第145話 金箱2個ドロップ! エステルパワーアップか




「さて、誰が開ける?」


「「はい!」」


 ラナとハンナが勢いよく手を挙げた。ハンナが二人に増えた!

 いや、もう一人手を挙げていた人物がいる。そう、俺だ。


「ローテーションって話じゃなかったかしら?」


 俺たち三人の挙手を軽くスルーしてシエラが冷静に言った。


「前回は確か、〈デブブ〉でしたか? 私が開けた記憶がありますが」


 エステルの言葉に全員の視線がハンナが持つ〈マナライトの杖〉に注がれる。


「エステル違うわよ。確か〈バトルウルフ〉を周回していた時も何回か出たわ」


「そうでしたね。でもあの時ってレアボスの〈ビューティフォー現象〉でしたか? あれでうやむやになっちゃったんですよ」


 シエラとハンナが記憶を一生懸命掘り出して言う。つまり、誰も次の番を覚えていないという事だ。

 そうなると、


「ハンナ」


「ん、何?」


「俺たちは〈エンペラーゴブリン〉の再戦の時に開けたから今回は見送りだな」


「えぇ、そっかぁ」


 俺の言葉に残念そうに肩を落とすハンナ。

 多分一番最近の〈金箱〉は土曜日の〈エンペラーゴブリン〉再戦の時の〈金箱〉だな。


 俺とハンナが一つずつ開けたので今回は〈姫職〉組に譲るとしよう。

 ま、次に金箱が当たれば開けさせてもらえば良いさ。


 結局その後、ラナとシエラで〈金箱〉を開ける事に決まり、二人が配置についた。


「んん~。やっぱり〈金箱〉開ける瞬間って良いわよね。こう、何度も味わいたい気分になるのよ」


 人はそれを中毒と呼ぶ。

 しかし、気持ちは凄くよく分かる。ガチャで言うところの〈スペシャル〉確定ガチャを回す高揚感と似た感じだからな。ずっと引ければ良いのに。


「開けても良いかしら?」


「待て、ちゃんと〈幸猫様〉に祈ったか? 祈らなくちゃ良い物も当たらないぞ」


「…………。そうね」


 何か言いたそうなシエラだったが、郷に入れば郷に従えとでも思ったのか素直に祈りだした。ラナも、そして俺とハンナも祈る。ついでにエステルも祈った。


 どうか良い物が当たりますように! 〈幸猫様〉どうかお願いいたします!



 一通り儀式が終わるとまずはラナから開けた。


「〈斧〉よ! むむむ、重くて持てないわ……」


「〈斧〉か!」


 〈竹割太郎〉の〈金箱〉産ドロップで〈斧〉って言ったらもうあれしか無い。

 左か、右か、それとも怒りか!

 ラナが顔を赤くして持ち上げようとしているそれを覗き込む。


「〈竹割太郎〉の怒り来ましたーー!! 激レアだーー!」


「ゼフィルス君、大当たり!?」


「おうよ。超大当たりだぜ!」


 〈竹割太郎〉の〈金箱〉からは3種類の〈斧〉がドロップする。

 お察しの通り〈竹割太郎〉が装備していたボス装備だ。

 その中でも左の火属性、右の氷属性、そして怒りの雷属性〈斧〉が存在する。

 ボス装備というのは通常装備より強い事が多い。何しろボス装備だからな、装備のボス・・・・・でもある(違う)。


 そして怒りの雷属性は3種類の中で最も強力な〈斧〉だった。さすがは〈幸猫様〉の恩恵。〈金箱〉2個は格が違うぜ。

 早速皆にも〈メドラ〉で性能を確認してもらう。


 ――――――――――


 〈怒りの竹割戦斧:攻撃力56、雷属性、

 『唐竹割りLV5』『アンガーアックスLV7』『怒りLV1』〉。


 ――――――――――


 非常に強い。攻撃力56という数値がまず凄い。初級上位ショッコーで取れるドロップ品でこの数値を超える装備は存在しないと言っていいほどだ。たとえレアボスドロップですら超える事は出来ない。


