第100話 しゅごい…。〈モチッコ〉がたくさん…




「ちょっと! あのモチッとしたぬいぐるみは何よ! 可愛いじゃない!」


 目ざといラナの目が光る。発見したか。


「私から語らせてもらおう」


 そこにリカがキリッとした表情で前に出た。

 説明じゃなく語るって言ったか? 何が起こるんだ?


「別にいいわ。それよりちょっと触らせて!」


 しかしラナが断った事により何も起こらずに終わった。


 リカは消沈の表情だ。なんてことを…。


 見かねたシエラがリカに話しかける。


「話は変わるけど、リカの職業ジョブは?」


「コホン。いえ、実はお恥ずかしながら未取得でして」


 咳払いして空気を一度リセットするリカがシエラに答える。


「じゃあ、ゼフィルスに頼めば良いわ。絶対希望通りの職業ジョブに就かせてもらえるから!」


 ぬいぐるみに飛びついてモチモチしているラナから提案が飛んだ。

 振り向けばハンナとエステルまで〈モチッコ〉ぬいぐるみに触りに行っている。

 〈モチッコ〉ぬいぐるみ大人気だな。〈幸猫様〉に魔の手が伸びる事も無い。それだけでも12万ミール出した価値があるぜ。



「それなんだが、まだ希望を聞いていなくてな。――リカ、目指したい職業ジョブはあるのか? 良ければいくつか紹介してやれるが?」


 「侯爵」の職業ジョブは非常に強力だが、ギルドに2名しか参加出来ない仕様なのでどのルートに育てるのかいつも悩みの種だった。


「ふむ。確かに先ほどもゼフィルスから就きたい職業ジョブに就かせられると聞いていたが、あれは冗談ではなかったのか?」


「冗談なんかじゃないわよ。ここに居る全員、ゼフィルスから教えてもらってこの職業ジョブに就いたんだから!」


 何故かラナが胸を張ってドヤ顔だ。

 俺自慢ですか。指摘してやればまたあわあわしたラナが見られそうである。

 話が折れそうなので今回はやめておいてやろう。


「希望がなければ俺がオススメする四種を紹介したいんだが、いいか?」


「あ、ああ。では、そうだな。頼む」


 「侯爵」はまず代表的な4つのトップ職業ジョブがあった。

 【武士】系で最強の攻撃力を誇る【鬼浪人】。

 同じく【武士】系で近接アタッカーorタンクをこなす【姫侍】。

 また【武士】系で守りに秀でる【もののふ】。

 そして特殊系で魔法使い系の【深窓の令嬢】。


 この内、【姫侍】と【深窓の令嬢】が〈姫職〉にあたる。


 一応【鬼浪人】と【もののふ】も紹介したが、彼女は「姫」なので是非〈姫職〉から選んでほしいものだ。


「む、むう? 聞いた事のない職業ジョブがあるのだが?」


 リカは【深窓の令嬢】について首をかしげた。まあ、そうだろうな。

 ゲームでも、とあるクエストをしている最中に侯爵家に隠された書庫を【中二病】の『我の邪眼に視えぬ物無し』で発見して初めて発現のヒントと名称が分かる仕様だった。


 ちなみに、発現方法さえ分かってしまえばクエストをわざわざこなす必要が無いので【中二病】の地位はそのままだった。攻略サイトには1021職の条件が全て載っちゃってたからなぁ。


 おっと話がそれた。

 俺は詳しく特殊ルートについて語って聞かせる。

 しかし、リカの反応は鈍い。


「なるほど。そんな可能性が私にはあったのか。しかし、すまないが私は武士の娘だ。魔法使いに転向するには時を使いすぎた」


 むう。

 残念だが、これもリアルの弊害だろう。今まで武士になるために知識と力を蓄えてきた者を、魔法使いになれる可能性があるからと転向させる事は難しい。

 強いんだけどなぁ、箱魔法使い。


 まあ仕方が無い。

 ということで、リカはもう一つの〈姫職〉を選ぶ事にしたようだ。


「【姫侍】、まさか本当に私がなれるのだろうか。才気溢れる姉たちですらたどり着けなかった頂に?」


 まあ、この世界の人にとっては半信半疑だよな。ラナたちも最初はそうだった。


「ま、騙されたと思ってやってみな。当れば儲けものだろ?」


「いや、ゼフィルスの言う事だ。そなたの言葉には不思議な説得力がある。おそらく本当の事なのだろう。ただ私は常識に囚われ、事実から目を逸らしているだけだ。すまないな」


「別に謝るほどの事ではないけどな」


 とりあえず方針は決まった。

 じゃあ早速、と行きたいところだが、先約があった。

 もう夕方近く、マリー先輩の授業も終わっている事だろう。


 リカの職業ジョブは夜に回すとして、まずはマリー先輩の下に向かう事にした。






「マリー先輩居ますかー?」


「いるで~」


 せっかくなので全員で〈ワッペンシールステッカー〉にやってきた。

 店に入って声を掛けると、長いツインテールをフリッフリさせながら小学生高学年にしか見えない人物が現れた。いわずもがな、マリー先輩である。


「ほほう? なんやメンバー増えちょるね」


「二人ほど増えたんだ。今日はその片方の装備を作りたくてな。ついでに査定表についても交渉したくて、いつの間にか全員で来る事になった」


「なるほどな。ここやと狭いから奥使おかぁ」


 確かにマリー先輩の言うとおり、店の入口に7人は窮屈だったので、先導に従い奥の大部屋まで進む。


 そこで買い取りに出していた〈クマアリクイの大毛皮〉を一枚キャンセルにしてカルアの装備を作りたいと交渉する。


「かまわんでぇ。うちらで扱わせてもらえるのなら文句は無いわぁ」


「マリー先輩は話が早いぜ」


 ということで早速カルアが採寸されることになった。

 俺はそそくさと店に戻る。さすがに採寸に男は参加出来ない。


 他のメンバーはリカを除いて残ることにしたようだ。

 俺は昨日の初級中位ショッチューの査定が済んだのでミールを貰い、これからリカと職業ジョブ条件を満たしに俺の部屋へ向かう事にした。

 ここに残っていても、だしな。


 ちなみにナイトゴブリン20周の買い取り額はザコモンも含めて780万ミールになった。

 ボス一回につき30万ミール前後だな。なお宝箱も含めてだ。

 レア銀箱ドロップ系は売らずに回収してある。採集系はほぼハンナ行きなので売っていない。

 するとこんなものだろう。5人で等分して1人156万ミールだ。


 これで俺の全財産は198万ミールだな。四捨五入して200万ミール。とりあえず危機的数値は脱したか? いや、できればもっと稼いでおきたい。


 ちなみにその報酬額を見てリカが「しゅごい…。〈モチッコ〉がたくさん…」と若干トリップしていた。君もかい。

 〈モチッコ〉はアレ一個しかないぞ?




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