第153話 初級ダンジョン最後のボス戦!




「マンマ、マンマ」


「あれが〈マザーマッシュ〉だ」


「マンマ……」


 俺の指さす先を見てハンナが目をパチクリして呟いた。


 〈毒茸の岩洞ダンジョン〉の最奥で俺たちを待ち構えていたボス、〈マザーマッシュ〉。

 体長3mという高身長だが、横にもとても太い。とても恰幅の良い体形をしている。さらに上に広がる傘。たとえ雨が降ろうが濡れる心配の無さそうな大きなそれは赤をベースに紫の斑点が入っておりとても毒々しい。間違って食べたら身体が巨大化してしまうかもしれない。(そんな事はないのでご安心を)


 さらに極太の両腕と大根足を持ち完全二足歩行を実現。

 顔もちゃんとあり、大体中央辺り。道中に戦闘した〈ポイズンマッシュ〉と同じく胴体(?)に赤く光る目とギザギザの牙の様な口をした顔面がくっついている。

 そのせいで身長は高いのに近接戦闘したら顔面がやや下の位置にあるのでなかなかにやりづらいという噂だ。


 のそりとゆっくりとした動作でボスが動き出す。


「マンマー!」


「全員集中攻撃!」


「マンマ-!?」


 なんとなく、「ちょっと、卑怯よ!」と言われたような気がしたがきっと気のせいに違いない。


 実は〈マザーマッシュ〉は動きがのろい。突進などの技はしてこないし、〈チビ〉たちを生み出す前は遠距離で攻撃すれば反撃される事も無かったりする。その代わりHPがかなり高いので削るのは大変だ。

 初手でまず集中攻撃、〈マザーマッシュ〉攻略のセオリーだな。


「『獅子の加護』! 『聖魔の加護』! 『光の刃』!」


「『ファイヤーボール』! 『フレアランス』! 『アイスランス』!」


「『シャインライトニング』! 『ライトニングバースト』!」


 遠距離魔法が良い感じに突き刺さり、ダメージを稼ぐ。


 おお! 初の3段階目ツリー魔法、『ライトニングバースト』を使ってみたが、何これ凄いカッコいいんだけど! まるで剣からブレス放射しているみたいだ! 極太ビームを発射とかロマンがありすぎだろう! やっばい、これ超楽しい! MPなんか気にせず連打したい!

 


「マンマ-!!」


「ゼフィルス、楽しいのは分かったから正気に戻りなさい。ボスが怒ったわよ。『挑発』!」


 おっと、感動に打ち震えていたらシエラにたしなめられてしまった。くう、この感動をもうちょっと味わっていたかったのに! おのれボスめ、許さん!


「マンマ-!」


「マンマ-じゃねぇやかましい! この感動を返せボスめ! 『ソニックソード』!」


「マ!?」


 俺の怒りを込めた一撃が〈ママ〉に直撃し、クリティカルヒットしてしまった。

 〈ママ〉がクリティカルダウンする。大チャンスだな!


「総攻撃!」


「え、ちょっと! まだクールタイムが終わってないわよ! 『光の柱』!」


「『ファイヤーボール』! あわわ、換装すればもう一回撃てるかな」


 思わぬダウンに後衛組が慌ててしまった。

 うん。怒りにまかせてとんでもなく良いのを決めてしまったな。まさか初っぱなからダウンが取れるとか思ってもみなかった。すまん。


 ハンナが慌てたように〈能玉〉を交換しようと奮闘しているが、おそらく『フレアランス』のクールタイムが終わるのを待った方が早いと思われる。


「はっ! 『騎槍突撃』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』!」


「『シールドスマイト』!」


「いくぜ。 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 『ハヤブサストライク』! 『ライトニングスラッシュ』!」


「マ!?」


 前衛組の攻撃が突き刺さり、大きなダメージを与えたな。

 俺も新しい3段階目ツリースキル『ハヤブサストライク』と『ライトニングスラッシュ』をお披露目した。

 すごく格好よくて強い…。〈ママ〉のHPががっつり減っていくのをみるのが凄く楽しいです。

 さすが3段階目ツリーのスキルと魔法。アクションが派手で素晴らしいの一言に尽きるな!


「ちょっとゼフィルス! 何それ格好いいじゃない! 『光の刃』!」


「だろ! うお!? 当てる気か!?」


 俺の新スキルのかっこよさにラナが珍しく目測を誤った。褒め言葉と共に放たれた『光の刃』を辛うじて避ける。俺が振り向いてなければ直撃していたぞ!?


