第124話 ちんぷんかんぷんなものは専門家にぶん投げる




「ゼフィルス様、少々よろしいでしょうか?」


「ん? どうしたセレスタン」


 朝、ギルドでいつも通りメンバーと待ち合わせをしているとセレスタンがやってきた。

 何か俺に言いたい事があるらしい。


「実はギルドの運営方法と今までの活動内容を拝見させてもらったのですが、もう少々資金運用について改善すべきかと進言いたします」


 ぐっ。なかなか良いところを突いてくるじゃないかセレスタン。

 そのストレートに物申す執事姿しつじすがた、嫌いじゃないぜ。


 と、冗談はさておき、資金運用か…。

 実を言うと俺も頭を悩ませているポイントの一つだったりする。


 ゲーム〈ダン活〉時代、ギルドで稼いだ報酬はプレイヤーの総取りだった。

 それは戦闘職がダンジョンで稼いできたミールや素材も。

 生産職が作りまくったアイテムや装備、それを売ったミールも、全てはプレイヤーの物だった。


 しかし、リアルとなると色々差違さいが出てくる。

 皆の報酬を俺が独り占め、生産職の作った物も俺の物、そんなわけにはいかない。


 結果どうしていたかというと、今までは山分けにしていた。

 ダンジョンで稼いだ分は全部山分けだ。一部例外もあり。

 そしてその一部を任意でギルドに寄付する。


 しかしこの方法は、まあ言ってしまえば一時凌ぎだな。

 パーティの時の分配方法がそのままギルドでも適用されてしまっている。パーティの時なら問題は無かったが、ギルドという大所帯になると運用資金、つまりギルド予算が発生するために山分けの一部寄付という方法は色々と問題がある。あまり良いとは言えない。


 いつかは変えたいと思っていたんだが、優先順位の問題とダンジョンが楽しすぎたせいで先延ばしにしていた。


 だが〈ダン活〉のデータベースと言われた俺でも知らない事は分からない。

 まだまだリアルは勉強中だ。どんな方法にすれば効率が良いのかよく分からない。


 そしてついにセレスタンから指摘をいただいてしまったわけだな。


「よろしければ、ぼくに任せてはいただけませんか?」


「ん? どういうことだ?」


「いくつか、運用方法について案をお持ちいたしました」


 そう言ってセレスタンは微笑みを浮かべながらなんてことのないように書類を渡してきた。

 え? マジで? 用意しちゃったの?


 そんな気持ちで書類を受け取り中身を拝見する。

 おお、マジでマジだ。さすがは執事だぜ。

 書類仕事も執事の仕事なのかはともかく。いい仕事をしている。


 書類には簡単な方法から、人を雇っての本格的な経理まで、いくつかの案が添えられていた。

 俺には思い浮かばない方法だ。ゲームで経理とか、そんな発想がまず無かった。


 なるほど。俺に分からない事は専門家に任せれば良かったのか。全部自分でやる必要は無い。それを俺は今初めて身にしみて理解した。


「たった一日でこれを用意したのか、すごいなセレスタン」


「光栄です」


 いや、マジでセレスタンの能力の高さに驚いた。

 確かにSランクギルドとか10桁10億のミールに到達するからなぁ。経理とか必要かも知れない。

 ゲームで経理係が必要になるのかぁ。リアルって凄いなぁ。


「よし、決めた! 今はまだFランクギルドに過ぎない〈エデン〉だが、いつかはSランクに成るんだ。セレスタンのこの案を採用する方向で進めよう」


 俺が選んだのは人を雇って経理を任せる方法だった。

 正直資金運用についてとか全然分からないんだし専門家に任せてしまいましょ。


「かしこまりました。ではいつ頃雇い入れますか?」


「Dランクになってからだな。それまでは自分たちでやりくりしよう。セレスタンに任せても良いんだろ?」


 案の中にはセレスタンが運用資金の面倒を見る方法も載っていた。

 今〈エデン〉はただのFランクギルド。さすがに経理を雇い入れる余裕は無い。

 資金的にもメンバー数的にもDランクからが妥当なところだろう。


 それまではセレスタンに調整を手伝ってもらう。そして色々と教えてほしい。


「かしこまりました、お任せください。ついてはその資金運用の方法なのですが3枚目の書類がよろしいかと」


「これか」


 セレスタンに言われた書類を取り出して読む。


「戦闘職は収入総額の5割をギルドに入れ、残りをパーティで等分。売らなかったドロップ類はギルドに入れ、メンバーへ貸与する。個人専用にしたければ別途ギルドから購入も可能。ただしこれについてはメンバーとよう相談そうだん―――」


 その書類には色々と取り決めが書いてあった。長いので省略するが。

 要は基本的には売ったドロップ収入の半分をギルドへ入れ、残りを山分け。

 基本的に個人ではなくギルドで使う物はギルド予算で購入する事、など。

 他にも様々な細かい事項が並んでいた。例外についての項目とかいくつあるんだ?


 あ、あと生産職も載っているな。取ってきた素材の利用権とか生産のノルマなど色々書かれている。ちょっとこれを全部理解するには時間が足りない。生産職の項目はかなり複雑になっている模様だ。


 セレスタン、本当にこれいつの間に用意したんだ? 昨日か? 昨日あの後解散してから作ったのか? どんな事務処理能力してんだろうか…、【バトラー】にそんな〈スキル〉は無かったはずだが……。


 しかしこの書類、軽く読んだ限りでは問題無さそうに思える。


 つまり今までゲーム感覚で俺が支払ってきたアレとかソレとかが、ギルド予算で購入しても良いというわけだな。むしろ個人で購入した物をギルドが使う事は禁止する、なんて項目もある。あ、例外もちゃんとついているな〈モチッコ〉を含むぬいぐるみ各種とか。


 そうして読み進めているとギルドの扉がガラリと開いた。


「おはようゼフィルス!」


「おはようございます。ゼフィルス殿、セレスタンも」


 ラナとエステル、そしてシエラが部屋に入ってきた。

 俺とセレスタンも挨拶を返す。


「おはよう、三人とも」


「おはようございます。ラナ殿下、エステル様、シエラ様」


「おはよう。二人は何をしていたのかしら?」


「ああ。今セレスタンと〈エデン〉の運用方法について相談をしていてな」


 最後に入ってきたシエラが近づいてきたので書類を見せて説明する。


「なるほどね。確かにそうね。今までの方法は私たちが固定パーティだったから良かったものの。確かに今後の事を考えれば変更した方が良いわね」


「経理? 人を雇うの?」


 シエラが納得して頷き、ラナが首を傾げて聞いてくるので応える。


「先の話だけどな、Dランクになったら人を雇う方向で考えている。とりあえず人数もギルド予算も少ないうちは自分たちでやりくりしなくちゃならんが」


「それなら私も協力させてもらうわ。これはセレスタン一人では手が回らなそうだもの」


 書類を軽くパラパラめくっていたシエラが1つ頷いてそう提案してくれた。


「お気遣い感謝いたしますシエラ様」


 結局その後の話し合いで、今後はこの案の通りに進めていく事に決まり、セレスタンがメインで資金運営を、シエラが補助をするという形で話は纏まった。


 いやぁ、優秀な執事バトラーが加入してくれたようで俺は嬉しい。




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