第125話 セレスタンまたも活躍。問題解決に奔走する。




「おは」


「カルア様、ちょうど良いところにお越しくださいました。少々お話をよろしいでしょうか?」


「ん、誰?」


 ギルドの運用について一段落したところで再びギルドの扉が開き、今度はカルアが入ってきた。カルアとリカは毎朝ここで待ち合わせしてダンジョンへ向かう。


 しかし、今日はセレスタンがいつもの微笑みを浮かべながら声を掛けた。

 そういえばこの二人初対面だったっけ?


「カルア紹介しよう。〈エデン〉の8人目のメンバーでセレスタンという」


「初めましてカルア様。【バトラー】に就いております。セレスタンと申します。以後よろしくお願いいたします」


 セレスタンが優雅に礼をして自己紹介をする。いいなその礼。かっこいいな。


「ん。カルア。【スターキャット】。よろしく」


 それに対しカルアの淡白なことよ。

 しかし、セレスタンは気にした様子も無く話を進める。


「時にカルア様に聞きたいことがございます。よろしいでしょうか?」


「何?」


「はい。ギルド〈エデン〉に加入する際、ゼフィルス様から受け取った献上金についてなのですが」


「献上金?」


 セレスタンの発言に思わず疑問の声が出た。

 献上金ってなんだ? 契約料じゃないの?


 ゲーム〈ダン活〉時代、「猫人」を雇い入れるためには契約料が必要だった。別名スカウト料とも言われている。

 「猫人」が傭兵なためギルドに三年間在籍してもらうのに契約金が必要、という設定だな。

 実はこれ公式に公開された情報ではなく、おそらくそうではないかという〈ダン活〉プレイヤーたちの予想でしかなかったのだが、かなりの高確率で当たりだと目されていた。

 まさか、違うとでも言うのか?


「……なるほど。では一からご説明しましょう」


 俺と同じくカルアも首を捻るばかりだった光景を目にし、セレスタンが一から説明をくれた。なんだか悪いなぁ。


 しかし、その内容はゲーム時代の記憶でも知らない驚きの内容だった。


「〈獣王ガルタイガ〉?」


「はい。Aランクギルド。猫人のみで構成された傭兵ギルド〈獣王ガルタイガ〉です。ご存知ありませんかカルア様」


「ん。聞いたことあるような気が、するかもしれない」


 カルアの口からどちらともつかない答えが出る。どっちだよ。


 しかし、契約金ではなく献上金。そしてAランクギルド〈獣王ガルタイガ〉……。

 なんか話の展開が読めてきた気がする。


「ゼフィルス様はお察しが付いたようですが、このままご説明を続けさせていただきます。本来なら猫人の方は〈獣王ガルタイガ〉に所属することが慣例、いえほぼ決定事項となっております。理由は傭兵についての勉学のためと言われております」


 ふむ。セレスタンの話を噛み砕くと、本来はカルアも〈獣王ガルタイガ〉に所属することが決まっていた、とそういうことだな。


 「猫人」は、そのほとんどが傭兵稼業を行なっている。これは発現職業ジョブがすべて戦闘職だからだ。しかも斥候を兼任している場合が多く、とても使いやすい。


 その傭兵のノウハウを学ぶ場として〈獣王ガルタイガ〉にまず在籍させるらしい。

 周りは皆、別の団の「猫人」、さぞ学ぶことも多いだろう。


 ってマジか! そんな設定があっただなんて俺は知らなかったぞ!

 新しい〈ダン活〉の設定に思わず前のめりになってセレスタンの話に集中する。一字一句聞きのがせない!


「猫人は団結力が強く、別の団でも時には組むこともあります。それを子どものうちから学ばせる場が〈獣王ガルタイガ〉です。ここからが本題ですがカルア様。別のギルドに在籍する場合〈獣王ガルタイガ〉に筋を通す必要がございます。おそらくカルア様の団からもお話が届いているはず。それを引き抜かせていただくための献上金、いえ契約料がゼフィルス様から支払われたミールになります。ですが、その筋もミールも何も届いていないと〈獣王ガルタイガ〉から連絡が…」


「………?」


 カルア、首を斜めにかしげる。


 俺は汗がたらりと垂れた。


 要は、カルアの所属していた団からも、「うちのカルアを頼むな」といったことを〈獣王ガルタイガ〉に伝えられていたはず。〈獣王ガルタイガ〉は「おう。任せときな」と応えたのだとする。

