第99話 スカウト完了。これがモチッコの魔力なのか?
「というわけで、ギルド〈エデン〉に入れば特大〈モチッコ〉モチモチぬいぐるみがいつでも触り放題、撫で放題だ」
「入ります!」
即決だった。
ちょこっと〈モチッコ〉ぬいぐるみについて、お金が貯まるまで数ヶ月掛かるかも知れないねと危機感を煽ったところに、ギルドに入ったら以下略と言ってみたところ、リカは簡単に飛びついた。
もっと色々考えなくちゃいけない事があるんじゃないの、と心配になるレベルだ。
よく考えたら「姫」なんだから実家から装備の援助とかもあると思うし、そうすればソロでも
それに別に騙したわけではない。一般論だ。俺、リカが「侯爵」令嬢ってまだ教えてもらってないのでセーフである(アウト)。
あともちろん、スカウトを掛ける前にギルドの理念や目標については教えてあった。
しかし、一つだけ懸念。
リカにSランクギルドを目指すだけの覚悟があるのだろうか? ちょっと不安に思う。
………まあいいか。
ここはリアル〈ダン活〉の世界。
抜けたいと言うのであれば俺の魅力が低かっただけの事、ギルドの加入条件や理念を受け入れたのにやる気が無いのならば〈脱退処分〉すれば良いだけの事。それもゲームである。
だが、簡単に抜けられないように釘は刺しておこうか。
「言い忘れていたが、リカがギルドへ加入するなら〈モチッコ〉ぬいぐるみはギルドの共通財産になる。先ほどの話はなかった事になるが、構わないか?」
「無論だ」
先ほどの話、俺が一時的に預かってうんぬんというやつである。
つまりリカは今後、もし脱退したとしたら〈モチッコ〉ぬいぐるみは二度と手に入らない、触ることも永遠にできない、という事だ。
………弱い縛りだなぁ。いらないと言えば簡単に脱退できてしまう。なのにリカが脱退するところが想像できないのがすごいところだ。
そんなに特大〈モチッコ〉モチモチぬいぐるみは魅力に溢れているだろうか。
〈モチッコ〉ぬいぐるみを見る。なんか、モチッとしている。
確かに可愛いけど、いつの間にこれはプレゼントアイテムになったのだろうか? 俺、知らないよ?
〈モチッコ〉ぬいぐるみはギルドに着いたところで〈
これで〈幸猫様〉への魔の手が防げれば良いのだが…。
と、そこまで考えたところでギルドの扉がガラリと開いた。
「あら、ゼフィルス居たのね!」
「ん? ああ、みんな一緒に来たのか?」
ラナを先頭にゾクゾクとメンバー全員が部屋に入ってきた。全員一緒だったらしい。
外を見ればいつの間にかだいぶ日が傾いてきていた。
ずいぶんと、長く悶着していたらしい。
「ん。誰?」
「どうしたのカルアちゃ…、ゼフィルス君。その子どなたです?」
ハンナの声に全員が奥に座るリカへ向く。
「ああ。たった今ギルド〈エデン〉に参加する事になった。リカだ」
「一年生のリカだ。これからこちらのギルドにお世話になる。よしなに頼む」
席を立ったリカが
黒髪のポニーテールがふらりと揺れ、視線が思わず行ってしまう。
「また女の子! もうゼフィルス! あなたさっき知り合いは尽きたって言っていたじゃない! 少し目を離した隙に新しい子また引っかけてきて!」
「ら、ラナ様、落ち着かれますよう。口調が乱れています」
何故か戦力になりそうな新メンバーを確保してきたというのにラナが荒れていた。少し慌てたエステルに窘められている。
「綺麗な人ですね」
「ん、美人」
それに比べ、ロリッ子組は羨望の眼差しをリカに送っていた。
帽子を脱ぎ、素顔をさらしたリカは、思わず視線が釘付けになるほど美少女だった。
また彼女はシエラとは違ったスタイルのモデル体型で、高身長に加えキリッとした凜々しい雰囲気を放っている。
さすが【武士】の家系、「侯爵」の令嬢だ。和服を着せて髪を降ろしたら大和撫子な女性になりそう。
