第88話 俺も大金に感動で打ち震えた時代があったんだ




「びっくりした」


「おう。カルアも〈覚職かくしょく〉おめでとう。これで君も【スターキャット】だ」


 夜も9時になって効率的な発現方法を一緒にチャレンジした結果、現在〈竜の像〉の前で目をまん丸にしたカルアが完成した。


 一番時間が掛かる〈1週間以内に200km走る〉はすでにクリアしていたみたいで良かった良かった。


 残ったやつは全部簡単に済むものばかりだったからな。

 そんなに時間は掛からなかった。

 なのに9時まで掛かったのは、何故か俺がまた女の子を部屋に連れ込んだという噂が広まっていてフィリス先生が確認に来たせいだ。またかよ!? 誰だ通報したのは!


 今回はあらかじめ寮母さんに許可を取っておいたので事なきを得た。

 ただ、今回フィリス先生がやけに追及してきたのが気になった。


「すごい。私。【スターキャット】!!」


 うむうむ。喜んでくれて俺も嬉しいぞ。

 何故かシエラたちの時は疲れた顔されたからな。

 念願の高位ランクの職業ジョブに就けたんだぞ? もっと喜べばいいのにな!


「さて、これで心置きなく契約が出来るだろう?」


「うん。私、役に立てる。ゼフィルスすごい!」


「まあな!」


 褒められると気分がいい。もっと褒めてもいいぞ?

 というわけで契約金500万ミールを支払う、これにてカルアはギルド〈エデン〉のメンバーだ。スカウト完了である。


「すっごい大金」


 初めての傭兵業で得た大金。

 ミールが表示された学生手帳の画面をキラキラした視線で見つめるカルア。

 俺にとって中級に行けば吹けば飛ぶ金額でもカルアにとっては未知の金額なのだろう。


 今のうちにその感動をたくさん感じておくと良い。すぐに味わえなくなるからな。

 俺もウン千万や億のミールを稼いで感動に打ち震えた時代があったんだ。あの頃は若かった…。


 ま、カルアを育てれば簡単に元が取れる金額だ。この程度の金額で【スターキャット】がメンバー入りしてくれるんだ。むしろ凄まじいお買い得だった。本来なら3年間雇うのスカウトに億が掛かるからな。

 「猫人傭兵」は一度参戦したら抜ける事はないし追加でミールを支払う事もない。ちゃんと卒業までギルドに在籍してくれる。一度結んだ契約は守る、というのも傭兵業の主義の一つだ。


 まあ、3年間の間に実力が大きく逆転してしまうと実力主義の関係上さらばになってしまうのでしっかり「主人公」を育てる必要はある。が些細な問題だろう。「主人公」を育てないなんて状況はあまりないからな。


 しかし、おかげで俺の残金は58万ミールになってしまった。

 おおう、せっかく貯めた金だったのに。また貯金しないとな。


 ま、それは置いといて、


「まずはそれで装備なんかを揃えるんだが、ギルドメンバーになったからにはギルドで余った装備なんかは使って良いぞ。武器は何を使う? 戦闘スタイルは?」


「ナイフ、ダガーの二刀流。手数で勝負」


「了解。短剣なら1本ギルドにあるぞ」


 確か〈アリゲータートカゲ〉の〈銀箱〉で手に入れていたはずだ。


「短剣系を使う他のギルメンはいないからそれをまずは使うと良い。あ、もしかして自分のがあるか?」


「1本しか無い。ありがたく貸してもらう」


「おーけー。なら後は防具、特に体装備だな。何かあるか?」


 「猫人」は貧乏という設定上、ゲームでは装備を何も持っていなかったはずだ。学園支給の〈初心者装備一式〉は持っているはずだが。

 案の定カルアは首を振る。


「じゃ、さっきぶつかった時に俺が出てきた店があっただろ? あそこで作ってもらうか」


 ラナたちが当てた〈クマアリクイの大毛皮〉はまだ正式に売却していなかったはずだ。査定表が俺の手元にあるからな。マリー先輩に言って一個だけキャンセルしてもらいカルアの身体装備に回そう。もちろん、ラナたちに許可を取ってからだ。


 そんな感じでいくつか決める事を打ち合わせる。


「あとは、一緒に攻略するメンバーだな」


 俺たち〈エデン〉のギルメンは新メンバーのカルアを抜かして初級中位ショッチューを攻略中だ。

 今ノリに乗っているところなので、新メンバー育成のためとはいえストップするのは出来れば避けたい。


 となると他にも新メンバーをスカウトするか、別で野良パーティを組んでもらうか、いくつかの方法がある。

 ちなみにギルドメンバー以外とパーティを組むのは問題なかったりする。そこまでがっしり拘束はしない。

 そのため、別々のギルドに参加しているのに固定パーティを組んでいる所もあるくらいだ。


 まあ、ギルドの中で戦闘メンバーが五の倍数になる事はあまりないからしょうがない。

 うちではハンナが生産職なのに攻撃武器を装備して無理矢理戦闘に参加しているからな。そういうのも有りだが。


「ゼフィルスと一緒にダンジョン行きたい…」


「レベルが圧倒的に足りないな」


「あう」


 俺のメンバーには今は入れられない。さすがに初級上位ショッコーにはハンナはついてこられないと思うので、メンバーチェンジはその時だな。

 ハンナにはしっかり生産で活躍してもらわないと…。なんかずっと付いてくる気がする。


 しかし、どうも口下手のきらいがあるカルアを野良で育てるのもなぁ。

 となると新しいギルメンを募集してみるのも有りか?


 どっちみちギルドバトルをするには10人は集めないといけない。

 ギルドバトルは〈10人戦〉が基本だからな。

 ギルメン募集も遅いか早いかの話か。


 なら明日にでもみんなに相談してみるか。

 俺にはもう心当りは居ないし、良い「人種」カテゴリーの人がいたら紹介してもらおう。


「まぁ、まずは明日、ギルドメンバーに紹介するから。今後の話はそれからだな」


「ん、わかった」


 そういえば勝手にメンバー増やしちゃったけど、リアルってもしかしてギルメンに事前相談とかしなきゃいけなかったりするのか?

 あ、その可能性もあったか…。ゲームでは全てがプレイヤーの一存でメンバー増やせたから気がつかなかったな。


 チラリとカルアを見る。


「?」


 まあ、こんなに可愛いのだから多分大丈夫だろう。

 ウチのギルドには可愛い物好きの奴多いしな。


 その後、スラリポマラソンでカルアを【スターキャット】LV6にして解散した。




 そして翌日。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る