 しかし、実際には別のギルドに在籍してしまった。

 これはつまり、本来〈獣王ガルタイガ〉に在籍する予定だった貴重な「人種」カテゴリーを俺が引き抜いたということに他ならない。


 いくら勉学の場だとしても、強カテゴリーである「猫人」を勉強させるだけに留めるなんて勿体無い事はしない。ちゃんと戦力として数えられていたはずだ。

 〈獣王ガルタイガ〉も傭兵ギルドとしての面子を潰された形になる。その辺をしっかり円滑に解決するための筋が、あの契約金500万ミールだったというわけらしい。


 マジかよ。そんなことゲームでは一言たりとも聞いたこと無いぞ?

 いや、待てよ?

 確かにカルアは猫人傭兵だけどこれをリアル的に考えた場合、俺は〈エデン〉のメンバーの中でカルアだけミールを出してスカウトした形になるのか…。


 先ほどの資金運用の話もそうだが、ゲームとリアルではミールの扱い方について差異さいがある。

 確かにカルアだけミールでスカウトというのはゲーム的には問題無いが、リアル的に見ると問題ありまくりな気がする。端的に言えば不公平だ。


 するとだ。もしかしたらこの設定は、リアル〈ダン活〉がその辺の齟齬を埋めるためにわざわざ作った新しい設定なのかも知れない。と考えてしまうのは俺の考えすぎだろうか?

 もしかしたら公開されていないだけの裏設定かもしれないが。


 っと、それはともかくだ。

 知らないうちにAランクギルドに所属が内定していた人物を引き抜いてしまったのは些かまずい。

 いや、俺はまずくない。セレスタンの話通りなら、ミールを支払えば筋は通せるらしいし、俺はちゃんと支払ったし筋は通している。なら俺は問題ない。


 問題なのは…、


「ん、何?」


「何じゃないんだよなぁ」


 なんでこの子は知らなかったのか。〈獣王ガルタイガ〉に渡すはずだった契約金を装備に使ってしまったカルアが首を傾げたのだった。

 うん。多分、覚えられなかったんだなぁ。カルア、もう少しだけ物覚えが良くなろうな?







 その後の結末を少しだけ語ろう。


 セレスタンと俺に連れられてAランクギルド〈獣王ガルタイガ〉の調整役というメンバーと会うことになったカルア。


「もう! カルアのバカ、アホ、トンチンカン! おたんこなすー!」


「むふふ。痛くない」


 調整役という子はカルアと同じ団出身の三年生でカルアの知り合いだった。名前はミミナちゃんというらしい。

 ミミナちゃんは例の理由を聞いたとたんカルアに飛びかかり、罵倒しながらポコポコパンチを繰り出した。しかし、職業ジョブの恩恵を得てしまったカルアには痛くも痒くも無いようだ。HPは一定以上の衝撃を肩代わりするからな。


「まったくもう。今回はカルアだから仕方なく待ってあげますが、次からは気をつけてくださいね。今年は獣王の息子さんが最上級生なのですから、あの人を怒らせたらどうなるか……、まあ何も起こらないかもしれませんが」


 何も起こらないんかい。

 しかし、カルアだから仕方ないとは。団でのカルアの扱いが分かるかのようだ。


 結局のところ、カルアが使ってしまったミールに関しては、カルアが稼いだ収入で支払うことが決まった。まだあまり使ってなかったため500万ミールはすぐに貯まるだろう。

 カルアは「私のミールが…」と涙を浮かべていたが、カルアのではない。


 ちなみにカルアの分配は他のギルドメンバーより少しだけ少なめで決まった。ただちゃんとギルドからの貸与も適用されるし、備品も使っていいのでさほど変わりはないが。


 あと、カルアの引き抜きの額だが500万ミールで問題なく片がついた。これで【スターキャット】の億超えの引き抜き額を請求されたらカルアとはバイバイになっていたので本当に良かった。しかしその理由が「むしろカルアを引き取ってくれてありがとう」だったのが少々難儀だったけど。


 とりあえず、そんなところで話が纏まり、ミミナちゃんは帰っていった。


「セレスタン、助かった」


「恐縮です」


「カルアは反省しなさい」


「ごめんなさい」


 はあ、でも円満解決しそうで良かったよ。




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