「あら、リカじゃないの」
「シエラ! あなたもメンバーだったのですか。それに王女様も?」
「知らなかったの?」
「ついさっき知り合ったばかりだからな。その辺最低限の説明しかしてなかった。今から説明するところで皆が来た、というわけだ」
リカが〈エデン〉のメンバーに驚きの声を上げシエラが何故かこっちを責めるように見る。
いやぁ、突然決まったからなぁ。まだ
「まあいいわ。それにしてもリカはこちらで良かったの? お姉さんがいるギルドは…、ああ、そういえばあそこは無理ね」
「はい。せめて優秀な
【ブシドー】は中位の上ランク。確かに「侯爵」「姫」のカテゴリーを持つ彼女には物足りないだろう。発現条件は満たしているが、【ブシドー】を本当に取得してしまって良いのか迷っている感じか? 絶対やめた方が良いぞ、勿体ない。
ちなみに関係ない話だが、【ブシドー】は俺も発現可能だったりする。
これは「主人公」がほとんどの
閑話休題
「リカとも知り合いなのか? シエラって結構顔が広いよな」
「リカの家とは特別よ。元々家同士の交流もあって歳が近かったから、リカたちの姉妹とは昔よく遊んだわ」
「私は4姉妹の末っ子にあたるのだけど、姉が皆歳が近く、シエラや他の女子も含めて同じグループでな。あの頃は楽しかった」
久々の再会なのだろう。シエラとリカは心を躍らせているように見える。よほど仲が良かったのだろう。お互い積もる話もありそうだ。
「年が近い姉妹か、この学園には誰か来ているのか?」
「誰か、というか全員居るな」
なんと…。そいつは驚いた。「侯爵」で「姫」が四人も、これは是非チェックしておかなければならない。
「長女はすでに卒業していてな。ここで教員として働いている」
なるほど。なら長女は除外だな。〈ダン活〉は学生のみしかスカウト出来ない仕様だった。
「次女と三女は同じギルドに入っているのだが高ランクギルドに所属していてな、先ほどシエラも言っていたように新入生の私がコネで入れていただくわけにはいかないんだ」
高ランクギルド所属か。まあ「侯爵」で「姫」だからな。納得の理由だ。
分不相応のギルドは身を滅ぼす。この世界の常識だ。それはたとえ姉妹だとしても適用される。
しかしずいぶんと、聞いた事がある気がするな。俺の脳裏にとある新任教員と袴姿で黒髪ポニーテールの先輩の姿が
「私は発現方法について姉たちに指導をしてもらっていたのだが、なかなか上手くいかなくてな。そんな折、ゼフィルスから声を掛けてもらったのだ。正直、他のギルドは姉たちの所属するギルドに遠慮して勧誘の話は全く無くてな、渡りに船だった」
リカが今までの経緯も含めて語ってくれた。
なるほど、リカはリカで自分の今後について思案していたところに俺からスカウトされたからあんなに簡単に加入を決めたのか。
世間知らずなお嬢様で、ぬいぐるみに釣られて入ったのかと思っていた。すまんリカ。
「こんな私だが、これからはギルド〈エデン〉の所属メンバーだ。一度入ったからには真心込めて尽くす所存だ。みんな、改めてよしなに頼む」
「いいわ! 新メンバー加入は良い事よね! 歓迎するわよ!」
いち早く反応したのはラナだった。さっきまで騒いでいたのが嘘のようだ。
ま、ツンデレだからなラナは。そんなラナが好きです。
続いて他のメンバーもリカに自己紹介で返事を返していく。
「ん。カルア。よろしく」
「私はハンナと言います。よろしくお願いしますね」
「エステルです。ラナ様の護衛に就いています。よろしく願います」
「頼りにしているわよ、リカ」
ラナだけ自己紹介しないのはお察しだな。
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