「あ、間違えちゃった。もう、ゼフィルスがあんな格好いいものを見せるのが悪いのよ!」


「とんだ責任転嫁!?」


 ラナは見ている物に向かってスキルを放つクセがある。今回『光の刃』を撃つタイミングがズレたのと、俺の方を向いていたのとで間違えてしまったらしい。

 しかし、言っている事はツンデレなので許してやろう。

 ちなみに後でちゃんと謝ってもらった。これだからラナのツンデレは好きなんだ。


「そこの二人、集中しなさい。ダウンが終わるわよ」


「ラナ様、後でお話があります」


「ひう…」


 見るとダウンから復帰した〈ママ〉がむちゃくちゃ怒っていた。

 ヘイトは完全に俺の方へ向いている。ダウンさせた上に高火力をガンガン叩き込んだからなぁ。


「マンマ-! マンマ-! マンマ-!」


「胞子攻撃だ。シエラ以外は下がれ!」


 〈ママ〉がデカい傘をフリフリ揺らすと周りに紫色の胞子が飛ぶ。

 あれに触れると〈毒〉を食らう事があるので一旦下がって様子見する。

 問題は〈ママ〉がフリフリした状態で俺を目指して歩いてくるところ。怖いです。


「『挑発』! 『ガードスタンス』!」


 クールタイムの終わったシエラの挑発にようやくタゲがシエラに変わった。

 シエラは『状態異常耐性LV10』を持つのでほぼ〈毒〉にならない。

 あの胞子の鎧を纏った〈ママ〉にも対抗出来る。さすがシエラ、頼りになるぜ。


「マンマ-!」


「ぐっ。結構重いわね」


「『回復の祈り』!」


 ガツン、と重い音がしてシエラの盾に〈ママ〉の拳(?)が突き刺さる。

 動きが遅い代わりに〈ママ〉の拳(?)は威力が大きい。盾越しでも少々ダメージを受けたシエラを見てラナが回復を飛ばす。


「マンママンママンマ!!」


「眷属召喚だ! 全員下がれ! シエラも戻ってこい!」


 続いての行動にさらに指示を出す。

 〈マザーマッシュ〉の眷属は〈チビ・マッシュ〉。

 胞子が地面に落ちるとそこからニョキニョキっと〈チビ・マッシュ〉が生えてきた。

 その数は〈サボッテンダー〉の比ではない。ざっと見て30体は居るだろう。

 取り囲まれたらいくら硬いシエラとて危険だ。


 一旦シエラを下げ、〈チビ・ゴースト〉の時と同じく二人で分かれて受け持つことにする。


「『アピール』!」


 シエラはまだ『挑発』のクールタイムが終わっていないのでまずは十数体を俺がもらい受ける。


「『シャインライトニング』! どんどん攻撃していけ! ただし〈ママ〉には当てるなよ!」


「っは! 『レギオンスラスト』!」


「『光の柱』!」


「『ダークジャベリン』!」


 全員の攻撃でみるみる〈チビ・マッシュ〉が減っていく。

 ハンナは結局〈能玉〉換装したんだな。闇属性の貫通効果のある『ダークジャベリン』が〈チビ・マッシュ〉の集団に突き刺さる。


「『挑発』!」


 俺とは反対側にいるシエラが残りの〈チビ・マッシュ〉たちのヘイトを集めた。


 俺の所は残り三体なので皆にはシエラの方の処理に動いてもらう。


「『ガードラッシュ』!」


 防御しながらの斬撃。

 俺の前に居た〈チビ・マッシュ〉はカウンターを受けてエフェクトの海に沈んでいった。

 『ガードラッシュ』は他のスキルに比べて見た目は地味だが実用性は凄く高いな。


 こちらの処理が終わり、俺もシエラの受け持つ〈チビ〉の処理に回り殲滅。


 再びシエラが〈ママ〉のヘイトを受け持って全員で遠距離攻撃、〈ママ〉のHPを削っていった。


 その後、眷属召喚をされる事2回、これを無事に処理し終える。〈デブブ〉戦の経験があったためさほど苦労することも無かった。

 そしてHPがレッドライン残り10%に突入した〈ママ〉が怒りモードに入った。〈竹割太郎〉の時と同様に炎の属性を纏い、攻撃の威力が上昇し、燃える拳を放つようになる。

 「キノコ、お前燃えてるのに平気なの!?」と多くの〈ダン活〉プレイヤーを困惑させた〈ママ〉の最後の奥の手だ。燃えるママパンチを食らったらタンクとて危うい。


 まあ、対策があるので余裕なのだが。


「シエラ戻ってこい! 全員遠距離から総攻撃!」


「マ!?」


 たとえ威力は高くなっても遠距離攻撃と移動速度に乏しい〈ママ〉ではこうされてしまうとどうにも出来ないわけで…。

 〈ママ〉が「嘘でしょ!?」みたいな目をしていた気がしたが、きっと気のせいだろう。


「マ…マ…マー……」


 全員からの〈スキル〉〈魔法〉の連打が突き刺さり、とうとうそのHPが0になり〈マザーマッシュ〉はエフェクトの海に沈んで消えた。


 残ったのは大量のドロップと銀色に光る〈銀箱〉1つだった。


 これにて初級ダンジョン、全クリア。




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