〈幸猫様〉良い物をよろしくお願いします!」


 了承するとハンナがその場で飛び上がって喜び〈幸猫様〉に祈った。

 しかし、残念だが隠し扉の宝箱は中身が決まっているので〈幸猫様〉でもどうしようも無いと思う。

 まあ、今回の〈金箱〉は良い物だがな。


「これって、〈空間収納鞄アイテムバッグ〉!?」


 その通り。今俺たちが使っているのとまったく同じ〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉だな。つまり二個目だ。


 これでカルアたちのパーティも素材の確保に余裕が出来るようになるな。

 買うと高いのだこのバッグは。

 出来るならドロップを狙った方が良い、こうして固定の宝箱からいくつか入手する事が可能なのでそれまで購入を見送っていた経緯がある。


 〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:大)〉の有無はダンジョン攻略で本当に重要なポジションを占めるためなるべく容量の大きいものを複数手に入れておく事を推奨する。

 お財布とも相談して早めに入手しよう。


 とりあえずこの新品の〈空間収納鞄アイテムバッグ〉はひとまず使わずに仕舞っておく事にした。新品の状態を後続にプレゼントしてあげたいとはハンナの意見だ。いいなぁそれ。思いやりが温かくてとても良い。俺も賛成しておく。


「さて、次はボスだな」


 この〈毒茸の岩洞ダンジョン〉は隠し部屋が一つしか無い。その代わり中身は〈金箱〉なのだが、少ない、もうちょっと欲しいと思うのはゲーマーのさがだな。

 そんなわけで隠し部屋がこの先に存在しないなら、後はボスしか無い。


 モンスターをほぼ無視して進行してきたため救済場所セーフティエリアに着いた時間はまだ12時だった。

 そこからいつも通り昼食休憩を取り、ボスについてを説明していく。


「今回のボスは〈マザーマッシュ〉。通称:〈ママ〉なんて呼ばれてるな」


「ママ……」


 ハンナがぽつりと呟く。

 変な通称名を付けるのは〈ダン活〉ではお馴染みなので許してほしい。


「こいつは毒の胞子を一定期間で放ってくるから〈毒〉状態になったら即回復しろ。ラナ、頼んだぞ」


「任せてよ。でもゼフィルスも手伝ってよね」


「もちろんだ」


 魔法にはクールタイムがある。それにラナの『浄化の祈り』はLVが低いので消費MPがやや多い。攻撃系と違い、『浄化の祈り』はLVを上げればクールタイムと消費MPが減少する仕様なのだ。

 つまり全員に掛けるには時間とMPがやや厳しいのだ。そのため俺も『リカバリー』でフォローに回る予定だ。


「〈ママ〉はその名の通りチビたちを無数に出してくる。ヘイトは〈デブブ〉の時と同じだ。〈チビ・マッシュ〉たちが出ている間に〈ママ〉へ攻撃すると〈チビ・マッシュ〉から総攻撃を受けるから気をつけろ」


 とはいえ〈デブブ〉の時のように時間経過で回復するということは無い。

 その代わり〈チビ〉を生み出しても〈ママ〉のHPは減らないし、痩せ細ったりもしない。


「〈チビ〉たちも〈サボッテンダー〉の時と同じように毒攻撃をしてくる、スリップダメージにはくれぐれも気をつけてくれ。ラナは状態異常回復を併用しつつ、全員の継続回復を切らさないように頼む」


「わかりました」


「分かったわ」


「あとは、とにかく大量に〈チビ〉たちを生み出すから、そうしたら範囲攻撃で一掃してしまおう。何か質問がある人」


「良いかしら?」


 シエラから手が挙がる。


「もちろんだ」


「その〈マザーマッシュ〉は直接攻撃はしてくるのかしら?」


「両腕があるからな。殴りつけてくるぞ。しかも両腕に属性をまとってくる事もある」


 ついでに二足歩行なのでむっちゃ歩いてくる。しかもデカい。

 ただ動きがややのろい。


「なるほどね、まとめると今まで出てきたボスたちの特性を多く秘めていると考えて良いのかしら?」


「そうだな。初級ダンジョン、ラストのボスだからな。今までのボスの集大成とも言えるかも知れない」


 キノコだけど。


 集大成がキノコで良いのか? と思わなくもない。


 まあ、それなりに強いので、よーく対策を皆に話しておいて、食後。


 13時を過ぎ、俺たちはボス部屋の門を潜った。




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