 また雷属性を纏っており、通常攻撃や〈スキル〉による攻撃にも雷属性が乗る。

 さらにスキルが3種類も付いているのだからさすがは〈金箱〉産。

 『唐竹割り』は攻撃スキルだな。何の効果も無い攻撃特化のスキルなので威力は高い。

 次の『アンガーアックス』は雷属性が乗っかった攻撃スキル。LV7なので超強力だ。

 最後の『怒り』は自己バフだ。LV1だと、発動中攻撃力が1.8倍になる強力な能力だが、〈スキル〉が使えなくなってしまうデメリットがある。所謂〈激昂状態〉。


 さて、どうしたものかこの大当たり。

 ゲーム時代なら相性悪くてもとりあえずメンバーに装備させていただろうが、今のメンバーは全員この大当たりより装備強いんだよな。

 またオークションに掛けるか、ギルドに寄付してだれかメンバーが使いたくなった時に貸与するか。オークションに掛ければ800万ミールにはなるだろう。8桁に届く可能性も大いにある。

 しかし、良い当たりは出来れば自分で使いたい。ま、とりあえず帰ってから皆で相談だな。


「次は私ね」


 一通り皆で騒ぎ、次にシエラが〈金箱〉を開くと、


「これは、レシピかしら?」


「〈金箱〉産のレシピだと!?」


「わ、ちょっと急に近くで叫ばないで、びっくりするじゃない」


「悪い。あと、ちょっとそのレシピ貸してくれ」


「…まあ、いいわよ」


 シエラからレシピを受け取る。しかし、読めない。せめてどのジャンルのレシピかくらい知りたかった。


「ねえ、どうなのゼフィルス! それも大当たりなのかしら?」


「いや、さすがに解読前のレシピは俺も読めない。だが、大当たりなのは間違いないぞ」


 何しろ〈金箱〉産のレシピだ。

 以前も言ったがレシピは量産に向いている。これが〈木箱〉産なら普通で済んだのだが、レシピが〈銀箱〉産になればレア物が作れるレシピとなり、価値が一気に跳ね上がる。

 何しろ本来〈銀箱〉からドロップするようなアイテムや装備が作れるようになるのだ、それも何度でも。そりゃ価値が大爆発する。


 そしてそれが〈金箱〉産だったら? もうね、大変ですよ。大変な事ですよ。

 しかもだ、今回〈竹割太郎〉からのドロップという事で俺は一つの可能性を感じている。


 今回〈付喪の竹林ダンジョン〉に来た目的は職業ジョブLV上げとボスの素材集めだった。

 何故、ボス素材を集めているのか、それはエステルが3段階目のツリーで解放されるとあるスキルを有効に使用するためだった。

 その物作りのためここの無機物素材が多く必要だったのだが、もしこれがその無機物素材を利用した、とある〈からくりのレシピ〉だったとしたら、エステルがさらにパワーアップする。


 俺が作成しようと思っていたジャンルの〈金箱〉級が作れる可能性が出てきたのだ。

 これは期待大。

 レシピを読むためのアイテムは今は持っていないため、解読出来ないのが非常に惜しい。


 是非ともマリー先輩の〈幼若竜〉を貸していただかなくては!


「全員、今日の周回はここまでとする。俺はこのレシピをすぐにでもマリー先輩の下へ持っていきたい。異論のある者は挙手を」


「良いと思うわ。そろそろ日が暮れるし。切り上げ時だと思う」


「では、私は救済場所セーフティエリアの片付けをしてきますね」


「あ、エステルさん手伝います」


 俺の一言に全員異論は無いようだ。

 シエラに言われて気がついたがすでに日が沈みかけているような時間帯だった。

 ボス周回に熱中しすぎてうっかりしていたぜ。


 全員で後片付けを終えて今日はそのまま帰還する。


 初ダンで解散し、俺はその足でマリー先輩の下へ向かった。


 今回は〈金箱〉産レシピ。どうか俺の欲しいものでありますように。

 〈幸猫様〉お願いします!




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